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鋼鉄の騎士(二話 草鞋を踏みつけて。)
実際にあった事件、歴史を参考にしていますが、伝記の類のものではございません。原作はアスミック社様のシュミレーションゲーム「鋼鉄の騎士」です。ご了承ください。
また、ナチスドイツの行なった行為は到底許せない行為であり、擁護するものではございません。
七月十二日。私はドイツ国防軍第二装甲師団第二戦車旅団第二中隊中隊長の肩書の下、防衛側歩兵中隊対攻撃側戦車中隊に分かれて私の実力試し兼模擬戦を行っていた。私は掩体に隠した戦車の車体上面のキューポラを開けてから上半身を出して双眼鏡を覗くと、そこには砂塵を巻き上げて突っ込む我が部隊の戦車。今回の模擬戦の目標は陣地の奪取だ。
『第二小隊、ハイムマン隊は東の人工林の方向に潜伏!!すでに敵がいる場合は榴弾で掃討しろ。第三小隊は第二小隊の後続として火力支援を行え。』
私の次々と送る指示に小隊長達は困惑したような空気が無線から伝わった。因みにドイツ戦車には殆ど良質な無線機が装備されており、これのおかげで車両同士の連携が可能になっている。これがドイツ戦車の強さの源泉だろう。
「俺達直属第一小隊はどうします?!」
下にいる砲手のアルバートが今にもという顔で言ってきた。
「もう少し待て。」
俺は双眼鏡を人工林に向ける。東の森は、陣地に突撃する戦車の側面をとれる位置になっている。だからまずあそこを潰してやる。そして、双眼鏡から見えたのは突っ込む第二小隊のⅢ号戦車五両、ハイムマン小隊だ。
「あそこに敵役の部隊が潜伏してんだろうな・・・・。」
木々を倒して森に侵入した。こっちからもその音が地鳴らしとなって体に響く。
「おい、歩兵部隊が逃げてくぜ!!」
操縦手のアルノルドが興奮気味に喋った。
「ふぅん・・・・。」
武器を置いて陣地に逃げ帰る歩兵。その側面をつくように私達は前進を開始した。私はマイクをオンにすると、
『第一小隊、Panzer voraus(パンツァーフォー)戦車前進!!第二、第三小隊も突っ込め!!』
掩体から全車から飛び出した。埃が立って車外に顔を出していた私は少し咽たが我が隊の前進は止まらない。
「あ。」
陣地から白旗が上がった。
「ミスター田須!!演習終了です!!」
ヒューゴが嬉しそうに報告してくる。こっちの勝利だ。
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「いやぁ、やられたなぁ・・・・。」
相手となった歩兵中隊指揮官のゲルト・バスティアン中佐は隊舎の酒保で買ったビールを片手に頭を抱えていた。どうやら、あの後どうすれば勝てたか考えているらしい。聞いた話によると、彼は東の森、本丸の陣地に対戦車砲を隠蔽していたらしい。そして十字砲火で突っ込んでくる戦車に対して撃破判定を与えようとしたとのこと。確かに待ち伏せは良い策だと思うが・・・・。私は彼に盃に注いでもらって飲みながら語った。
「待ち伏せねぇ・・・・。確かに待ち伏せは良い方法だが、それは『警戒せず突っ込んでくる戦車に対して』だ。大体、歩兵だけで戦車と闘わせる方に無理があるぞ。こっちに戦車がある時点で勝ちは確定だったんだ。」
「ははは、実戦経験者の言うことは違うね。」
「そうかね・・・・・・。お褒めに預かるよ。ハハハ。」
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時は流れ、八月下旬。新聞はある事を連日一面で報じていた。
「ポーランド領内のドイツ人が迫害されたいる・・・・・。か。」
私は洋風(本場だが。)のモーニングを紳士の様に楽しみながら新聞を読んでいる。紙面の写真には泣きじゃくる女性が載っていた。急にこんな記事を各社一斉に出していたので、絶対怪しい。
「本当だったらひどいですね・・・・。」
モーニングの話し相手としておごると言って無理やり連れてきた装填手のエルトマンが突っ込んできた。顔が既に切れ気味だ。
「なぁ、新聞が書いている事が全て本当とは思わん方が良いぞ。」
「へ?!」
「新聞は部数を稼ぐことが目的だ。よって印象に残る記事を出す必要がある。・・・捏造してでもな。これに国家が関わっていたらもっと面倒なことになるぞ。」
「そうですか・・・・・。」
強く扉を開ける音が後ろからした。反射的に後ろを向くと、そこにいたのは急いで来たらしいアルノルトが立っている。何だ?
「何のんきにしているんですか!!ミスター田須!!緊急徴集です!!緊急徴集!!」
「へ?!」
新聞紙を置き、清算だけ行おうと急いで荷物をまとめて財布をポケットから出した。あわただしく動く私達をあたふたしてみていた店番の姉ちゃんに金を渡す。
「おつりは・・・・」
「おつりは無しで!!じゃぁ!!」
何が起きるのだろうか。そんな恐怖が腹の底に起きたが、隊舎へ突っ走る私であった。
近頃も国際緊張が高まっていますね。戦争がせめてこれ以上発生しないことを祈るのみです。