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12.法令発布5
「カナン、待たせたわね。」
「いえいえ、それが仕事ですから。」
校門に行くと、カナンがいつも通り待っていた。
それが仕事…待っていることは否定しないのね。
「では、よろしくね。」
御者の人に挨拶する。
こうするといつも恐縮されるのよね。公爵令嬢としてお礼も言わないなんて、出来ないわ!
「カナン、お父様は今日は屋敷にいるのかしら?」
「王城に行く予定は無さそうだと聞いております。たぶんお屋敷にいらっしゃるでしょう。」
「お母様は?」
「奥様も、多分おられることでしょう。」
え?いつの間に帰ったのかしら?日曜にはまだ帰っていなかったと思うのだけれど…
これは後で聞くことにしましょう。
「ただいま〜」
「え?」
使用人に驚かれた。大丈夫かしら?この家。使用人が敬うべき貴族にタメ口を使っているのよ。
「カナンから聞いていない?今日は帰ると伝えてもらったはずだけど…」
ちらりとカナンを見る。
カナンは自信ありげに頷いた。うん、大丈夫、連絡は行われているはずだわ。そうなると…この使用人かしら?問題は。それとも連絡に不備がある我が家の支配体制?
「あぁ…!申し訳ございませんでした!!」
「謝罪は聞いていないわ。理由を答えて。」
「今日は平日なので、お帰りは遅くなるのだと勝手に考えていました!」
「そう、学園はどの日もタイムスケジュールは変わらないわ。今度からは気を付けることね。」
「…いいのですか?」
「何が?」
「私は…お嬢様に無礼を働いてしまいました。」
「今度からは気を付けるのでしょう。なら問題ないわ。」
わたくしが「許す」と言わないようにしてくださらないかしら?それも「約束」になったら大変なのよ。
「…! ありがとうございますっ!」
「お父様は?」
「執務室におられます。」
「そう、ありがとう。」
ーコンコン
「どうぞ、とのことです。」
「執務中失礼します。」
「どうした?」
「お父様に聞きたいことがあって来ました。」
お父様の表情が読めないわ。けれど…今、肩が跳ねたわよね?
「なんだ?」
「今日、わたくしは大勢の人に話しかけられ、授業でもあてられ、目立たせられ、大変な迷惑を被ったのですが…お兄様達は何も変わっていませんでした。わたくしは、お父様が媚びを売る人と売らない人を見分けるために何かをしたのかと考えたのですが、違いそうです。お父様、一体何をしたのですか?そして、何故、わたくしだけなのでしょうか?お答えください。」
「私は何もしていないぞ。なぜ、私がしたと考える?」
「では、質問を変えましょう。先に言っておきますと、このようなことをしそうなのはお父様だけなのですし、お兄様にもお父様が原因だと確認を取ってはいるのですが…お父様は何か知っていますよね?」
「約束」使ってみようかしら?
「さぁな。」
「あくまで|嘯《うそぶ》くつもりですね?でしたら、わたくしと約束してください。今から十分間、嘘は言わない、と。その代わりわたくしも嘘は言いません。」
何も知らないなら約束できますよね?という目でお父様を見つめる。
「分かった。約束しよう。」
これで「約束」は出来た。これによりわたくしもお父様も神々によって嘘がつけなくなる。
「では、質問します。お父様は最後の金曜日から、本日にかけて、何かしましたか?」
ー30秒
「さぁ」
「はい、か、いいえ、でお答えください。」
ー1分
「はい…」
「何をしましたか?誤魔化しても聞き出すだけです。話された方がいいと思いますよ?」
ー2分
「法令を発布した。」
「それの内容は?」
「…。」
ー4分
一体お父様は何秒沈黙すればいいのでしょう?
「沈黙で答えないでください。そうですね…まあ後ろめたいことがまさかあるわけ無いでしょうし、30以内に答え始め、30秒以内で答えられますよね?」
「あぁ。」
あら、また「約束」してくれたわ。やっぱりお父様は優しいわね。
ー5分
「では、内容をお応えください。」
「…。公爵令嬢、クラン・ヒマリアの心を開いた者1人に、金貨100枚の報奨をやる。」
お父様…ギリギリまで粘ったわね。意味はないというのに。
ー6分
「なぜ、そのような法令を?あぁ…早く答えていただいて、時間が余りましたらわたくしもお父様のの質問に答えますわよ?」
「クランが学校に一人でいるから。公爵令嬢として心配になった。」
ー7分
「なるほど…分かりました。心配してくれてありがとうございます。お父様が沈黙したせいで、もうあと3分くらいしか時間がありませんね。何か質問がありましたら、わたくしも嘘は言えませんし、答えますが?」
お父様は、何かを迷った末に口を開いた。
「何故、私は今嘘をつけない?」
お父様…それは、一回はわたくしとの約束を破って嘘を言おうとした、ということですよね?
ー8分
「それはですね、わたくしと『約束』したからですよ。」
ー9分
ー10分
「時間ですね。お答えいただき誠にありがとうございました。」
やはり、お父様が関わっていた。
わたくしの心を開いたら金貨100枚ですって?確かにそれなら皆さん取り入ろうとするはずですわ。納得しました。
「お父様、迷惑ですのでそれはなくしていただけませんか?でないと…そうですね。お父様がわたくしに永遠に嘘を言わないことを『約束』してもらいましょうかね?」
「…分かった!廃止する!」
「そう、それは良かったです。お父様が、わたくしとの約束を破ろうとしたことがあるともわかったので、これからはお父様には注意するようにしておきますわ。」
なんか…クラン・ヒマリアが悪役令嬢みたいになっていない?気のせいかな?
書くのとても楽しかったです!