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木陰の小さな事件簿
____「でね!じーちゃんがそこでね!」
「…うん。」
猛暑日の中、オレはヒナに半ば無理やり連れ出され、ヒナの話をずっと聞かされてる。
あいづちをうてばチョーにっこり。
逆に打たなきゃチョーふきげん。
…さすがにオレでも疲れて来たぞ…
「____でね!…って、アキ?聞いてる?」
ヒナはオレに聞いた。
だけど暑さで限界だったのか、ヒナにひどいことを言ってしまったんだ。
「…うるさい。」
心臓がバクバクした。
「…へ?」
ヒナは突然言われた言葉にあぜんとしていた。
オレは自分でもわからないまま、ハンシャ的に叫んだ。
「うるさいって言ってるの…!」
ヒナはオレの方をじっと見つめた。
「いきなり連れ出されてさ!何かと思えばずっと話してるだけじゃんか!オレ、正直限界だよ!」
ヒナはじっと黙っていた。
だけど、見つめてくる目は赤くて、今にも泣き出しそうだった。
だけど、オレは、もっとひどいことを言ってしまった。
「もう…。」
「もうさ…____。」
…自分でも、なんで言っちゃったのか、
わかんなかった…。
「もうさ、話しかけないで。」
「…で、ぼくのとこに来たワケね。」
ハルにぃの遊びにつきあっていると、アキが突然ぼくを訪ねてやって来た。
やって来たと思えばすげー泣いてるし、どうしようどうしようってすごいブツブツつぶやいていた。
とりあえずハルにぃがアキの口にラムネをぶちこんで、なんとか落ち着かせた。
そして相談を受けて、今に至る。
「んで、仲直りしたいのか?」
ぼくはアキに向けて聞くと、アキはこくりと頷いた。
「なら、フツーに謝ればいいじゃん。」
そう言うと、アキは今度は首をふるふると横に振った。
「だって…話しかけないでって言っちゃったのに…オレから謝ったらさ…勝手だって思われちゃうし……。」
アキはやや涙声で言う。
「うーん、どうしようか…。」
アキはヒナに謝りたい。だけど直接はイヤ。
ギクシャクしててもどかしいし…なんだかイライラする…。
しかもヒナはなぜか男っぽい。…変に意地を張ってるかもだし、そうだと余計に面倒くさい。
うーん…。
セミがジャージャーやらミンミンと鳴いて、今日が猛暑であることを強く感じさせる。
扇風機も首を振ってカタカタと鳴いている。静かでうるさいコンサートの演奏がぼくの耳に響きわたる。
「ん?なんかやってそうだな。」
それをかき消すように、ハルにぃがぼくたちに話しかけて来た。
どこからともなくでてきたソーダをはいっとぼくとナツに渡して来た。
「会議するにはまずは糖分補給だぜー!」
ぐびっ、ぐびっ、と勢いよく飲むハルにぃとアキ。アキはさっきまで泣いていたのが嘘みたいにラッパ飲みをしている。
「ぷはーっ!ありがとう、ハルお兄さん…!」
すっかり元気になったみたいだった。
ハルにぃもアキに遅れて飲み終えて、いいってことよと威勢よく言った。
アキが落ち着いた頃に、アキはもう一度、ぼくに持ちかけた相談をハルにぃにもした。
ハルにぃはうーんとうなっている。
「んー…俺、友達とか出来たこと無いからなぁ。」
そう言いハルにぃは二本めのソーダを飲み始めた。
ぐびっ、ぐびっ、と、悩んでいる割には大きな音を立てて、喉越しが良さそうだ。
するといきなり目を開いて、ソーダから口を離した。
「あ。」
何かを思いついたように、ハルにぃは口を開く…。
「えっ、何か思いついたのか。」
ぼくがそう聞くと、ハルにぃは少し自信なさげに言った。
「…かなりハイリスクだが…。」
---
アキとヒナ、仲直り大作戦…。
作戦はこうだ。
まず、俺とトウヤがヒナにアキの悪口を垂れこむ。
次にアキの悪口で盛り上がったら、俺たちは用があると言って物陰に隠れる。
そしたらアキが来て、ヒナに謝る。そして俺たちがヒナにネタバラシしてハッピーエンドだ。
だけど、もし失敗してヒナが変に意地を張れば、アキも俺もトウヤも、みーんなそろってヒナに嫌われてしまう。
「それでもするか?」
ハルにぃはいつにも増して真剣な眼差しで、ぼくたちに言った。本当に勉強がギリギリの人とは思えない。
するとアキはこくりと頷いて、
「オレ、それでもやるよ…!」
本気のようだった。
「トウヤ、お前はどうする?」
ぼくは迷わず答えた。
「ぼくはもともとヒナに嫌われてからね、別にいいよ。」
こうして、本末転倒になるかもしれない危険な作戦は、実行されることとなった。
…そしてぼくたちは、ヒナの家の前にいる。
「アキ、お前は近くで隠れろ…。」
「う、うん。」
アキはハルにぃの指示通りに、ヒナの家の裏に隠れた。
「トウヤ…行くぞ…!」
「…うむ。」
ピンポーン。
そういえばヒナの家に行くのは初めてだ。
…初めて家に来るのがこれって、どうなのか。
すると扉がガラガラと音を立てて開いた。
出て来たのは優しそうなおじいさんだった。
「どちらさんでしょう?」
力もこもっていない話し方で、おじいさんは言った。
ハルにぃは平気なそぶりで話す。
「俺たち、ヒナちゃんの友達なんですけど、ヒナちゃんいますか?」
そもそも、中学3年生が、小学2年生と友達っていうのも変な話だ。
だけどおじいさんは疑ってくることもなく、待っててくださいと言って、ヒナを呼びにいった。
すると奥から猛ダッシュでヒナがやって来た。
「って、トウヤと…トウヤのお兄さん?じゃない。よく来たわね。」
何故か少しがっかりしているようだった。
それでもヒナは玄関から出て、何して遊ぶ?とやる気満々のようだった。
とりあえず近くの木陰に行って、ヒナに話すことにした。
まずはアキの悪口だ。
「アキってさ、ウザくね?」
「…へ?そうかしら。」
まずはぼくから。内心緊張でドキドキしている。人の悪口なんてあんまり言ったことがなかったし…。
「そうだよ。アイツ、なーんにも先を見ないで突っ走ってくもん。」
いいぞ、ぼく。このまま話せば…
「行動力のカタマリだよな。ウザいけど憎めないしさ、アイツならやれるって信じられるし…。」
ハルにぃがぼくに驚いたような顔をした。ちがう、ぼくはアキを褒めるんじゃなくって、ののしらないと…。
「そうよねそうよねっ!!」
突然ヒナが興奮しだした。
「やっぱりそこがアキくんの魅力っていうかさー!危なっかしくて目が離せないけどー、それでも成し遂げてくれるっていう信頼感がさー!」
ヒナはヒートアップしだして、アキの魅力をどかどかと語り出した。
(おいっ、トウヤ何してんだ!)
