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彼について。【あたたかき ふゆのひに】
季節外れですが、読んでいただけると幸いです。
今日はとても、さむい日ですね。
だんろはあたたかいですか?
ああ、それならよかった。さむいといいことがありませんからね。
冬はまったく、こんな老いぼれにはこたえます。
え、冬生まれですか?
それは失礼しました。それではもうすぐ、お|誕生日《たんじょうび》ですか。
いいことです。
ひとつ年をとると、いいこともわるいこともありますが、年のおわりになると、たいていは、ああ、生きていてよかったと思えるものですからね。
そうだ……せっかくですから、むかしばなしでもしましょうか。
ささやかですが、お|誕生日《たんじょうび》のおいわいです。
この話をきいていった人には、いいことがあるという、とくべつなお話ですよ。
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むかしむかしあるところに、古びた|石造《いしづく》りの教会がありました。
三角形にとんがった屋根。
色あせたステンドグラス。
もみの木でできた、使いこまれてあめ色に光るオルガン。
屋根には一面|つた《・・》が這い、みどりのこけが生いしげって、石の色が見えないほどでした。
教会には、たったひとり、真っ白のひげをたっぷりとたくわえた、年老いた神父が住んでいました。
神父のやさしい青い目は、笑うと目じりにできるいっぱいのしわで埋まってしまいます。むかしは金色だった|髪《かみ》の毛も、すっかり|霜《しも》が降ったあとの地面のような白です。
教会のとなりにある村の子どもたちは、神父をサンタクロースとよんでいました。
サンタクロース。
クリスマスの夜にやってくる、みんなが大好きなおじいさんの名前です。
神父はみんなに愛されていました。
大人は口をそろえて、「あの人はりっぱな人だ。あの人にお祈りしてもらうと、本当に神さまの|御許《みもと》にいるような気がする。」といいます。
子どもはそれを聞いて、「いやいや、サンタクロースはお祈りするより、オルガンをひいていた方がすてきだよ。|讃美歌《さんびか》をひくのがとてもうまいんだ」と言い返します。
そうすると神父は、にこにこ笑って、子どもたちの頭をなでてあげるのでした。
さて、とある冬の日のお昼のことです……
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。お話はまだまだ続きますので、もしよければシリーズの続編を確認してくださると嬉しいです!
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※登場する地名などは全てフィクションです。また、便宜上クリスマスなどのキリスト教の祭日が出てきますが、実在の宗教とは一切関係ありません。