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あまねくすべてに(文スト夢?)BEAST ~書きたかったとこだけかきました~
「おめでとう」
まばらな拍手が屋上の風に乗って響き渡る。
その数_______二つ。
「おめでとう。おめでとう二人共。見事だった。|船上の戦い《、、、、、》に勝るとも劣らなぬ名勝負だ」
黒外套をはためかせた、。
横に立つ少女は静かに目を瞑っている。
そこだけ空間が切り取られたかのように異質黒社会の支配者。社会の支配者。
「太宰さん・・・アマネさん」
「黒衣の男……!」
ポートマフィア首領__太宰治が、静かな足取りで二人のほうへと歩いていく。
アマネは____只じっ太宰の動向を見つめていた。
「四年半、仇を抱え、怒りを抱え続けた芥川君が勝利したか」底の見えない微笑を浮かべたまま、太宰は歩く。「しかし、私が四年半も鍛えた敦君を破るとは……或いは、これが探偵社の持つ力か。全く、立つ瀬がないよ」
その時、今までずっと黙っていたアマネが口を開いた。
「敦、お前は馘首だ」
敦は驚きに一瞬目を見開き、太宰のほうを見てからすぐに閉じた。「……はい」
「代わりに、外の世界で生きろ。世話をしてくれる人は用意した。外の世界に行け。鏡花ちゃんと共に」
「え……!?」
太宰が言葉を継ぐと、敦が首だけを持ち上げて驚く。
「何の心算だ、黒衣の男」芥川がふらつきながらも、戦闘の構えをとる。「貴様は今日、僕をこの地へと誘導したな?手紙を使い、銀を餌にして……。だが僕を殺したいだけなら、より容易な道があったはずだ。何が狙いだ?今日のこの戦いの先に、貴様の目は何を見ている?」
「今日の戦い?違うよ、芥川君」太宰は歩き続けながら云った。「今日じゃあない。|四年半前からずっと《、、、、、、、、、》だ。君を妹から引き離したあの日から、すべての要素は今日この状況のために設計されていた。敦君の鍛錬も、マフィアの勢力拡大も、全部」
「何だ、と…?」
芥川が驚愕する。
「『本』を知っている?」ふいにアマネが二人を見て訊ねた。
「それは一般的な書籍の呼称じゃない。席で唯一無二の『本』。書いた内容が現実になるとされる、白紙の文学書」
屋上には只、凛とした少女の声だけが響いていた。
「書いたことが……現実に……?」
「だが書いたことが現実になる、と言っても、厳密な意味では違う。『本』はこの世の根源に近い存在。その中には、無数のありうる可能性世界、あらゆる選択と条件変化によって無限分岐した世界の可能性すべてが、折りたたまれて内在している。そして『本』の頁に何か書き込まれた瞬間、その内容に応じた世界が『呼び出される』。本の中の可能世界と現実世界が入れ替わる」
芥川も敦も、反応すらできず絶句している。急に告げられた事象の規模が大きすぎ、理解が追い付かないのだ。
二人とも、確かに理解できることは今のところ一つだけ。
彼女がこの状況で、嘘や冗談を言うはずがない。
「つまり『世界』とは、本の外に一つだけ存在する物理現実___『本の外の世界』と、そして本の中に折りたたまれた無数の可能世界、即ち『本の中の世界』。この無限個と一個のことを指す。そして」
太宰が何の協調も力説もなく、ごく当たり前のように云った。
「この世界は、可能世界。つまり『本』の中に無限にある世界の一個に過ぎない」
敦も芥川も、麻痺したように動けなかった。
太宰の目にあるのは、硬質な真剣さと知性の輝き。
それをただ見つめるアマネの目にも只真剣さだけが宿っていた。
嘘ではない。
二人とも理屈ではなく頭の深い部分で、そのことを理解した。
「とは云え、現実は現実。この世界も『外』と同じだけの強度を持っている。その証拠に、この世界にも世界の根源近縁体である『本』は存在する。もっとも、こちらの世界の『本』は謂わば排水溝だ。外の世界の呼出し命令に応じ、本はこの世界自体を書き換えたり、廃滅させたりする。……そしてこれから間もなく、強大な幾つかの海外組織が、『本』を狙ってこの横浜に侵攻をはじめる」
芥川が本能的に問うた。「何故判る?」
「判るさ。な然ら私は異能無効化の能力者だ。そして、その特性を利用して特異点を利用して特異点を発生させ、世界の分断を強制接続させた。そして『本』の外の自分……つまり本来の自分の、|記憶を読み取る《、、、、、、、》ことに成功したのだから」
「な」
記憶を受け取っている?
もう一人の……本来の自分から?
