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10.法令発布3
先生がやってきた。やっと授業が始まるのね。
…。
あぁ、暇だわ。
先生たちには異常は見られないということだしい良いのだけど。
…と思っていたら。
「クラン・ヒマリア。」
唐突に名前を呼ばれた。確か今は歴史の時間。先生は…伯爵家出身だと思うのだけれど…。わたくしを呼び捨てにしてしまって大丈夫かしら。
「クラン・ヒマリア、返事をしなさい。」
高圧的な方ですね。あまり好きになれなさそうな方ですわ。
「…何でしょうか?」
「我が国が誇る英雄を答えなさい。また、彼が成し遂げた偉業も答えなさい。」
英雄とは、預言者によってその存在が決められる。そして、
「ナルート・アンザス。大神殿を攻撃から守ったときの最功労者として、英雄に選ばれた。」
「そうだ。彼は何故かよくわからない言語しか喋れなかった。それを補助したのがエンラート・ヒマリアだ。彼は…」
あぁ、なぜ当てられたかが分かりました。
エンラート・ヒマリアを祀り上げることによって、わたくしに取り入ろうという魂胆ですね。そんなものに流されるなどありえないと分かるでしょうに。…いえ、分からなさそうですね。ですからこんなことをやっているのでしょう。なんとつまらないことか。もう少し知恵を絞ってみてはは如何でしょう?
「その英雄が平民出身だったおかげで、平民もこの学園に通えるようになった。そして彼が活躍できたのはエンラート・ヒマリアによるものだ。だから、平民出身者はヒマリア家に感謝しなければならない。」
…。はぁ!?想像の斜め上を言ってくれたわね!想定していたものよりもはるかに愚かだったわ。そんなに下劣なことをしてまでわたくしに取り入れたいのかしら?後でお父様に報告しましょ…あぁ!お父様はこういう取り入るやつを探すために何かやって、その結果わたくしが被害を被っているのではないかしら?だったらお兄様達も同じ目にあっているのよね。安心したわ。
そして、次の魔物学の授業。
「クラン・ヒマリア。」
あぁ…また呼ばれてしまったわ。
「何でしょう?」
本当なら返事は「はい。」なのだけど、許してほしいわね。
「そなたは…先日竜を殺したそうだな。」
「はい。」
どうせ倒し方を聞いてくるんでしょう?飽きましたわ。
「場所はどこだ?」
あら?真新しい質問ね。
「実家のそばのリルトーニア林の中です。」
リルトーニアは王家の名字。その名を冠した森は広い。だから、実家のそばと言うことで具体的な場所も教えた。これで沈黙を貫いてもいいわよね…?
「さて…スターチェ・カンザス。ドラゴンは…どこに生息している?」
「…一般に、我が国には生息しないとされています。」
スターチェ・カンザス。確かヒマリア家と同じ公爵家令嬢。そして…今気付いたけれど、さっきわたくしに話しかけてこなかった少女。
そうと分かれば納得できる。同じ公爵令嬢だもの。媚びる必要はないわね。
「そうだ。つまり…これは何者かの手によって起こったと考えられる。」
それがどうしたのかしら?何者かの手によって普通はありえないようなことが起こる。それが当たり前じゃない。ドラゴンはやりすぎかもしれないけれど。
「私は…神の仕業だと考えている。神は飽いている。飢えを癒やす一環としてそれを行ったとしても…何ら疑問はない。」
あら、少し見直したかも。そういうのもあるかもしれないわね。
そもそも、わたくしの呪いも神々の飽きを癒やす一環だったもの。神官がわたくしに説明してくれたけれど、あれは「神々のいたずら」。また、わたくしはちょっかいをかけられたのかもしれない。
けど…見なさい。生徒はみんな呆れているわよ。わたくし…いや、神殿は「神々のいたずら」を隠している。それを知らない者は、なぜこんなただの令嬢に神々がちょっかいをかけるかが分からないはずよ。
「さて…魔物学の教師としては、どうやってそなたが竜を倒したのかに非常に興味があると言っても過言ではない。よろしければ…説明してもらえないだろうか?」
あぁ…せっかく好印象をもてたのに落とさないでほしいわ。
結局、この先生も他の人と一緒なのね。
「よろしければ」説明してほしい。なら、説明はしなくていいでしょう。
「お断りします。」
「何故だ?」
「このクラスの者にはどうやってわたくしがドラゴンを倒したかを知っています。もう一度言う必要はないでしょう。知りたければ、彼らに聞くのがよいでしょう。」
「確かに…私はそなたに意思を確認した。そなたはそれに答えただけだな…なら良い。他のものに聞くとしよう。」
あら、また好感度が上がったわ。好感度を上げては下げて、また上げて…忙しい方ね。いや、これも取り入るためかしら?
「ふむ…翼を風魔術で切って、攻撃は風魔術で相殺して、護衛が30分かけたというのにそれを続けたと…素晴らしい!」
褒められてしまったわ。これは確定で媚を売るためね。こんな当たり前のことで褒められる謂れはないはずだもの。
「他の者もわかったか?ドラゴンに接触したら、まずは羽を切るのだ。」
「分かりません。羽は硬いはずだ。できるはずがない。」
「はじめは敬語だったのだから、最後まで敬語は使うように。シリル・カーソン。」
シリル・カーソン…あぁ、ドラゴンの話題を最初に振ってきた者ね。カーソン家…あまり聞かないわね。下級貴族か平民でしょう。弱いし…平民かしら?けど、先生にあの態度…貴族な感じがするわ。貴族全員をまだ覚えられていないとは…まだまだね。もっと精進しなくちゃ。
…もうあてられることはなさそうね。そう感じ取って、いつも通りぼんやりするのであった。
魔物学の先生を書くのめっちゃ楽しかった!媚び売ってるのは最低だけど
他の小説にもこの口調使ってみようかな?w