公開中
第一話「目覚めと黒き咆哮」
——光が、世界を裂いた。
耳をつんざく轟音とともに、意識は深い闇へと沈む。
次に目を覚ましたとき、俺は見知らぬ草原の上に倒れていた。
「……っ、眩しい……」
瞼を開けると、目に飛び込んできたのは、どこまでも広がる青空。
雲は絹のように薄く、太陽は黄金色に輝いている。
風が頬を撫で、草の香りが鼻をくすぐった。
俺はゆっくりと上体を起こす。
制服の袖が土にまみれていた。
周囲を見渡すと、見渡す限りの草原。
遠くには森の稜線が見え、鳥のさえずりが耳に心地よく響いている。
「……ここは……どこだ?」
記憶はある。
通学路、踏切の前、スマホを見ていた。
突然、空が裂けるような光が降り注ぎ、意識が途切れた——。
立ち上がると、足元に魔法陣のような痕跡が残っていた。
淡い光がまだ残っていて、まるで何かが“召喚”されたような印象を受ける。
そのとき、風の向こうから足音が聞こえた。
振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
銀色の髪が陽光を受けて輝き、蒼い瞳は湖のように澄んでいる。
白いローブには金糸の刺繍が施され、胸元には神聖な紋章が浮かんでいた。
彼女は、まるで神話の中から抜け出してきたような存在だった。
「あなたが……転移者ですね?」
少女は静かに言った。
声は透き通っていて、どこか懐かしさを感じさせる。
「え? 転移者って……」
「私はリリス。この世界の聖女です。神託により、あなたを迎えに来ました」
聖女? 神託? まるでゲームの中の設定だ。
「待ってくれ。俺はただ、通学してただけで……気づいたらここにいて……」
「大丈夫です。混乱するのは当然です。でも、あなたはこの世界にとって特別な存在。“全属性の加護を持つ者”——それが、神の言葉です」
リリスはそっと手を差し出す。
俺が戸惑いながらもその手に触れると、体に淡い光が走った。
次の瞬間、空中に魔法陣が浮かび上がる。
火、水、風、土、光、闇——六つの属性が、虹のように輝いていた。
「……これ、俺の……?」
「はい。あなたは、すべての属性に適性を持つ唯一の存在。しかも、ヒーラーとしての力も……規格外です」
リリスの瞳が驚きに見開かれる。
「回復魔法だけでなく、補助、攻撃、浄化、封印——すべてが使えるなんて……」
俺は自分の手を見つめた。
何もしていないのに、指先から微かな魔力が漏れている。
まるで、体の奥底に巨大なエネルギーが眠っているような感覚だった。
そのとき——空気が変わった。
風が止み、鳥の声が消える。
森の影から、黒い霧のようなものが立ち上がった。
「……来ました。黒き魔物です」
リリスの声が震えていた。
霧の中から現れたのは、漆黒の獣。
四足で地を這い、目は血のように赤い。
体からは闇属性の魔力が溢れ、周囲の草が枯れていく。
「……なんだ、あれ……」
「“影喰い”です。魔王の眷属。転移者を狙って現れると、神託に記されています」
俺は一歩後ずさった。
だが、リリスの手が俺の腕を掴んだ。
「逃げてはダメ。あなたの力なら、倒せます」
「……俺の力?」
リリスが頷く。
「今、試してみてください。あなたの“闇”を」
俺は手をかざした。
黒い魔力が、指先から溢れ出す。
それは、まるで夜空を裂く稲妻のように、獣へと向かって走った——。
頑張る