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第9話:温泉〈続〉
「棗の種族は分ったけど、フミは?」
「ん?聞いてもなんも面白くないぞ?」
「確かに、予想はできるけど…」
多分、ダークオークとかオーガとかそれに属する魔人だろう。
というか、私はその角を見たらそれしか思い浮かばないよ?
「多分、このははダークオークだとかオーガとかの奴らを予想しているだろうが…どちらも違うぞ?」
何故、フミにも私の心の中が読まれているんだ?
そう疑問に思い問いかけようとしたとき…フミは私の顔を指さした。
「私は、棗みたいに伝説上の生き物的な感じの亜人じゃねぇけどだいぶ長く生きてるからな顔を見れば大体は読めるってもんだ」
なんか、名言っぽく言ってるけど…。
「それでも、私の思考まで読めるものなの?」
「まあな」
本当…?
そう疑問に思ったが…こんな事でいちいち突っかかってたらきりが無いと思いすっと胸の中にしまっておくことにした。
「それで…正解は?」
「鬼人だ。まぁ、いわゆる鬼だな」
鬼?
「その感じ分かってないな…。うーん、日之国と呼ばれる場所がここからはるか遠くにあるんだがなそこをかつて支配していた妖だ」
「あやかし?」
「いわば、魔物のような感じ…だと思う。俺も、詳しくは分らないんだけどな」
「へー。じゃあ、物凄い強い魔物ってことか…。それなら、なんでフミはここに?」
言った後に直ぐ、この質問が不適切ではないかという疑問が脳裏に過り謝ろうとしたらフミが口を開いた。
「負けたんだよ…俺たち、鬼がな。行き場を奪われた俺達は、森に隠れたり海を渡ったり…まぁ、支配者の目の前から消えたわけさ。私は、海を渡ってる最中に船が沈んで気が付いたら魔王領についていた。その時は丁度休戦中でな言葉や文化とかを学び力をつけ実力を証明して…。今に至るってわけだ」
わお…なのと言う事でしょう。
フミは、実力派のつよつよ騎士団長だったらしい。
いやぁ、そんなことも知らず申し訳ない…。
と、内心で謝りながらこれからは丁寧に接しよう…と理想を考えるのだった。
しばらく、雑談や明日の予定について話し私がのぼせかけたところでお風呂を出た。
「あ”~い”き”か”え”る”ぅ~」
私は、風の魔石が埋め込まれた送風機に顔を近づけながら涼んでいた。
隣では心配そうに見ている棗がおり、フミは「温泉の後のは決まってこれを飲まねーと」と言って何か買いに行った。
果たして何を買いに行ったのやら…。
そんな疑問を持ちながら、私はのぼせを治すためという口実の下涼んでいるのだ。
決して、のぼせを治すためではない。
というか、もうのぼせはほぼ完治している。
ただ、涼しいのだ。
この…送風機…例えるのなら、悪魔だ。
私を快楽の沼へと引きずり込もうとしている。
「…様、…のは様、このはお嬢様」
「は、はいっ!」
「そろそろ、髪を乾かさないと風邪をひいてしまいますよ?」
「だ、大丈夫!私、身体強いし…」
送風機から離れたくない理由がまた一つ増えた。
それは、棗に髪を乾かしてほしくないという理由だ。
いや、髪を乾かすのが下手…というわけではない。
丁度いいくらいに氷、火、風の魔法を操り乾かしてくれるのだが…。
その後のクシで髪をとかす時の力が少し強いのだ。
というか、私の全く洗ってこなかった髪では凄く絡まってとかしにくいのも問題ではあるんだけどね…。
一つ弁明させてもらうと、お風呂に入りたくないから入らなかったわけではない。
どちらかと言えば、私はお風呂が好きなほうだ。
髪が長くても歌いながらゆっくりと入るので大好きな部類に入る。
だから、もしお風呂に入る機会があったのなら髪もサラサラだっただろう。
結局、髪は乾かされる…前に、フミが来てくれたのでフミに髪を乾かして貰った。
「で、何を買ってきたの?」
「ふっふっふ…これだ!」
フミは手に3つの瓶を持っていた。
瓶には文字が書かれており、そこには「牛乳」と…。
「牛乳?」
「溶岩牛っていう魔物から取れる乳を加工した物だな」
ま、また魔物だぁ…
「まぁ、上手いから一回飲んでみな」
少し引いているのに気が付いたのか、フミが推してくる。
流石に買ってきたものを粗末にすることは出来ないので一口恐る恐る飲んでみると…。
舌から濃厚な味が広がり口の中全てを満たしてくれる。
「んんんんん~~!!!」
余りのおいしさに、言葉が出ない。
私は、ぐびぐびと音を立てながら牛乳を飲む。
次々に広がる味にいちいち反応は出来ないが…無意識に反応してしまう。
「っかぁ〜!!上手い!」
フミはぐびぐびと一気飲みをした後そう言い放つ。
なんかおじさんっぽいなぁと思ったけど、心にとどめておこう…。
ちなみに、棗は音もたてず飲み終え表情こそあんまり変わっていなかったが凄くご満悦な様子だった。
迎えの馬車が既に温泉街を抜けた場所に止まっており、身体を冷やさないよう馬車に乗り込み今日は終わりとなった。
正直に言えば、とても楽しかった。
ただ怒られたりしたり、色々あって良くも悪くも想いでとなった日だった。
「ふふ、このは様ぐっすりですね」
「あぁ、今日は色々とあったからなぁ相当疲れたんだろう」
馬車に乗り込みしばらくすると、主人であるこのは様がぐっすりと眠ってしまった。
白い髪と黒い髪を上下半々に持つ少女…そんな印象だった彼女はいつしか、私もフミも虜にしていった。
「もう、半年も経っていたのか…あっという間というのか、遅いというのか…」
「そうですね、子供の成長は早いって言いますが…まさかここまでだとは」
「俺達も、長い間生きてたから…かもしれないな」
「私は、まだおばあちゃんではありませんがね?」
「それを言ったら、俺もだぞ?」
「ふふふ」
「あっはっは」
そんな会話の間にも、馬車は揺れながらゆっくりと玄破と鈴音の家へと向かっていった。
本日も、お読みいただきありがとうございました!
いやぁ、GWも終わって…学業やらお仕事が始まってしまいましたねぇ?
え?現実の話はするなって?
現実は、見たくないなら、見なくていい…。
字余りあり…
じゃあ、また次の話で~