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青嵐
晴瀬です。
日常の喧騒の話です。
会いたい人がいた。
東京の街なかでふと思い出した。
周りの人は忙しく歩き、僕のことなんか見えていないかのように通り過ぎていく。
君は僕を救ってくれた。
僕に救われたと言ってくれた。
僕が少し目を離したときに、その隙を狙ったかのように君は居なくなってしまった。
君が居なくなったのか、僕が居なくなったのか分からないまま僕は大人になってしまった。
色々な話をして行動を共にして、お互い口数は多くはなかったけれど楽しかった。
本当に楽しくて幸せだったのに、その過去は幻想のように静かに君は消えてしまった。
きっと何処かにいるのだと、分かっているつもりなのに時々その考えを疑いそうになる。
もう一生会えないのだ
と何故か確信めいた物言いで結論付けてしまうときがある。
僕は、僕自身が君に会いたいのか会いたくないのか僕の本音が、僕の本音なのに見えない。
それが怖いようで、何故か心地よくもある。
目の前の今渡ろうとしていた横断歩道の信号が黄色に光る。
僕は足を止める。
何故今君のことを思い出したのか。
少し考えて、空を見上げた。
君が消えたその日もこれくらい青い晴天の空だったことを思い出した。
久し振りに過去のことを思って頭痛がしている気がした。
思い出したくもないことを考えるなんて少し疲れているのかもしれない。
今日は早めに休もう。
そう思って僕は振り返った。
僕は振り返った?
何故。何故だか分からない。
振り返るのが当然な気がした
振り返らないといけないと思った。
振り返らないと見えないものが見えないまま消えてしまう気がした。
振り返らないとまた誰かを絶望させると思った。
その瞬間に音が消えた感覚がして周りの光景がスローモーションのようにぼやける。
1つ、一点だけに焦点が向いていた。
そこだけ明るく明瞭に光っている気がする。
「あ」
漏れた声は僕のものだった。
「──」
その人が僕の名前を呼んだ。
小さい声だったのにすぐに分かった。
すぐに理解した。
「───」
僕はその人の、君の名前を呼び返す。
無意識のうちだった。
君が近付いてくる。
僕は足が銅像にでもなったかのように動かない。
君が抱き締めた。
何を?
誰を?
僕だった。僕を抱き締めた。そう、僕を抱き締めた。
僕の鼻腔に君が笑う音がした。
「ひさしぶりだね」
君は笑った。
空は眩しく青かった。