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ごめん。
民族紛争の絶えないこの街。
殺らねば殺られる。
今日も今日とて西の方の発砲音で目を覚ます。
少しの準備運動をした後、大人が三人入ればいいような小屋を出ると、目の前に幼女が座っていた。
この国は俺たちが生まれるずっと前から横の国と戦っている。
戦争が始まった理由なんて誰も知らない。先人が戦っていて、終わらなかったからと戦っているだけ。
名前の残らない人生で終わる1兵士。
そんなつまらない人生のままだと思っていた。
「…お前、一人か?」
自分の小屋の前で、一人座っていたまだ五つほどの幼女に聞く。
「ねんねしてたらここ居たの!ママもパパも居なくなっちゃった…」
どうやらコイツは捨てられたようだ。捨て方まで同じで反吐が出る。
言葉にしていくうちに頭の中が整理されたのか、ポロポロと涙がこぼれた。
「うわぁぁあん!!」
声を上げて泣く幼女に敵軍が気づかないように、取り敢えず少しでも音が小さくなれば、と小屋へ招き入れる。
しばらくすると、落ち着いたようで、話しかけてみることにした。
「お前、名前は?」
「レイだよ!ママがレノンでパパがイチなの!お兄ちゃんは?」
ニコニコして答える様子を見て、聞いておいてなんだが、少し不安になった。
「俺はエル」
「えりゅ!えりゅのママとパパの名前は?」
例の年齢ではまだ、「ル」の発音が難しいらしい。そんな姿を可愛いらしいと思うが、それと同時に、そんな年齢で捨てられたのか、と気の毒に思う。
「ママとパパ、か。俺には居ねぇんだ」
そう言うと、レイはハッとしたようで声を潜め聞く。
「死んじゃったの?」
誰しも親は居る、なんて当たり前のことを当たり前に言レイを少し羨ましく感じる。
「いや、なんていうかな。コウノドリがこの世界に落としていったけど、キャッチしてくれる人が居なかったって言う感じだな」
頭にハテナが浮かんでいそうな顔。
学がない割には頑張ったつもりだったが、レイには伝わらなかったらしい。
「えりゅ、良くわかんなーい!」
「…まぁ、いつかわかるよ。きっとお前がこういう日だって来る」
頭を撫でると、銃を持ち立ち上がる。
「レイ、俺、ちょっくら出かけてくっから。いいコで待っと…かなくてもいいか」
しゃがみ目線を合わせて再び口を開いた。
「ここから逃げるんだったら、東…右ってわかるか?右に行けよ。つうか、絶対そっち言ったほうがいいぞ。こんなとこ居るより。じゃあな」
これ以上一緒にいれば、情が移ってしまいそうで少し怖かった。
俺が死ぬ可能性だってある。だから、これで良いんだ。
戦場につくと、とっくに昼軍と夜軍は入れ替わっていた。
エルもそこに加わり、銃弾を放っていく。
パァンパァン、という音で鼓膜が破れそうになる。
誰が何のために初めたのか、いつ終わるのかもわからない。
決まった時間に交代し、まるで、東の方に住んでる金持ちの子供が通う、学校とやらではないか。
誰が何のために初めたのか、いつ終わるかも分からない。意味のない戦争。
でも、この時間が人生において大切な時間なことも事実。
この戦いのこと、自分の死に際、幼少期のトラウマ。いっつもグルグル考えている答えのない問いを少しの時間かもしれないが、忘れられる。
どれぐらい経ったのだろうか。そして、今日だけでどれほどの手を殺めてしまったのか。
夜軍と交代し、少し遠くにある小屋へと帰る。
小屋の扉を開くと、出た時にはついていた小さな豆電球が消えていた。
それを付ける気にもなれず、暗闇の中寝転がる。
無事に東へ行けたのだろうか。戦場からの帰り道、周りを見ていたが、レイらしき人物は見当たらなかった。
だからきっと、大丈夫だ…
咄嗟の出来事に思考停止する。
いきなり腹に物が落ちてきた。20キロ程だろうか。必死に手を伸ばし、ランタンを付ける。
「ばぁ!」
レイが俺の上に乗っていた。
「ふふっ、大成功!」
腹の上で喜びを表すレイに思わず、痛い、痛い!と叫ぶ。
するとレイはそこから降り、電気を付けるとエルの周りを歩きながら話す。
「お外見ててね、えりゅ、見つけたから、驚かそ!って。それでね、電気消してね、隠れてたんですよぉ。スゴイでしょ!レイ、スゴイでしょ!」
「おぉ、凄い凄い」
起き上がり、レイの頭を撫でた後、正面に座らせる。
「レイ、お前に東行けって言ったろ?なんで行かなかったんだよ」
「…だって、えりゅと離れ離れヤだもん」
「ここに居たら死ぬかも知んねぇんだぞ!分かってんのか!」
思わずカッとなり声を荒げてしまう。
それでも、自分のためなんかにこんな場所に残ってほしくなかった。
「…わかってるよ。でもえりゅ、強いんでしょ?今日、銃バンバン撃っててカッコよかった!あ、レイにも教えてよ!レイが強くなればここに居ても良いでしょ?」
レイの言葉に引っかかる。
「お前、ついてきてたのか?」
聞くと、レイは「あ!」と慌てて口を塞ぐ。 「ごめんなさい。でも、一人怖かったんだもん」
その言葉を聞いてハッとする。
コイツ、親に捨てられたばっかだった、と。
「…まぁ、ケガが無いなら良いよ。でも、次は絶対来るなよ?」
少し声を低くして、威圧するように言うと、刻々と頷いた。
怖がらせたままなのは悪い、とレイを抱きしめ言った。
「レイ、ホントに良いのか?ここに居て」
「うん!えりゅ、優しいもん!一緒いたい!」
「…おぅ。わかった。任せとけ、俺が強くしてやるよ!」
ごめん。お前を突き放す強さがなくて。
ごめん。お前の人生を歪めて。
1000字で書こうとしてるのに、めちゃくちゃ書いちゃうんですよね…笑
子供に弱い大人は好きですね。
この前の短編もそうですけど。