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薄氷
白杜…始末屋。
イツキ…情報屋。
安曇星羅…社員。
白杜は『始末屋』だ。
文字通り、裏切った者や証拠を“始末“する仕事。
一番危険な仕事とも言われているが、幸運なことに白杜は所謂“有名人“を始末したことはない。
白杜「頼むから裏切らないでくださいね…」
始末屋の数も減り、今後“有名人“が裏切れば、白杜に回ってくる可能性が高い。
白杜とて、まだ死にたくないのだ。
そう言うことを言うと、決まって世渡り上手の同期生は言うのだ。
『お前が殺す奴らも、おんなじやないか』と。
白杜「まあ、自己防衛する権利くらいありますよね」
始末屋も“始末“される可能性があるが、考えないことにする。
今日のお相手は会社の下っ端の1人だ。
名簿を持ち逃げしているらしい。
どこぞのヤクザの構成員リストならまだ良かった。
『会社』の一部の殺し屋の住所や本名、履歴のリストだ。
下っ端1人が襲ってきても、彼らなら瞬殺だろう。だが、リストを『貿易社』や『龍門会』に回されると一大事。
早急に始末せよ、と言うことで、報酬もかなり高い。
白杜「…で、その彼は今どこに?」
イツキ『すぐそこやでー。迷子になっとる』
白杜「不運ですね」
イツキ『盗んだ瞬間を目撃されたのにまだ逃げれとるんやし、一応幸運やないんか?』
白杜「僕に依頼された時点で、不幸になること確定ですよ」
イツキ『雪森くんサイコ出さんといて』
スマホの向こうでイツキが苦笑いする様子が目に浮かぶ。
白杜の本名は雪森ではないのだが、“仮称“ということらしい。
白杜「失礼ですね。僕は傲慢でもないですし、嘘を吐くのも苦手です。あなたの方がサイコパスのようですよ」
イツキ『俺は衝動的に行動せんし、他者への関心もあるで?』
白杜「どうでもいいですけど、お相手はどちらですか」
イツキ『なんかお見合いする時みたいやなw で、えーと…安曇星羅は…』
白杜「凄い名前ですね」
イツキ『なー。まあ、あと1時間すれば消えるけどな』
安曇は廃ビルのそばを彷徨いていた。
白杜「安曇星羅さんですか?僕は白杜と申します」
安曇「えっと…どちら様ですか?」
白杜「『会社』からあなたの始末を依頼されました」
安曇「なんで…」
安曇は即座に踵を返し、ビルの中へ逃げていく。階段を使って上へ行ったようだ。
白杜「面倒ですね」
新しく仕入れたばかりの拳銃を取り出す。
イツキ『気をつけてやー』
白杜「五月蝿いですね。黙ってくれます?」
イツキ『あーい』
できるだけ音を立てないように気をつけて階段を上る。
安曇「わぁっ!?」
4階に辿り着く目前で、置きっ放しの掃除用具の影にいた安曇を見つけた。
拳銃を向ける前に、想像以上の俊敏さでつい先程白杜が上ってきた階段から飛び降りる。
白杜「…はあ?」
どこぞの死神モドキのように軽やかに、とは言えなかったが、無事に受け身を取って3階に消えていってしまう。
白杜「雑魚のくせに逃げんなよ!」
3階は元々オフィスか何かだったようで、古びた机や椅子がそのままになっていた。
白杜「…面倒だな」
天井に向けて一発、発砲した。
白杜「とっとと出てこないと殺すよ?」
机や椅子の陰を覗きながら奥へ向かう。
白杜「……なんだ、そこにいたんだ」
部屋の一番奥にあるスチール棚のそばに安曇がいた。
白杜「リストは?」
安曇「…もう、ここにはないです」
白杜「はあ?…ま、僕には関係ないから別にいいですけど」
安曇「……取引しませんか?」
白杜「取引、ですか」
安曇「『会社』を潰しにかかっているところがあるんです。そこに、あなたも入れるようお願いしますから…」
白杜「見逃してください、と?…嫌です」
安曇「なんで…」
白杜「僕は、そもそも『会社』の人間じゃないんですよ。依頼されて仕事しているだけ。むしろ、あなたの取引に乗って『会社』に敵対する方が危ないんです」
安曇は驚いたようで、目を彷徨かせている。
白杜「喋りすぎましたね。そろそろ死んでください」
拳銃を向けると、唐突に安曇が突っ込んできた。
不意打ちの攻撃によろけ、棚にぶつかる。
その棚が、後ろに傾いた。
白杜「は…?」
棚と共に、落下する。
地面に横たわったままビルを見上げれば、自分が落ちた場所が大きな窓になっていたとわかる。
安曇は、わざとあそこに自分を誘き出したらしい。
イツキ『雪森くーん。大丈夫か?』
白杜「ちょっと今あなたと喋りたくないんですけど?」
イツキ『ええやんかー。俺だって、人が潰れる音聞きたないのに聞かされたもん』
白杜「……迎えにきてくれません?」
イツキ『あ、結構ヤバいん?』
白杜「暫く動きたくないですね」
イツキ『おー。お前も人間やもんな。わかりやすくて助かったわ』
白杜「え…?」
イツキは尚も喋り続ける。
イツキ『ちょっと怒らせたらなんも考えれなくなるんやもん。小細工が大変だったわ』
考えてみれば、なぜ3階から落下したのにスマホは無事なのか?
安曇「ごめんなさい。あなたは俺のこと知らんから、イツキに協力させてもらいました」
白杜「…安曇も偽物…。全部嘘だったってことですか」
イツキ『せやでー。気づくの遅いわ。…あ、今からそっち行くから、そこで待っといて』
安曇「わかった」
通話が切れる。
白杜「…なんで僕を殺すんですか」
安曇「俺は…あんま分からんけど、始末されたら困るみたいで」
白杜が持っていた拳銃を安曇は弄くり回している。
数分でイツキもやってきた。
イツキ「あ、思ったより軽傷や。棚の上に落ちたからか?」
白杜「殺すのならとっととしてくださいよ」
イツキ「そうするわ」
なんの躊躇もなく、イツキはバットを振り下ろした。
長くなってしまい申し訳ない
不穏にしていきたいな…と思っています