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6 - 轢死
パァー…ンと、汽笛が鳴る。
私の体が宙に浮いた。思いっきり飛び込むんだ。
キキーと、偽善の音が鳴る。
ワンテンポ遅れて、誰かの悲鳴。
通過電車だった。速度など落ちない。
今更、ブレーキなんてかけても遅い。
地面に叩きつけられるより早く。
|鈍《にぶ》い音とともに、私の体は もう一度宙に浮いた。
まるでボールみたいだ。
音のない世界だった。
体が線路の枕木に叩きつけられた。
バウンドする前に、私の瞳に車輪が映った。
ぶちぶちという音をたてて、|四肢《しし》が引きちぎられていく。
その痛みを感じる前に、血肉を巻き上げる車輪が 私の首を踏みつけた。
首と胴は泣き別れ、私の魂は肉体から抜け出て空に浮く。
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ほんの一瞬のことだった。
誰かの悲鳴が聞こえる。
|嗚咽《おえつ》と|嘔吐《おうと》の音が聞こえる。
———私、そんなにひどい状態だった?
あの人、携帯を耳に押しつけて、怒鳴って何をしているんだろう。
———でもさ、
あなたたち、見向きもしなかったでしょう?
私が駅のホームの片隅で泣いていても、
階段の手すりにもたれて|蹲《うずくま》っていても、
見向きもしなかったでしょう?
ああ、でも、それもそうか。
あなたたちにとって、私は知らない人だもんね。
———馬鹿みたいだな。