公開中
四
「お邪魔しまーす……意外に綺麗ね」
「開口一番、失礼極まりねぇな」
ドアを開けると、自動的に玄関光が光った。簡素に片付けられている室内が映し出される。
レオの住んでいる宿は、店の二階にあった。店長の計らいで、部屋を一つ与えてもらっているらしい。
真っ先にソファを占拠する。ぎょっとするようなレオの顔が見えた。
「お前、人様の家だぞ」
無視してごろんと横になる。ものすごく呆れたようなため息が聞こえてきた。
お前、ほんと寝るの好きだよな。飯作ってくるからそこらへんで寝て待っとけ。
そう言って、レオは部屋の隅に取り付けられてあるキッチンのほうに向かっていった。
寝て待っとけ、とは言われたが、昼間に散々寝たせいで全くもって寝られない。
(なん、だろうな……)
レオといると、無性に懐かしくなる。どこかで会ったような、そんな気がする。
でも、いくら思い出してみても、記憶の中にレオの姿はどこにもなかった。
「……い、おい」
肩をゆすられ、我に返った。沈んでいた意識が浮上する感覚を覚える。
「え? あー……」
「出来たぞ。早よ食え」
テーブルのほうを見ると、二人分のご飯が並んでいた。慌てて身を起こす。
いただきます、と手を合わせて、頬張った。
「あ、結構美味しい」
「結構って何だよ。失礼な奴だな」
感想言って早々突っ込まれた。
失礼なことを言っている自覚はあるので、何も言わずにおく。
そのあとは黙々食べて、ご|馳走《ちそう》様と手を合わせた。
「……で、どうやって作ってるの?」
暇なので、暇じゃないレオをお喋りに付き合わせる。
話題はあっちこっちに飛びまくり、なぜか、料理はどうやってやっているのか という話になった。
だいたいの人は魔法を使って火を起こして使っている。もっと高度な魔法を使える人は、料理自体を魔法任せにしている人もいる。
キッチンも、魔力を持っている人向けに作られているはずで———
「フツーに、テキトーに火起こして、テキトーにやったら出来る」
フツーにテキトーにの意味が分からない。
「……不便じゃないの?」
レオが作業をしている手を止めた。幽霊かと突っ込みたいほどゆっくりとした動作で、こちらを振り向く。
「……何が言いたいわけ?」
明らかに警戒が見て取れた。一瞬、息を詰める。それから、一気に言ってしまおうと口を開いた。
「私、人に魔力与えられるんだよ。」
ひりつくような空気を感じる。何とか笑顔を浮かべながら、自分の瞳を指差した。
レオは何も言わない。俯いていて、どんな顔をしているのか全く分からない。
「私の、黄金色でしょ。あなたに似合うかなー? なんて、なんちゃって」
冗談めかして、そう言った。