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私が上のはずなのに
とある貴族の家。父は死に、母からは捨てられた少女が一人。しかし権力は兄によって保たれている。死にものぐるいで絵を書いている。と言っても家ではなく、工房の部屋で。
少女は弟子入りをしていた。兄には絵の才能がなく、少女には絵の才能があるからだ。だから兄は父を継ぎ、少女は好きなことをしたのだ。でも少女は思った。
「今の自分にできることは少ない。」
貴族という名前以外でなにかできること、したいことといえば絵を書くことだけだった。そして少女は弟子入りした。男ばかりの職場、工房に。もちろん少女以外に女はいなかった。でも別に困らなかった。工房のリーダーのような人が、気を使って部屋割りを工夫してくれたから。
「よろしくね!お姉ちゃん!」
小さい男の子。
「君、名前は?私は......ううん、僕はジェルラ・ベラ....いや、ここは男になったつもりでジェルラでいいや。よろしく」
「ぼくはジュン。よろしくね。」
ここでの唯一ほんとうのベラを知っている人物だった。
「違う違う違う.....!!!!!」
工房に居続けるほど、少しずつベラのストレスは積み重なっていった。貴族時代も母親からのいじめ、父親にそれを言い出すことができずを繰り返す毎日。
ベラは、人に意見を言うことが苦手だった。
でも、明るい性格の時は意見を言うことができた。
『二重人格』
一般的に言うとそのようなものなのだろう。ベラは一人で居ると静かに、そして何も言わなくなる。みんなと居ると明るくなる。だから周りの人は異変に気づきにくいのだ。
「ジェルラ....大丈夫?」
「....ごめん。心配かけちゃったね」
ジュンにそう声をかけられてもベラは自分のことを話せなかった。でもジュンは察していた。だからできるだけベラの近くに居た。
でもずっと一緒に居られるわけではない。ベラ一人で部屋に居た、ある日のことだった。
「違う!違う!この絵もこの絵も....全部!!!!!」
ベラは一人で叫びながら絵を書いていた。紙をやぶき、紙をクシャクシャにして。
「.....うるさいな...」
隣の部屋に居たユーラが音に気づいた。
「おいジェルラ....静かにし」
ガチャ。ドアを開けたと同時にユーラが目にした光景。それは誰でもびっくりするだろう。いつも明るく振る舞っているベラが、男だと思っていたベラが。女のような姿になり泣きながら絵を書いて紙を破っていたのだ。
「ジェルラ....?」
ユーラがもう一度声を発するとジェルラはそっちの方を向き、ユーラに見られたことに気づき、どんどん真っ青になっていった。
「.....お前なんでこんな事。」
「だって。だってさ。おかしいでしょ?身分も才能も容姿も資産も。
ぜーーーーーんぶ私のほうが上なのに。」
ユーラは黙ったまま、資産という言葉に反応し、
(同じ工房ぐらしなのに)と思った
「なのにさ、心の白の部分。優しい部分だけは。純粋な部分だけは。」
「君のほうが上なんだもん。おかしいよ.........」
「君は感情がこもった絵をかける。でも僕は..........私は!!!!!!!!!」
「そんな自分が惨めなだけだよ。ごめん。色々言っちゃったよね。」
忘れてくれるとありがたい、そう言いかけた瞬間、ユーラはベラに抱きついた。
「へ?君私のこと女だってわかって....」
「俺は!そんな事思わない!!!!!感情をこもった絵がかけでもジェルラには絵の才覚で負けるし、ジェルラのほうがすごいから。だから泣かないで。俺より君はすごいんだ。資産とか権力とかは知らないけど。大丈夫。俺は、俺はさ。」
「世界で一番、ジェルラのことをわかってる。」
「だってずっと見てきたから。目で追ってきたから。ジュンにだって遅れを取らない。ずっと。だから、ジェルラ、大丈夫だよ?君には味方がいるから。」
そうユーラがいい、そっとベルの頭を撫でた。
ベルは泣き崩れた。
ありがとう、ありがとう、と言いながら。
二人が幸せになったかは、また、別のお話。
ベル.....まじ共感っす!(これがいいたいがために自分に似たキャラを作り、自分がこんなふうになりたいなぁっていう状況を書きました☆)