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名もない君に祝福を。第3話
僕の両親は医者だった。
それなりに大きな病院を持っていて、それなりに有名な病院だった。
ある日、救急車で重体の患者が運ばれてきた。
当時の大統領、大統領夫人、そして息子。
父さんも母さんも最大限尽くした。
手術は成功した…はずだった。
手術は失敗。
大統領と大統領夫人は死んだ。
ただ一人、息子だけ。
息子だけが生き残った。
父さんと母さんは責任追及、いよいよ病院は潰れた。
一人生き残った大統領の息子_____それが、紺。
身寄りもない紺を引き取ったのは父さんだ。
責任は自分にあると自ら進んで立候補したのだ。
「紺」は、お父さんがつけた名前。
何事にも染まらずしっかりと芯を持つ黒と、綺麗で純粋な青を混ぜた色。
本当の名前は、知らない。
僕と紺は血が繋がっていない。
それでも僕は紺を助ける。
だって…
「お兄ちゃん…」
紺が不安そうにこちらを見上げる。
「どうした?」
「怖い…」
「…そっか。」
大丈夫、大丈夫。
紺の頭を撫でる。
大丈夫、大丈夫。
自分にも言い聞かせた。
大丈夫、大丈夫。
僕は紺を守らなければならない。
どんなことだって、大丈夫。
「さっき病気があるって言った子たち、先に降りて」
飛行機が着陸してから、Mが話した。
「お兄ちゃんも一緒にじゃだめですか…?」
「付添人かい?いいよ〜、そっちの女の子は?」
「いませんので大丈夫です」
「了解〜」
ほっ…
なんとか紺と一緒にこれた。
ガタイのいい黒スーツに、立派な豪邸の中に連れてこられる。
「ちょっと待っててね」と、椅子に座らせられた。
「こんなことになってなかったら、多分すごくいい所だったんだろうなぁ…」
「実家よりすこし小さいくらいかしら。立派なものね。」
「いやどんな豪邸に住んでたんだよ…」
なんてことを話して、十分ほど過ぎただろうか。
「やぁ、待たせてしまったね。」
「!」
急にMが現れた。
後ろには、さっきより増えた黒スーツが。
「…他の人たちは?」
「他の人たちって?」
「飛行機に乗ってた僕ら以外の人たち。」
「あぁ…全員、殺したよ」
紺が悲鳴を上げた。
僕は呆然と、ただMを見上げている。
殺した?
数百人の命を?
なんてことだ…
「僕が見たいのは残酷な、それでいて綺麗な死体。僕の理想を求めるためにはなんだってする。」
なんて、なんてやつだ…
沸々と怒りが湧いてくる。
どうしようもない怒りを持ち今にも動き出しそうな僕をおさめたのは紺だった。
「お兄ちゃん、大丈夫、大丈夫だよ」
紺の顔を見たら、僕は何をしにきているのか、何をしなければならないのかを思い出した。
そうだ、僕は…僕は、紺を助けるんだ。
「ねぇ、そこの君…天使病の君だよ。」
「なんですか…?」
「君を僕に頂戴。」
「えっ?」
「拷問して、その病気で死ぬまで虐めてあげる。そしたら最後には血と絶望に染まるそれはそれは綺麗な白の死体が出来上がる…僕はそんな死体を見てみたい。だから君を」
「ふざけんなッッ!!!」
紺を人殺しのお前に渡す?拷問させる?殺す?
ふざけるなふざけるなふざけるな。
紺は幸せになる資格がある。
紺は絶対に、絶対に、僕が幸せにするんだ…!!!!
「ふざける?僕はいたって真面目だよ」
「ふざけてなくても馬鹿みたいなこと言うな。紺は幸せになるんだ。それ以外許さない。」
「そう…じゃあ優しい僕は…紺くんって言うのかな?君の意見を聞いてあげる。」
「ぼっ、僕は…」
紺は言いづらそうだった。
それもそうだ、「嫌だ」と言った瞬間僕らが殺されそうな雰囲気があるから。
紺は、周りに被害が及ぶなら、自らの身を差し出す優しい子だから…
「紺!!!」
今までずっと黙っていた華陽が叫んだ。
「私たちはどうなったっていい!!あなたの思うがままに、あなたの道を進みなさい!!!」
紺がハッとした。
目を見開いてこちらをみている。
華陽は、澄んだ真剣な眼差しでじっと紺を睨んでいた。
「ぼ、僕は…」
ひどく震えている声で紺が言った。
「僕は、自由に、ありのままに生きる!!お前のものになんか、なるかー!!!!!」