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雨音に包まれて
2025/6/12 18:55:38
・雨音に包まれて
雨の日特有の異変が職場内に現れる。どこぞのタイミングで流行った『8番出口』のような異変。
通勤時間の朝のタイミング。僕よりも先に到着したらしい人々のせいだ。自販機や休憩スペース、廊下など。一応PCやプリンター、課ごとの島に対して配慮されているが、職場の雰囲気を乱しているには変わりない。
正体は、広げたまま置かれた傘の数々である。
たぶん、というか絶対。確信犯だろ。
傘についた雫を乾かしている。回り疲れたコマのように、コロッと。傘の布地越しに斜めになった支柱が覗き見える。誰が最初にやったか、よく知らんが、この異様なアジサイの傘は、雨が降るたびに増えているような気がする。
僕はその異様な傘の数に辟易しながら、傘立てに傘を立てに行く。そして、自席につく道のりにて、もう一度チラリと見た。
ここ、共用スペースなんだけど。
という、感想。異常。しかし、呆れたことに、もう慣れてしまっている。
コロナ禍みたいなものだ。内定を頂いたあと、初めてこの職場に来た時よりかは、マシになった。これが慣れというものか。
小中学生なら、傘の柄が華やかになるだろうが、ここは社会人の日常的空間。色合いは地味で、大きくて。燃えるゴミの日のごみステーションのように、くすんだビニール傘が置かれている。
あまりに異様さが際立ったのだろう。
先日、イントラネットでメールが流れてきた。
「床が濡れるし、湿気がこもるので、ちゃんと傘立てを使いなさい」
普段はひたすらに硬いWord文書なのだが、この時ばかりは清々しいくらいに文字の分量が少なかった。1枚の半ページも使っていない。職場内にてクレームが来たから対処したのだろう。「やれやれ」である。
効果はいかほどだろうか。この幼稚園児たちの多いビルが、雨音に包まれる日が少しだけ楽しみである。