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消えゆく神の子 第四話
IISS 本部基地
灰色に染まった雲から、雨粒が降り注ぐ。
ザーザー降りの雨なのに、地面に落ちると儚く散って言った。
滑走路にジェット機が着陸すし、キーッと音が鳴る。
「帰ってきたわ!」
会議をしていた建物の中からベランダに、待ってアリアたちが出てくる。
「雨も相まってか、あんまり喜ばしい雰囲気じゃなさそうだな……」
ジェット機から降りて来た天野とエースは明らかに暗い雰囲気になっていた。
ジェット機後方の扉から少女が一人、担架で運ばれてきて、天野の前を横切る。
担架が通り過ぎると、目の前にMrマークいた。出迎えに来てくれたのだ。
天野は1歩近づき、
「一人、救えなかった……」
と言ってMrマークの横を過ぎていった。
Mrマークは何も言わず、目線も変えず、表情も、サングラスを掛けているからか、変わってないように見えた。だが、どこか悲しい雰囲気を感じた。
休憩スペースにて
「……何があった」
ドイツの連邦情報局に所属していたルークが聞く。
「分からない。理解が追い付かないんだ。……俺は、夢を見てるのか?」
「……そうか」
ルークは気持ちを察して、取り敢えず深堀するのは控えた。
「俺たちが関わるには、精神的な負担が大きいかもしれない」
エースが何とか冷静に言葉を選ぶ。
「どうしてそう思う?」
「それは――」
「自分が彼らを助けられるのだろうか、不安なんだろう?」
いつの間にか休憩スペースに来ていたMrマークが言った。
「辛いかもしれないが、君たちが目にしてきた出来事はすべて現実であり、真実だ」
全員が沈黙し、視線はマークに集中する。
「……改めて聞こう。君たちに、この世界と、神の子を……救ってほしい」
この場の全員が『はい!』と頷くことはできる。正義感とか、命令とか、そういうのを考えて、理想的な返事をすることはいくらでも出来る。けど、渋る。人間、決まって決断できない時がある。
この場にいる人たちも同じだ。……ただ一人の例外を除いて――。
「当たり前だ」
少し遅れて、天野が言い放った。
「俺が見ている現実は、俺にしか変えられない。俺の未来は、俺しか変えられない。だったら、しょげてないで、立ち上がって、立ち向かって、救える命、救ってやろうじゃねぇか。……マークさん。俺に出来ることは、なんだ?」
帰ってきてからずっとうずくまっていた天野が顔を上げて言った。頭では、空港での出来事を思い返していた――。
空港
「着いたぞ」
車のドアをバタンッと閉めて天野が言った。
「空港かぁ。写真とかでは見たことあるけど、実際に来るのは初めてだなー」
と男の子が言う。
「町も綺麗だなぁー」
「なんだ?町に来た事ないのか?」
「うん。あの建物の敷地から出たことない」
「マジか……」
どんだけ引きこもってたんだと、思いながら空港のゲートに入る。
さっそくジェット機に乗ろうとするが、男の子が
「トイレ行ってくるねー」
と言って天野たちから離れていった。
「じゃあ待ってるか」
「出発までまだ15分ほど時間が余ってる。お土産でも買うか?」
「お土産?」
女の子がきょとんとする。知らないようだ。
「そんなことも知らないなんて、ホント不思議な子だな」
「まぁそれに関しては追々話してあげるわ」
女の子はどこか上から目線にも感じる口調で答えた。
「ずいぶんと上から目線なんだな?」
と笑いながら言うエース。
そんな談笑を離れたところから見ている人物がいた。
その者は全身黒でパーカーを被っていた。空港の人混みが少ない場所で一人ポツンと。
少しの間天野たちを見つめ続けた男は、ポケットに突っ込んでた手を銃を持った状態でポケットから取り出した。
「死ぬがいい」
変声機を使った声で男は言い、男はトリガーを引いた。
「危ない!」
そう叫んだのは男の子だった。トイレから出て来た男の子は銃を持った男に気が付き、発砲を止めるために飛び掛かった。
しかし、一発目は男の狙い通りに飛んで行く。
「え?」
飛んで行った弾丸が空気を切り裂き、女の子の右肩に命中する。
黒フードの男を押し倒した男の子は振り返り、女の子を見る。
目線の先には肩から血を流して倒れている女の子が見えた。どうやら意識がないようだ。
「き、貴様あぁ‼‼‼」
男の子は懐からナイフを取り出して男を切り刻む。「このっ!このっ!」と声を上げ文字通り切り刻んでいた。黒フードの男は悲鳴の一つ上げず、感情が無いかのように男の子に銃を向けて撃ち続けた。
黒フードの男は体をめちゃくちゃに切り刻まれ、男の子は体のあちこちに穴が開き、血がにじみ出ていく。
天野たちは離れた場所から唖然としながら見ていた。
空港の中にいた人たちも声が出ない様子だった。
しばらくすると、黒フードの男は銃を持っていた手を力無く落とした。
少し遅れて、馬乗りになっていた男の子がバタッと倒れ込んだ。
天野が近づき、男の子の脈を測るが、もう既に死んでいた――。
南極近海 豪華客船『ゴールデンイルカ』
「他の神の子はどこにいる?」
狭い部屋の真ん中で、椅子に拘束された女に聞く。
「知らない」
「そうか……」
ナイフをもった男は近づき喉にナイフを突きつけながら、
「なら、お前を殺して、残りの奴らを殺すまでだな?」
「あんた達が殺せるほど弱い奴は神の子にいないわ。さっさと解放しないとあたしの仲間が助けに来てあんたら全員やられるわよ!」
強気でまくしたてるように言う。
「ほぉ……聞いたか?エリートさんらは、向こうから来てくれるみたいだ。こいつを人質に取ったと嘘の情報を伝えろ」
「っは、何が嘘の情報よ。私は正真正銘ここに囚われているわ」
男は女に近づく。
「もう終わりだ」
と言って女の肺を貫くようにナイフを刺し、抜き取った。
「30分もすれば勝手に死ぬ。それより、時は一刻を争うぞ?」
「はっ!すぐにでも」
一人がそう言って部屋を出て行った。
「いいか?大事なのは情報と計画だ。理想的な嘘が、真実を覆す。それが最大の武器だ!」
仲間を鼓舞するように男が大声で言った。
「我々に逆らう馬鹿どもを、炙りだしてやれ‼」
「はっ!」
男は部屋を出ていこうとドアを開けるが、立ち止まり、
「それと、IISSとやらにも注意しておけ。なにやら不穏な動きをしているからな?」
「もし見つけたら?」
「殺せ」
捨て台詞のように言って、男は部屋を出て行った――。