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3rd collaboration.8
Lewis side
刃が交わり、嫌な金属音が響く。
此方が距離を詰めれば、別の方向からの攻撃が来る。
異能剣“ヴォーパルソード”。
この青白く輝く剣の特性は太宰君と同じ“異能無効化”だ。
距離を取られるのは、そういうのも全てバレてるからなんだろう。
テニエルが色々と世界を飛んでいた時に僕を見つけて、色々と調べたんだろうから。
「あぁもう! ちょーウザい!?」
放たれた銃弾は、踏み込んだ僕の進行方向だった。
避けることはできない。
まぁ、避ける必要はないんだけど。
「鏡……!?」
『異能使いが荒いわよ!』
「信じてるから」
そういえば、アリスのことは此奴ら知ってんのかな。
一応英国軍の機密情報だし、|例の事件《最初のコラボ》で巻き込まれた時は周りにも話してなかった。
でも、鏡に驚いていたし──。
「──知らねぇか」
「っ、また速くなって……!?」
「そりゃあ、はじめから全力が出せるわけないじゃないから。車と一緒だよ。アクセルを踏めば速度が出る」
「神というより化物じゃない……、」
「戦神は英国軍が呼び始めた名前だよ。それが定着するまでは敵軍には悪魔やら怪物やら、君みたいに化物やら呼ばれてた」
とりあえずジョージからぶっ飛ばせばいいかな。
一応リーダーみたいだし。
「ジョージ……!」
「……ごめん、助かった」
意外と本気で蹴りを入れたつもりだったんだけど、良い感じに流されちゃった。
ま、流石にこんな簡単には行かないよな。
ジョージ以外の異能もよく分からないから、彼以外に深く踏み込むわけにはいかないし。
「本当に、テニエルとフランシスがいたら勝てるのかな……」
「なに心配になってるのよ。大丈夫、私達五人が力を合わせたら──」
「内緒話かい?」
「あぁ、そうだよ。だから部外者の君は話に入らないでくれないかな」
おっと、と僕は急いで距離を取る。
普通に斬られそうだった。
で、莫迦すぎて“ヴォーパルソード”を落とすというね。
いや本当に莫迦すぎないかな。
ただ、計画とやらにあの剣は必要ないらしい。
それとも“異能無効化”が嫌なのか誰も触れようとしない。
「てか!? 僕の武器アレ以外なくない!?」
「それは良いことを聞いたね。花姫が来るまで気絶してもらおうか」
『なんで口に出すのよ、莫迦』
「いやぁ、だって本物はまだ持てないしぃ……」
『あのねぇ!? 「持てないしぃ……」じゃないのよ莫迦ルイス!!』
アリスからの説教も程々に、僕はとりあえず“ヴォーパルソード”を回収しに行く。
めちゃくちゃ邪魔されるけど。
「君の殺し嫌いのお陰で、僕達の夢は叶う」
「……そこら辺も聞き出したいんだよね」
あぁ、本当に面倒くさい。
何で“ヴォーパルソード”は手元に出す&しまうしか出来ないんだよ。
もっと便利であれよ。
異能剣とか云って、元々シャルルさんに渡されてたぐらいなんだから。
『私は本当に貴方の莫迦さに溜め息しか出ないわ』
そんなアリスの言葉は無視し、僕はヴォーパルソードの奥にワンダーランドに入れていた爆弾を出す。
「爆弾……!?」
爆発寸前だったので、回避などは不可能。
とりあえず爆弾は爆発して、ヴォーパルソードは宙を舞う。
アリスは相変わらず僕の考えが読めているのか、高めの位置に鏡を用意してくれていた。
其処に飛び乗り、もう一度踏み込めばヴォーパルソードは手元に。
これでやっと一方的な攻撃から解放される。
「もうっ! あの人の異能強すぎて嫌だ!」
「ちょっ、メアリー……」
「早くテニエルに会いたいのに何で戦神と戦ってるの!? 花姫を殺してもらった後に戦う予定だったのに! もう嫌だ!!」
二人がいたら、というのはそういう事か。
桜月ちゃんを殺して疲弊した僕を五人で殺す、と云ったところかな。
なかなか面倒くさいことを考えている。
--- 「見つけた___っ!!」 ---
その言葉と同時に、視界の隅にあった扉が炎で吹き飛ばされた。
いや、何事だよ。
ただ予想はついている。
でも敵の異能の可能性も──。
「ルイスさん…っ!!」
「っ桜月ちゃん⁉無事でよかった…君が無事で、本当に…」
