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マンティス
甲斐涼雅
コンクリートの隙間から生えた一本の雑草の中で、俺は静かに獲物を待っていた。アスファルトの熱気が陽炎のように揺らめき、遠くの車の音がセミの鳴き声と混じり合う。腹の底から湧き上がる空虚感と、背中を這いずるような苛立ちが、俺の鎌を無意識に震わせた。
俺はカマキリ。この世界では、食うか、食われるか、それしかない。生まれたときから、その絶対的なルールを叩き込まれてきた。小さな虫けらを捕らえ、その生命を貪る。それが俺たちの存在意義であり、唯一の喜びだ。しかし、喜びの裏には常に虚しさが付き纏う。満たされた腹のすぐそばで、次に食うもののことを考える。食い尽くせば、また次の空腹が押し寄せる。この無限の連鎖に、一体どんな意味があるというのか。
俺たち昆虫はただ生きることに必死だ。誰かに食われる恐怖、飢えの苦しみ。それに抗うために、ただ貪欲に獲物を追い求める。俺もそうだった。初めて獲物を仕留めたときの高揚感、力が漲る感覚。あの頃は、生きることに理由なんて必要なかった。ただ強くなること、生き残ることそれだけだった。
ある日、俺は飛んできたトンボを仕留め損ねた。あと一歩、あとほんの少しで捕まえられたはずの獲物は、俺の鎌の寸前で素早く方向転換し、青空へと消えていった。その瞬間、俺は初めて、自分の限界を見た気がした。そして、同時に理解したのだ。どれだけ強くても、どれだけ貪欲でも、この弱肉強食の世界で、完璧な勝利など存在しないことを。いつか必ず、俺もまた、誰かの獲物になる日が来る。そのとき、俺の生きてきた意味は、一体どこへ行くのだろう。
俺の視線の先に、小さなアリが懸命に何かを運んでいる。彼らは彼らで、また別の食物連鎖の中にいる。俺が彼らを食うこともできる。しかし、今はその気になれない。ただ、彼らの懸命な姿を眺めていると、ふと、自分たちの存在が途方もなくちっぽけなものに思えてくる。
太陽が傾き始め、アスファルトの熱気が少しずつ和らいでいく。俺は、今日も生き延びた。明日もまた、獲物を求め、鎌を振るうだろう。それが俺の定めだからだ。しかし、この生が、この繰り返される弱肉強食の営みが、一体どこへ向かうのか。その答えは、未だに見つからない。
俺はカマキリ。そして、この虚しさを抱えたまま、今日もまた、獲物を待つ。