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夜の花見ミステリ 前夜
「もう、桜が咲く季節かぁ……。桜でも見ながら酒を一杯ひっかけようかな」
街には、これでもかというほど桜が咲き誇っており、月あかりが透けて見えていて、それもまた図々しいほどに美しかった。
そして、街の中央へ向かうほどに、明るい行燈を出した屋台たちが並んでいた。
「酒、売ってるとこないかなぁ。どうせなら焼き鳥も食べたい」
|双紗《ソウシャ》が辺りを見回していると、一杯の盃を手にした女がいた。その女は、上掛を羽織っており、顔までは見えなかったが、絹のようにさらりとした長い黒髪が出ていた。
双紗が女をじっくりと見ていると、目線を気にしたのか宝石のような瞳がこちらを覗いた。
そんな女を見て、双紗は何事もなかったかのように、立ち去ろうとした。
すると、女が双紗の手をとり、話しかけてきた。
「あの、お話いいですか?」
双紗は、少し考えてから、言った。
「その酒、一杯おごってくださるのなら」
女が怪訝そうな目で見てきたが、気のせいということにしておこう。
しばらくして、酒を持った女が来た。その手には、さっきのものより少々豪華なように思える。
「こちらでよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます。それで、話とは?」
「そうですね…。これは…」
長話になると思い、双紗は、酒を一口、口に含んだ。
これは、宝石商をしている、ある一人の男性の話です。その男性は、私の書道の師でもありました。ですので、ここからは師と呼ばせていただきます。
師は、商いを行っているため、とても聡明な方でした。ですが、病にはあらがえず、先日ぽっくりなくなってしまいました。まあ、もう子も成人しておりますので、もうそろそろかと覚悟はしていたのですが。
ですが、師は、弟と、二人の娘、そして、弟子なかで、おそらく一番親しかったであろう私にも、形見が配られました。
配られたものは、西方製の絹の手ぬぐいでした。
その手ぬぐいには、異国の言葉が、それぞれ刺繍されていました。
師の弟の手ぬぐいには、石、師の長女のものには、恋、次女には予感。そして、私のものには、月と刺繍されていました。私は、師から異国の言葉を軽く教えてもらっていましたので、どうにか読めました。
そして、師の遺書にはこう書かれていました。「暗号を、解けさえすれば、桜の幻を知ることができるであろう」と。
ですが、私たちには、その謎がわからず……。
と、いうことなので、あなたに、謎解きをお願いしたいのです。
「なるほど、大体の経緯はわかりました。ですが、なぜ私を?」
「私をよく観察していたようなので、そのような観察眼があるなら、と。それに、異国語の冊子が、初めて会った時、胸元から少し見えましたので。異国語が理解できるということは、それなりの学がありそうなので」
双紗は思わずはっとしてしまった。いや、それほどに驚かされてしまった。異国語が理解できている時点で、侮らない方が良かったかもしれないと、双紗は後悔した。
その日は、帰って情報をまとめることにした。
情報1 手ぬぐいには、異国語で刺繍されていた。そのため、女の師も異国語を理解していた。
情報2 弟には、石。長女は恋。次女は予感。そして、女には月。
(情報少ないなぁ……。それで、石か……。宝石商ということだから、石は、宝石ということでいいのかな)
狭い部屋の中で、一人ポツリ、寝台にもたれかかり考える。齢20の双紗の家は、狭い狭い一軒家だが、寝台と机、棚がどうにかある程度で、ものが散乱している。
その中には、異国語のとある文章が落ちていた。
「……」
ひとまず、もう夜も遅いため、寝ることにした。
翌日、女に師という人物の家に行きたいと言うと、師の家族に会わせてくれた。
出てきたのは、大人っぽい女性二人だった。恐らく、師の娘だろう。
「|雪蘭《シュラン》さん、この方が?」
「はい、そうです」
女は雪蘭というそうだ。
「私は、双紗と申します。雪蘭さんに頼まれましたので、調べるために来ました」
「そうだったのですね。私は父の次女です。こちらは、私の姉です」
「どうぞよろしく」
次女は、見た目通り静かで礼儀もなっている。だが、長女は少しツンとしていて、双紗も楼寧も快く思われていないようだった。
(まあ、当然か。雪蘭さんだって、ただの弟子だから形見が贈られたのも、よくは思えないか……。それに、私はほんとに部外者だもんなぁ……)
今更、双紗は酒代ぐらい自分で払っておくんだったと後悔した。
「あの、双紗さん、本当にその刺繍は、暗号なのでしょうか?私たちへのメッセージということは……」
「それは、わかりません。その可能性は無きにしも非ずです。それを調べるにも、情報が必要です」
「そう…ですね。わかりました。では、父の部屋にご案内します」
次女は観念したのか、ようやく家の中にいれてくれた。
家の中は、思ったよりもよい造りをしていた。ただ、使用人がいるのか、一人ほどしかいないのかで、あまり綺麗とは言えなかった。
「こちらが父の部屋です。一応、散らかったものを片付けた程度ですので、なくなったものはないはずです」
「わかりました。では、棚を見てもいいですか?」
「ええ」
長女はあまりいい顔をしていなかったが、次女から許可をもらえたので、棚を見てみることにした。
棚は、三つあり、左から見ていくことにした。
まず、一つ目は服がしまってあるだけのようで、特に重要そうなものでもないし、男性の物なので、軽く調べて終わりにした。二つ目は、一番高価そうな棚だった。中には、帳簿や、宝石などの類が、それぞれ丁寧にしまわれていた。
帳簿を軽くパラパラと見てみたが、特に不自然な点はなく、何かが挟まっているわけでもなかった。
最後の棚は、本棚だった。本は、結構いい値がつく場合もあるので、これほどまでに集めたのか、と思わず感嘆の声をあげそうになる。
その中で、双紗は一つの本に目が留まった。
「これは……」
「それは、西方の有名な詩人、|楊琴《ヨウキン》の詩集です。父は、「酒豪で豪胆な性格なのに、どうして繊細な詩が詠めるんだと」好んでおりました」
しおりが挟まれているページがあったので、そこの詩を読んでみた。
『夜桜の 咲き散る 儚さの中
月長の
一筋の 自らの光
それは 幻か それとも現か』
この詩は、儚い中でも強く己の意志を貫く人物を表した詩だ。
特に、貴族の一部の女性や、妓楼の女性などに受けているらしい。
「ちょっとこの詩、借りてもいいですか?」
「えぇ、まあどうぞ」
と、いうことでしばらく資料を読み漁ることにした。
正直、その詩の部分だけを写せばいいのかもしれなかったが、他の詩にも何かあるのかもしれない。と、いうことで決して写すのが面倒だったわけではない。
(まず、月長ってなにを意味するんだ?『脹』という漢字はあるけども、流石に出版されてるものに書き間違いはないよなあ……。月長って、月の長い光を表してるのか?語呂がよかったのだろうか……)
ともかく、思い詰まったし、疲れたので、昼寝でもすることにした。
みなさんこんにちは。
基本的に短編を投稿しますといいながら今のところシリーズものしか書いていない彩ノ宮です。
今回は結構推理な物語となっております。頑張って種を考えたので子供が考えたにしては割と本格的なはずです。
と、いうことなので続きは明日の大体同じ時間に投稿しますので、お楽しみに。
あと、完結したら、あとで日記になんか解説(?)みたいなのを書いておきます。ですので、それも確認していただけたら幸いです。
それではまた。