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番外編 1.
これは、美咲が5歳の頃の物語。
まだ幼く、迂闊で単純で、そして何よりも無知だった頃の話。
「美咲、来い。」
・・・・またか。
今まではずっと放置されていたのに、急に戦闘の練習をさせられるようになった。
「・・・はい、兄上。」
私は否定することも、意見を言うことすらも許されない。
「天性の無才」、影でそう呼ばれていることも知っている。
でも、仕方ないんだ。私が、無能力者として生まれてしまったのだから。
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この世界は弱肉強食だ。
だから、能力が必要不可欠。弱いものは強いものに捕食される。
ましてや、私の父は魔界の一つの地域である西魔界の統率者。
いわゆる魔王というやつだ。圧倒的強者でいないといけない。
それなのに。
*「第3王女、能力が見当たりませんね。」*
*「・・・・っ。それは本当か?」*
*「ええ。・・・・・使い物になりませんので、引き取りましょうか?」*
*「いや、こちらで奴隷として扱う。問題ない。」*
それから、私はすべてを失った。
お気に入りの部屋も、優しくしてくれていたメイドたちも。
その頃はシャルムはいなかった。美和さんとも会っていなかった。
だから、たった一人を除いて味方はいなかった。
「だいじょうぶ!お姉ちゃんはいい人だもん!」
そう言ってくれた、たった一人の一つ年下の妹。その名はクレア。
彼女は、能力を持っているにも関わらず、私のことを気にかけてくれた。
私は少し警戒していたが、最終的には心を開いた。
そのとき、私は5歳だったのに「人を疑う」ことを知っていた。
人間不信はほぼ治ったけれど、傷は残り続ける。
唯一信じていた彼女を、自らのせいで失うなんて思いもしなかったのだから。
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結局、私が戦闘のことについて教えられていたのは、戦争のためだった。
戦争とは言ったが、規模は小さい。
人間界の小さな地域、そこを手に入れるために父は手を出した。
私はその戦争の一番下、雑兵。
そこで戦わせるために、戦闘の基本を教えられていたらしい。
―――この戦争での雑兵の生存率は4%だった。
魔王たちはここで私が力尽きる、そう思っていたのだろう。
でも、ならなかった。
クレアのおかげだ。
彼女は、私に結界を張ってくれた。誰にもバレないように。
私は戦闘の才能があったらしい。支給された錆びたナイフで多くを切り裂いた。
しかし、そのせいで目立ってしまったらしい。
当然のことだ。5歳の少女がナイフで暗躍しているのだから。
多くの大人に囲まれて、銃を撃たれた。ナイフや槍もあった。
そこを、クレアに救出された。空を舞うことができる妹に。
私は妹に頼ってばかり。それは5歳のころも知っていた。
だから、天罰が下ったのだろう。
クレアの足に、銃弾が当たった。容赦なく何発も。
クレアはこう言い残して、地に落ちていった。
「お姉ちゃんは捕まっちゃダメだよ・・・・!!」
私は落ちなかった。クレアが魔法をかけてくれたから。
彼女は、自分に魔法をかけなかった。そうすれば自分が助かったのに。
なんで、こんな無能を助けた? これも誰かの策略なのか?
そんな考えがうずまきながら、私はナイフを握りしめていた。
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クレアは重症、戦争も敗北。
父によると、戦争に負けたのも何もかも私のせいなのだという。
その後、私とクレアは絶対に会えないようになった。
私が、地下室行きになったからだ。
奴隷の檻にさえ、一日三食、シャワー、ベッドは支給されていた。
私がいた地下室は、なにもなかった。シャワーもベットも、何もかも。
地下室でずっと、一つのことを練習し続けていた。
そこは蜘蛛の巣だらけで、小さな机と椅子だけがあった。
そこから抜け出すことも、許されない。思い出したくもない。
私が部屋から脱出したときは・・・・・。
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「追えぇ!!!!!」
「あのガキ、どこに行きやがった!?」
私が部屋から抜け出したとき、最初に感じたもの。
解放なんかじゃない、恐怖だ。
私は、路地裏で必死に息を潜めていた。
そのころは6歳だったが、それでもわかった。
**見つかったら、命はない。**
最大2万人が私のことを探していたらしい。捕まえたら懸賞金がもらえるからだ。
よく4日も見つからずに済んだと思う。
**―――美和さんと出会ったのはこのときだ。**
「あ・・・・、やだ・・・・・・。」
5人の男に囲まれて、私は必死に抜け道を探していた。
「やだじゃない、早くこっちに来い。」
強い力で腕を引っ張られ、ほぼ諦めた。
―――《《ほぼ》》、つまり完全には諦めていなかった。
ただ一人、檻の中で練習していた術。
「『召喚術 神降ろし』」
『神降ろし』、その名の通り神をこの世界に降ろすことができる。
ただ、私には力が足りなかった。初めて実戦で使うのだからなおさらだ。
降りてきたのは、神ではなかった。神の使い、つまり美和さんだ。
彼女は神ではないけれど、実力は十分すぎるほどあった。
その場で敵を斬り、私の体の中に入っていった。
本人曰く、『邪悪な気が多すぎて耐えられない』らしい。
天界に住んでいる神の使いなら、魔界の空気に耐えられないのは当然のこと。
そうして美和さんと出会い、戦闘のたびに彼女に体の所有権を移した。
まだ小さい子どもには、何度も『神降ろし』を使うほどの魔力はなかったからだ。
本当は、『神降ろし』で降ろした神に助けてもらえるのは一度だけ。
一度助けてもらったら、その神は消えて、また降ろす必要がある。
だが彼女はこう言って、私と契約をした。
「こんなに小さな幼女を置いて消えられるわけ無いだろう。」
契約の内容は、こうだ。
*・私は、美和さんが私の体の中に入ることを許可する。*
*・美和さんは、私がお願いしたら私の体を自由に動かすことができる。*
*・美和さんは、私のことをなんとしてでも守る。*
その3つを約束してから、ずっと彼女は私の中にいる。
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「その後、私が9歳くらいのときにシャルムが来た感じ。」
「そんなにずっと前から・・・・。」
正直、美音さんとの戦闘から気づいていた。
一人称、魔力の流れ、威力、その他を見ても別人で。
それは美音さんも気づいていたと思う。
・・・・お嬢様のことを一番知っているのは私だと思ってたんですけどね。
まあ、これからたくさん知っていきますから。
初の番外編。今日はもう一話出します。