柄にもなく泣きそうだ。
一人で戦うのは少し疲れた。
そして、君が無事で本当に安心している。
「…はは、やっぱりフランシスの異能は破られたね、腐ってもポートマフィアだ」
「もうっ、早くテニエルに会いたいのに…ねぇハリエット、もう計画より時間が伸びてるような気がするわ」
「ほら落ち着きなさい、もう少しなんだから…これで次の段階に入れるでしょう?」
次の段階、か。
それは僕と桜月ちゃんが殺し合い、勝った僕が彼らに殺されるというもの。
あれ、意外と本気で戦ってた気がするんだけど。
これで桜月ちゃんに殺されたら彼らの計画はどうなるんだろ。
そんなことを考えている間、先程からわぁわぁ騒いでいたメアリーの“テニエル会いたい欲(なんだそれ)”が悪化。
それをなだめるジョージとハリエット。
とりあえず武器を下ろさずに待っていると、二つの足音が近づいて来ていた。
「っおい、泉に異能力が破られ__」
「フランシス!」
「テニエルーっ」
「ぐぇ」
わぁ、テニエルにメアリーが飛びついた。
僕も彼処に混ざって一発殴っちゃ駄目かな。
「…そういえば、なんですけど」
わちゃわちゃしているのを拳を握りしめて眺めていると、桜月ちゃんが話しかけてくる。
「…気になってることがあって」
「奇遇だね、僕もだよ」
「…ルイスさんの気になること、って…?」
「…名前と苗字と呼称について、。同じかな?」
「は、はい…テニエル、って…苗字じゃないですか」
--- 『どうして兄妹の間柄なのに、なぜジョン・テニエルだけ苗字で呼ばれているのか』 ---
「…ふと、気が付きました」
「僕も序盤のテニエルに電話がかかって来た時から気になっていたかなぁ」
ジョン・テニエル。
苗字呼びに拘る理由が、何かある筈だ。
でも、その前に。
僕達は知らなければならない。
否、無理やりにでも聞き出さなければならない。
「君達は僕らを戦わせ、殺し合わせようと目論んでいる、だよね。…その先に、何を見ている?」
回りくどい云い方は好きだけど、今は辞めておいた。
好きな理由は余計なことも話してくれるかもしれないから。
「さあ、ね。僕達はただ僕達兄妹が幸せに居られる方法を探しているだけさ」
「その為なら犠牲を厭わない、とでも云うのかな」
「当然だろう、情も湧かない者の犠牲を如何して顧みなければならない?」
「…大切な者の、自らの幸せを願うことの何が悪いのかしら」
「その兄妹を縛り付けておいて、何を云ってるの…っ」
--- 「縛り付けてなんか、ないわ」 ---
メアリーの声に、少し圧倒される。
テニエルに未だ抱きついている末子らしいあどけなさに似た、艷やかな声だ。
ジョージと、フランシスと、ハリエット。
彼らは今ばかりは場外らしい。
「私達は、あの子と再会したいと願っているだけ…テニエルだって、同じだもの。同じ願いを持っているのに、何故縛り付けていることになるの?」
「おい、メアリー…!」
「メアリー、それ以上云っては駄目よ」
ふむ。
思わぬところから、何か情報が手に入りそうだ。
「…なら、先ず答えてくれ。君達は何故、テニエルを"ジョン"と呼ばず、"テニエル"と...そう呼ぶ?」
空白。
誰も口を開かない、文章の間のような時間。
僕の問いに答えてくれるのは兄達ではない。
「ねぇ、もういいでしょ?」
やはり、メアリーだ。
「ねえ」
やはり彼女は、一番子供らしい。
そのお陰で僕は助かっているけれど。
「…”あの子”のこと…もう、云っていいでしょ?」
ハリエットが唇を噛みながら、そっとメアリーの頭を撫でた。
ジョージもフランシスも、何も云わない。
テニエルの表情は、ここからでは見えないか。
「私達ね、もう一回あの子に会いたいの」
あの子は、随分と仲の良い人物らしい。
「皆、それだけ。あの子に会いたいだけで、それだけなの」
いや、これは僕よりも近い──。
「…それに、許せない」
「あの子を奪ったこの横浜にのうのうと生きる人全員が、許せない__許せない…!!」
とても駄々を捏ねていたようなメアリーと同一人物に思えない、その雰囲気。
あぁ、桜月ちゃんは気づいているのだろうか。
僕は重ねてしまって、言葉が出ない。
「あの子はね、ジョンのこと…ずっとふざけて、"テニエル"って云ってた」