突拍子もなさ過ぎて頭がついていかない。
「これから組合、鼠、それ以外の強大な組織が『本」を求めて押し寄せる。君たちはその敵をすべて排除し、『本』を守らなくてはならない。連中が何かを何かを書き込めば、この世界は消滅し、上書きされてしまう」
「判らぬ」芥川が混乱した声で云った。「貴様の話が仮に本当だとして……それが何故、僕から妹を奪うことに繋がる?全く以て意味不明だ」
「君たち二人の力が必要だからだ」太宰は断言した。「君たち二人の異能が合流した時に起こる特異点、そして魂の合流が生み出す、力を超えた何かが。……そのために一度、君たちを戦わせる必要があった。死の淵の手前に立って、相手が何者なのか理解させる必要が」
太宰は歩き、ビルの縁まで辿り着いた。縁には落下を防ぐための柵も壁もない。すぐ向こうは空。落ちれば地上まで遮るものは何もない。
「太宰さん」敦が震える声で言った。「そこは危険です。こちらに戻ってください」
「一つ忠告しよう。今話した内容は、誰にも話してはならない。知るのは君たち二人だけだ。三人以上の人間が同時に知ると、世界が不安定化し、『本』を使うまでもなく消滅する可能性が高くなる。だから……任せたよ」
太宰が一歩下がった。踵が縁を越え、空へとはみ出す。
「三人以上って……」敦は頭の中で人数を数えた後、はっとして太宰を見た。「太宰さん待って下さい、まさか貴方は」
「ついに来たのだね」太宰は背中からの風を浴び、ゆったりと微笑んでいる。「第五段階、計画の最終段階が。なんとも不思議な気分がする。故郷へ帰る前の日のような気分だ」
「黒衣の男よ」芥川が目を細め、問いかけた。「ひとつ教えろ。何故そうまでする?何故このセ化の消滅を阻止するのに、そこまで執着する」
「そうだね。……確かに私は、世界にそこまで関心があるわけでもない。消滅しようが知ったことじゃあない。ほかの可能世界の私ならきっとこう云うだろう。でもね」
太宰が目を閉じ、懐かしそうな笑みを浮かべた。
「|ここは彼が生きて、小説を書いている唯一の世界だ《、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、》。そんな世界を消させるわけにはいかないよ」
風が招くように強く吹いた。
太宰の体が後ろに傾く。
「ああ、ああ、ああ」太宰は目を閉じ、夢見るような笑みを浮かべて云った。「ついにここまで来た。待ちに待った瞬間だ。楽しみだ、本当に楽しみだ。……でもね、心残りもある。君がいずれ完成させるその小説を、読めないこと。それだけが、少し悔しい」
太宰の体が縁を越えた。
「ンな事させるか。馬鹿野郎」
「……え」
今にも泣きそうな表情で太宰は言った。
「なんで、なんでなんだい?|アマネ《、、、》」
アマネの体は縁を越え、太宰の腕をつかんでいた。
「私の異能は他人の能力のコピー。だから知ってたんだよ。もとからな。でも私とお前の異能の精度には差がある。お前には|世界をだませる精度《、、、、、、、、、》がある。だから……お前は死なせねぇ」アマネがグイっと腕を引くと、太宰が引き戻され、逆にアマネの体が空に出た。
「お前の異能なら、三人目でも大丈夫だろう」
アマネは少し笑って云った。「作の小説が完成したら…お前が読んで聞かせてくれよ」
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「本当にこれでよかったの?アマネ」
「うん。いいの」
森が経営する孤児院の医務室。エリスはアマネに問いかけた。
「さすがにあれで太宰は死なないでしょ」
あそこまで言われて死ぬ勇気あったらすごいよ、と彼女は笑った。
「アマネちゃん、敦君に顔、合わせに行ったらどうだい?」
森がカーテンの向こうから顔をのぞかせた。
「そうですね。びっくりするだろうなぁ、敦君」
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太宰は……外の世界の太宰は、本に文字を書くときに私を頼った。
最終的に、書かれた文字は|『獣』《Beast》の一文字。
____________私の異能に彼ほどの精度がない、というのは嘘だ。でも、そうでも言わないと彼を止められなかったから。
どうしようもなく彼はどの世界でも自殺嗜好があり、私は彼を止めようとする。
宿命なんだ。
「アマネさん。そういえば、織田さん?の小説がとうとう出たらしいよ」
「えっ!ほんと!」
敦はいまだ彼の時計を壊せずにいる。
そしていまだに私に敬語を使う。彼のほうが年上なのに。
「はい、これ」
手渡された本には織田作之助の文字。
「えっ、勝って来てくれたの?!」
「偶然売ってたので。喜ぶんじゃ、と」
「めっちゃうれしい」
よかった、と笑う敦君。時計は壊せないみたいだけど、よく笑うようになった。それだけでも十分善い変化だと思う。
「あつしおにいちゃんあそぼーよー」
彼は年下の子たちにも人気みたいで、よく一緒に遊んでいるのを見かける。
「これでよかったんだ。これで」
最後の敦君のところめっちゃ疲れてるのがわかる―w
一日で書いたし小説のほうの文章見ながら書き写すの大変!
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます。
私忘れられてない?by太宰