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アステシアの探し物 1 ルピナの涙と銀の髪
その銀髪は、風に吹かれるたびに冷たい光を撥ねのけた。
肩先で切り揃えられた銀髪の間から、長い横髪がカーテンのように揺れ、感情の読めない白い瞳を縁取っている。
アステシア。今はただ「シア」と名乗るその魔法使いは、道の真ん中で足を止めていた。
「……シアさん、 またそんなところで止まって! 今日中に次の街の宿に着かないと、夕食なくなりますよ!」
背後から弾けるような明るい声が飛んでくる。桃色のポニーテールを跳ねさせ、大きなリュックを揺らしながら駆け寄ってきたのはクレアだ。彼女は手にした弓を肩にかけ直し、少し怒りながらシアの顔を覗き込む。
「ほら、カイルくんも言ってやってください!」
「まあまあ。シアのことだ、きっと高度な索敵術式でも展開して、魔物の気配でも探ってるんだよ。なあ、シア!」
栗色の短髪をくしゃりとかき上げ、身の丈ほどもある大剣を背負ったカイルが、明るく笑いながら追いついてきた。期待に満ちた二人の視線を受け、シアは道端に咲く一輪の水色の花を見つめたまま、淡々と答えた。
「……いや。ただ、この花の名前を思い出せなくて」
二人は一瞬、きょとんとした顔で固まったが、すぐに顔を見合わせて「わあ!」と声を上げた。
「それ、『ルピナの涙』ですよ、シアさん! 昔のお姫様の涙から咲いたって伝説があるんです。もしかして、ロマンチックなものがお好きなんですか? 意外です!」
「へえ、さすがシアだ。花一つにも深い魔道的考察を巡らせてるんだな。俺、一生ついていくぜ!」
シアは無表情に、しかし少しだけ困ったように眉を寄せた。かつての彼女なら、足元の花など踏み潰して最短距離を突き進んでいただろう。標的を殺すための角度、魔法を放つための最短秒数。効率こそが、裏社会で「死神」と呼ばれた彼女の世界のすべてだった。
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ふと、脳裏に懐かしい声が蘇った。
ルピナの涙。あの人が好きだった花だ。
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「……非効率ね。けれど、音の響きは悪くない。クレア、カイル。そんなに騒ぐと、周囲の魔物を寄せることになる。」
「大丈夫ですよ! 魔物が来たら、シアさんが瞬きする間に片付けちゃうんでしょ?」
「そうそう! 俺たちの師匠は最強だからな!」
屈託のない笑顔で笑い飛ばす二人。
かつて死線を潜り抜けてきた彼女の鋭い「殺し屋の感覚」は、今やこの明るすぎる二人組が呼ぶ「シアさん」「シア」という響きに、少しずつ、けれど確実に浸食され始めていた。
「……行くわよ。暗くなると、夕食の効率が落ちる」
シアは再び歩き出した。二人に合わせるため、少しだけ速度を落として。
探し物は、まだ見つからない。
けれど、血の匂いしか知らなかった彼女の視界に、今はクレアの桃色の髪と、カイルの透き通る声が、シアの心に響いていた。
結構自信作!