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この花びらが散る前に
気付いたら、私はあるお城にいました。
そのお城は大きくて、きれいなお城でした。
まるで夢の中にいるような感覚。
ごく普通の中学生の私がおとぎ話の中のお嬢様みたい。
そう。それはこの理想世界と現実世界での私の物語。
中庭に出てみた。
そこにはお城とは思えない空間が広がっていたの。
赤い魚が泳いでいて、ここは金魚鉢みたいだった。
大きな絵画が二つ置いてあった。
「誰が書いたんだろう」
つい、声に出してしまった。
その絵はとても綺麗な沈丁花とエリカが書いてあった。
もともと花には興味があったから少しはわかる。
でも、どうしてこの花なのだろう。
そう私は思って中庭を後にした。
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ここは、大きい部屋。
とにかく大きい部屋。
天井は高く、カーペットが敷いてある。
天井には大きなシャンデリアまである。
また絵もある。
今度はいつの物かわからない夏祭りらしきものの絵。
一体誰が住んでいるのだろう。
今考えてみれば、誰もここにはいない。
それだけ広いのか。
いや、それだけ広ければ人っ子一人は見かけているだろう。
ここは何なのか。
私は、どうしてここにいるのか。
今日は、家にいた。
学校には、もう三か月も行っていない。
まぁ、今はこのお城に誰かが住んでいるのかを確かめよう。
「あのー!」
出した声がお城中に響く
カタと、物音がした気がする。
物音がしたほうへ行ってみると、
綺麗なドレスをまとった女の子が立っていた。
その子は言った。
「お客さん?」
私の事だろう。
でも私はこのお城になぜいるのかわからない。
「いいえ。私は気づいたらこのお城にいたの。」
「そうなのね。今日はお父様がお客さんを呼ばれる日だったの」
お客さん。お父さん。
お父さんは何処にいるのであろうか。
「でも、お父様はお客さんを迎えに行ったっきり、もう五時間も戻ってきていないのよ。」
そうか。この子のお父さんは、きっともう。
「こんなところで立っていても足が痛くなってしまうだけね。」
「あ、そうだ!昨日お父様が買ってくれた紅茶でも飲みましょう!」
「いいの?」
「ええもちろん!ちょうどクッキーもあるわ!」
「じゃあ、ご馳走になろうかな」
「是非食べて行ってちょうだい!」
女の子に手を引かれて私は厨房へと向かった。
厨房に行く途中の廊下にも絵が飾ってあったな…
そんなことを思いながらひたすら足を動かしていたら厨房についていた。
「座って!」
「あ、うん。ありがとう。」
すごく元気な子だな。
私と同じ、中学生くらいの女の子なのかな?
「じゃ、お話しましょ!」
そういって女の子は紅茶とクッキーをテーブルに置いた。
「あなたは何処から来たの?」
「ん...わかんない」
「じゃあ、お名前は?」
「朝比奈衣央って名前」
「素敵な名前ね!あまりここら辺では聞かない綺麗な響きね!」
「私はマリアって言うの」
「マリアちゃん?」
「マリアでいいわよ」
この女の子はマリアというようだ。
あまり、というかアニメや小説でしか聞かないような名前だ。
とてもかわいいが。
「マリアはこのお城に一人で住んでいるの?」
「お父様と二人なの。お母様とお兄様は3年前に馬車に...」
「あ、ごめんね。」
「大丈夫よ。もう三年前だもの」
そう笑うマリアは少しだけ悲しそうな表情をしていた。
「ねぇマリア、マリアは絵を描くのが好きなの?」
「ええ、そうよ!大好き!」
「やっぱり?さっきここまで来るときにたくさん絵を見てきたの」
「そうだったのね!気づいてくれてうれしいわ!」
本当に絵が好きなんだなと思う。
「他にも絵を描いたの!紅茶を飲み終わったら見に行きましょう!」
「いいの?ありがとう」
チョコの味をしたクッキーに、温かい紅茶を飲んで私はマリアの絵を見に行った。
その部屋は一面絵で埋め尽くされていた。
床にはパレットや筆、絵の具などがある。
他にもバケツなどが置いてある。
「ここがマリアの絵を描く部屋?」
「そうよ。私は絵画部屋と呼んでいるの」
「そうなんだ」
空の絵。夕暮れの絵。
桜の絵。公園の絵。
たくさんの絵がある。
どれも色合いが暖かくて綺麗だ。
その中に一つ。
絶望を感じさせるような、心が引き込まれる絵が置いてあった。
それは黒くて黒以外に何もない。
黒一色で作られた絵。
そんな絵すら素敵に思える。
この絵にはどんな気持ちが込められているのであろうか。
気になってしょうがない。
でも、この絵には、触れてはいけない気がする。
「?なにかあったかしら?」
「んーん。何も。この桜の絵がきれいだなーって」
「その桜の絵ね!その絵は色使いに気を付けたわ」
「とっても暖かい。この絵の中に入ったみたい」
「そう?ありがとう!イオ!」
自分の好きなことに自信を持てるのはすごいことだと思う。
私だって...
「私は、絵の道に進みたいです。」
「絵?そんなのでご飯話食べられないぞ」
「でも、好きなことをするだけで気持ちが軽くなるっていうか...」
「気持ちが軽くなる?そんなの気のせいに決まってるじゃないか。
朝比奈は頭がいいんだから、科学者とか教師のほうが向いてるぞ」
「...」
「この高校とかどうだ?先生も勉強は手伝ってやるからいけると思うぞ?」
「そう、ですね」
好きなこと、絵を描くこと。
芸術の道を否定されて、進む道も決められて。
私は貴女みたいに自由じゃない。
「ねえイオ」
「ん?なに?」
「今日はこれからどうするの?」
「あ、そうだった...」
「私はこのお城から出たことがないから外には案内できないけど、、、」
「出たことない...?」
「えぇ。そうよ。」