ヒナのでかい声に紛れて、ハルにぃがぼくにひそひそと伝える。
ごめんハルにぃ。ぼくに人の悪口を言うってヤツは無理だ…。
「あっ、ごめん!用事があったの忘れてたわ!」
ハルにぃはいきなりばっと立ち上がり、じゃあなー!と言って何処かに行ってしまった。
「ご、ごめんぼくも!呼び出したのにごめんね。」
ぼくもハルにぃにつられて、ばっと立ち上がった。
「ちょっとー!なによー!」
ぼくはヒナを後にして、ハルにぃが待っている物陰に行った。ちょうどヒナの後ろ姿が見える。
あとはアキが来るだけだ。
すると奥の方から、アキがやって来た。
ヒナは急にぴくっとして、丸めていた背をシャキッと伸ばした。暑さのせいか、耳まで真っ赤になっている。
アキは近くに来て、ヒナの前に立った。アキも顔が真っ赤だった。
するとアキは、口を開いた。
---
「あ、あのさ…。」
オレは震える手をぎゅっとにぎって、ヒナに話しかけた。
ヒナのじっと見つめる目が、怖くて仕方ない…。
ど緊張で、ただでさえ今日は猛暑日なのに、余計に暑く感じる。額に汗が伝う感覚がする。
それでも尚セミはのんきにミンミン鳴いて、このぐらいへっちゃらだと言わんばかりにやかましくしていた。
しばらく、の間でも、すっごく長く感じた。
ヒナはオレのことをどう思ってるんだろう、そもそもオレも、ヒナのことを、どう思ってるんだろう…
「…ごめん。」
縛り出た一言は、とても簡潔なものだった。
だけど、何故かさっきよりもすごく緊張してくる。
心臓がバックバクだ…。
だけどそれとはウラハラに、ヒナの答えは予想外のものだった。
「ごっ、ごめんって…なに…?」
…へ?
「あっ、いやっ、えとっ、その…」
あわてて何かいわなきゃと思ってしまい、いみふめーな言葉を話してしまった…。
いったん息を吸って、オレはまた話した。
「…あの時の、オレ、ヒナにひどいこといっちゃったぁ…!」
とたんに涙があふれてきた。
女子にこんな姿見せるの情けねー!情けねーぞオレ!って必死に自分に語りかけても、オレは泣くのをやめなかった。
しかも声をあげて泣いてしまった。情けない…。
「ちょ!ちょっと!大丈夫!?落ち着いて!あたし気にしてないし!」
ヒナにも気を使われてしまって余計に情けない。あー、もうやだぁー…。
「あと!あたしも悪いの!アキくんのこと、なーんにも考えてあげられなかったし…」
ヒナは泣くオレの背中をトントンたたきながら言った。
「…仲直り…できるかな…?」
オレはヒナに言った。
「…うん!しましょ!」
ヒナも元気に答えてくれた。
するとしげみの方からがさっと何かが飛び出して来た。トウヤとハルお兄さんだった。
「よかったなー!アキ!」
ハルお兄さんはオレの背中をバシバシたたいて、
「あはは、よかったな。」
トウヤはただしげみの近くに座って、眺めていた。
「それにしてもなー、まさか褒めるとは思わなかったよ。」
ハルお兄さんは、トウヤに対して言った。
「うるさい、べつにほめるつもりは…」
トウヤは冷たくハルお兄さんに言った。
「ねー、オレのこと、なんて言ったの?」
オレはトウヤに聞いた。だけど、カンケーないとトウヤは言うだけで、教えてくれなかった。
「えっとなー、アキは〜」
「ハルにぃ!だめっ!」
話し始めるハルお兄さんを止めて、トウヤはあわてたように騒いで、ハルお兄さんの足をけっていた。
トウヤ、オレのことなんて言ったんだろー?
オレはますます気になっていた。