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空色夜叉(1)
シリーズ説明欄の完読推奨。
口調迷子はいつものこと((
私が|裏社会《こんな場所》に居たくないと云ったから。
私が青空の下を歩きたいと云ったから。
だから、あの人は私を助けようとしてくれた。
「……私の、せいだ……」
私のせいであの人は死んだ。
“紅の字”と呼んでくれたあの人は死んだ。
上司だった先生に殺されてあの人は死んだ。
「ごめん、なさ……っ」
謝っても、決して許されることのない罪。
幾度と人を斬ってきたけれどら一番だ。
今までで一番重い罪が私にのしかかる。
カランコロンと、下駄の音が響く。
シャランと、綺麗な鈴の音が響く。
影は、私のいる地下牢の前で止まった。
「……あまり顔色は良くなさそうね、紅の字」
「せ、んせい……」
綺麗な灰色の長髪の奥に、黄色の瞳が見えた。
目が合うなり、私はすぐに逸らしてしまう。
私が悪いのはわかっている。
でも、責められたくない。
今は誰とも会いたくなかった。
「紅の字、貴女はまた前線に立たされることになるわ」
「……っ」
「夜叉は殺戮の権化。それは変えられない事実よ。でも、お姉さんは快楽殺人犯と同じにはなりたくない。貴女にも、なってほしくはない」
ふわっ、と羽織を開いて先生はしゃがみ込む。
「綺麗な橙の髪を持った紅の字。お姉さんとあの人が愛した子。刄を木の葉に変え、あの人の苗字を取ってこう名乗りなさい━━
--- 尾崎紅葉、と ---
---
「幹部就任おめでとう、紅葉」
「…私より幹部になるべき人がおるのじゃが」
目の前に、と紅葉は彼女を見る。
灰色の髪の女は、小さく笑いながら紅葉の頭に手を乗せた。
「知っての通り悪い大人なのよ、お姉さんは。だから自分が背負うべきものを愛し子に押し付けるの」
「最低じゃな」
「えぇ、最低よ。だからお姉さんのことは反面教師にして、素敵な幹部になってちょうだい」
「……勿論じゃ」
紅葉は優しい笑みを浮かべた。
「それにしても先生、昔から全く変わっておらんくはないか?」
「幹部になったんだし、先生と呼ばないでちょうだい。お姉さんとの約束よ」
「私の質問は無視か」
「知られたくない秘密の一つや二つあるものよ」
「先生じゃないなら……暁山さん?」
「紅刄お姉さん♡」
「暁山さん」
「紅刄お姉さん♡」
「紅刄さん」
「惜しい!」
「年齢を誤魔化したいならお姉さんと呼ばない方がいいんじゃ……」
「確かに……! じゃあ紅刄にタメ口でよろしくね」
渋々了承した紅葉は、灰色の髪の女━━暁山紅刄へ姿勢を正す。
「これからもよろしく頼むぞ、紅刄」
「此方こそ、紅葉」