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1. カオルと薫
思い出せば死にそうになっちゃうくらい、寂しくて、大好きで、グロいなんて、酷い夏でした。
石で出来た階段を履きなれないサンダルで登る。海がすぐそこだから、潮の匂いがする。
木に生い茂る葉っぱを手で掻き分けた先には、綺麗な海が広がっていた。
青くて、広くて、綺麗で、輝いている太平洋。太陽の日差しが反射して少し眩しい。
足元の方を見ても海が見える。ここは海に面した自然にできた石垣だったみたいでもう少し歩くと海に落ちる。透明で綺麗な海だから落ちたって良いけど。
「誰」
突然声がした。
男の人の声だ。
落ちないように前に進むとすぐそこに石垣に腰掛けた少年が居た。多分年は同じくらいで、制服を着ている。
足は海のほうに出していて、スニーカーを履いている。私はセーラーの制服にサンダルだから、妙に親近感が湧いた。
「誰」って質問には答えずに、少年の右隣に同じように腰掛けた。
下ろしてある長い髪は座ると地面に着いてしまうから前に持ってくる。
少年は目が少し隠れるくらいに髪が長くて、茶色に染めていた。
少年は髪の隙間から見える綺麗な二重を持った切れ長な目で私をじっと見つめる。
「美人だな」
そう呟いた。
「よく言われるよ」
いつも男の子に美人だと言われるとそう返す。若干引いてくれるから。
ありがとうとかそんな事ないよとか言ったら、女の子たちがあーだこーだ裏で言うからこうしてる。
「で、誰。歳いくつ」
男の子は私から目を逸らしてまた海に視線を戻す。
「じゅっ、15歳。昨日この街に越してきたの。名前はカオル。佐賀美カオル。カタカナなんだ。ねえ、あなたミナトでしょ!ママが近所に私と同い年の男の子がいるって言ってたの。きっとそう!」
私は男の子のほうに少し前のめりになって話す。目がよく見えなくて、はなしにくいからだ。
「あ!折角だからこの街紹介し_____」
「ごめん、用事あんだよね」
バレバレの嘘をついて彼は立った。鍵かなんかを持って私が来た道から去っていった。「ばいばい」と一言言ってから。
運命の人みたいな出会い方だったのにあっけなく行っちゃった。
家に帰って、エアコンの着いた快適な部屋でくつろぐ。木目の家で、東京のときの家とは全然違うけど、おしゃれで素敵。
てか、ほんとにあいつはなんなんだろう。ミナト…ミナトって名前かな。苗字はなんて言うんだろう。茶髪はもしかしたら地毛なのかな。綺麗って言ってくれて嬉しかったな。また会えるかな。用事ってなんなんだろう。
頭の中をグルグルと、あいつの事を考えていた。すると、ピンポーンと無機質なチャイムの音が鳴った。
窓から顔を出して、「誰ー?」と声をあげる。
すると、キャップ帽を被った女の子が顔を上げた。
「えっと、同じ学校の結崎すみれって言うの!ママに挨拶しろって言われて、、トマトも、、あるの!」
「今行く!」
私は階段を駆け下りて、玄関先に出た。
暑い夏。すみれと名乗った女の子は汗をかいていた。
「良かったら中はいる?暑いよね」
すると女の子は嬉しそうに頷いた。
〜
「そうなんだ!夏休み明けから!えっと…名前はなんだっけ?」
「私は、山田薫。薫って呼んでね」
「えっうそ!かおるっていうんだ」
「うん」
「ここから近い家の男の子も、かおるっていうんだよ」
「え、それって」
「湊カオル。茶髪の男の子だよ」