「だから如何しても、それを離れたくなかった…なかったことにするみたいで、嫌だった」
「あの子が戻って来るまで__私、私達、テニエル以外の名前で呼ぶなんて、できなかった」
世界を超えた繋がりだから、特異点になり得る桜月ちゃんの招猫に対策を討てる。
そんな、いつかのことを僕は思い出していた。
「…あの時、ボスはもう少しで”その子”に会えると…?」
「…そうだよ。ずっと、この機会を狙ってた...これが、俺達の異能を全部活用して、それでようやく辿り着けた唯一の|機会《チャンス》だった」
「なら、テニエルは初めから僕達のことはただ利用していただけだった__そう云うこと?」
やっと出た声は、自分の想像よりもはるかに冷たかった。
利用されていたのはまだ良い。
元々敵だったんだ。
でも、彼らはただ大切な人を──。
「…そんな、心算は…」
「なら君はどっちの味方だったのかな」
これだけは、はっきりさせないと。
「もしも僕と君達兄弟が争う中に君が放り込まれたら、君はどちらの味方をしていた?」
僕はテニエルの顔を見えない。
怯えてるのかな。
息ができなくなったり、していないかな。
「僕達側につく…当然だろう、テニエルは僕達の兄弟なんだから」
「そうよハリエット、もうこの人たち早く殺してしまいましょうよっ、テニエルにずっと可笑しなことを吹き込んで…漸くあの子に会えるっていうのに、私、嫌な気分だわ」
「ええ、メアリー、私もそう思う。でも…花姫を手に掛けれるのは私達じゃない。__戦神よ…その後に戦神を皆で倒すの。踏み違えれば、計画が狂ってしまう」
慣れたはずなのに、その名前に顔が歪む。
「…そうか、前に云っていたね…テニエル、君は僕の世界で、僕の過去もちらりと知っていると」
「ああ。俺は色々な世界をこの異能で見てきた。初めはただ異能を使いこなそうと数を見て来ただけだった、けれどいつの間にかその目的は、…凡ては、…凡ては」
--- 『…もう一度、イライザに逢うため』 ---
「…それだけになっていた」
イライザ。
それが“大切な人”の名前。
「イライザの身には、何があったの?」
桜月ちゃんの問いは正しい。
あの子を奪った、あの子に会える。
そんな言葉からとっくに予想はついていた。
「…死んだ」
静かな声だった。
声の大きさではない。
感情的ではない優しい声。
「…この、横浜で?」
「…そうよ、数年前の抗争に巻き込まれて」
「それ、もしかして、」
「きっとマフィアに籍を置いた経験のある貴方達二人なら知っているでしょう」
僕もマフィアに籍を置いていたことが知られているのか。
そして様々な事件があったけれど、“抗争”という言い方から──
「…否、龍頭抗争、だね」
「流石は戦神、御名答。あの抗争のとき、僕達は横浜に来ていたんだ…此処には、すごく綺麗な景色を見られるところがあるって、そう聞いたからね」
「イライザはね、とっても夕日が好きだったのよ!」
嬉しそうな声色のメアリー。
「だから、今度はあんなことにならないで、私達だけで誰にも邪魔されずに景色を見るの…またこの中の誰かが死ぬだなんて、考えたくもないもの」
あぁ、そうだ。
大切な人達がまた死ぬなんて考えたくはない。
けど──。
「…わからない」
「何が?」
「…僕も、わからないね」
「何かおかしいことがあったかしら?」
「…結局貴方が何をしたいのか、全く分からない」
「君が何を望んでいるのかが分からない」
--- 『ねぇ、テニエル』 ---
ヴォーパルソードはとっくにしまっていた。
この会話に必要がないものだ。
桜月ちゃんと重なった声は、何処かいつもの自分とは違う気がする。
僕もこうなっていたかもしれないと。
そんな想いが、あったからなのかもしれない。
探偵社とロリーナ。
僕だったら、どっちを取る──、?
いやぁ、投稿遅れちゃった((
てことでコラボも8話目ですよ。
未だにキャラが掴めてなくて私が描いた部分はパァという感じだと思いますけどここまで読んでくれてありがとうございます!
相変わらずの天才的なストーリーでヤヴァイ。
そしてイライザさんどちら様~!?
うぅ、頑張ってくれルイスくん。
桜月ちゃん殺したら許さないからなぁ!
てことで、ののはなさんの桜月ちゃんsideもお願いします!
それじゃまた!