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#1赤鳥居の夜
古びた大きな鳥居をくぐり、神社へ足を踏み入れた。今日は神社で夏祭りがある。昔、この夏祭りに妹と来たことがある。暇だったので訪れただけだが、何だか懐かしい気持ちになった。妙に静かな神社。どんどん奥へ進んでやっと、何かがおかしいことに気がついた。人がいない。屋台が並ぶはずの道には焼きそばの匂いも、子どもたちのはしゃぎ声もない。それでも薄暗い夜の中で、提灯だけがぼうっと赤く光っていた。異様だった。薄暗くて誰もいない神社。目に見える全てが私の恐怖心を掻き立てた。でも、もう遅かったようだ。ざりざりと砂利の上を歩く音が奥の方から聞こえる。その音はひとつじゃなかった。大勢の人々が歩く音だった。ふと、目を向けると神殿の前をぐるぐると歩く人々がいた。前の人が歩いた場所をなぞり、円になって歩いていた。無言、無表情。まるで、なにかに操られているようだった。浴衣の少女。血のついた白いワイシャツの男。手足のない子供。そして、顔のない、だれか。背中を冷たい汗が伝った。ぞくりとしたその瞬間、生ぬるい風が吹いた。カラン、と風鈴の音がひとつ聞こえた。鳥居の奥から聞こえたその音に誘われ、私は奥へと歩き出してしまった。その小さめで赤い鳥居は何本も何本も果てしなく続いていた。奥の方に何やら赤い光が見えるが、私の周りは真っ暗だった。鳥居には年号と人の名前が書いてあった。古い年からだんだん新しくなっていっているようだった。1年ずつ新しくなっていた。注意深く鳥居を見ながら歩いていると、赤い柱の間からこちらをのぞく、誰かの視線に気がついた。咄嗟に目を逸らした。見てはいけない。これは、見ちゃだめなやつだ、と。視界の隅で赤い柱の間のナニカの頭が少し動くのが見えて反射的に、見てしまった。ぎらりと目が合う。私は、その赤い柱の間を覗くモノに視線を釘付けにされた。それは、首が折れた、こけしだった。すました顔がこちらを見つめる。小さいこけしだったが不気味で妙に大きく見えた。身体が凍ったように動かなくなる。その瞬間、こけしがこてん、と転んだ。周りの雑草がざわざわと騒ぐ。私は叫び声をあげて走りだした。こんなに速く走れたのははじめてだと思う。呼吸なんて忘れて血眼で鳥居の中を走り抜けた。うしろからかたかたと音が聞こえる。だんだん気配と音が近づく。もう半分泣いていると思う。でも、走る足は止まらなかった。懸命に走るが、気配はぴったり背後をついてくる。かたかた、ことこと。人間の足音にも木の実が落ちる似つかぬその音が、だんだん近くなるのを感じた。