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永久にー。3
君は―誰?
―華を失ってから1ヶ月、いつものように元気な馬たちに囲まれて厩舎を見回っていると、華の厩舎のところに新しい馬が入っていた。その馬は乗馬クラブの馬で、スランと同じく白毛の真っ白な馬。競馬の馬で何回も勝利したことがあるすごい馬だ。するとその馬を見てた私に清宮先生が
「鈴ちゃん、いつも素敵な名前つけるからこの馬も名前、付けてくれる?」
と言ってくれた。私はたくさん悩んで、この子にぴったりな名前が完成した。真っ黒の光る目に真っ白な体、スランと同じくらい綺麗。
スワン。白鳥からとった名前だ。白鳥のように綺麗に羽ばたいて素敵な人生を送ってほしと思って。それからスワンは乗馬クラブの人気者になった。乗馬を見に来た人たちや、スワンに乗る子もみんな笑顔だった。時々洗い場でスワンとスランを並べてみるとあたりが雪のように白くなり、スワンもスランもだんだん仲良くなってきた。
次の日、レッスンがあるのでスランを馬装し、レッスンに行くと今日はプライベートレッスンではなく、もう1人レッスンを受ける子がいた。その子は高校1年生の柴部崎杏という名前の子だ。杏ちゃんはマルという馬に乗っている。マルは乗馬クラブの馬でアハルテケという品種の馬だ。マルはすごく大きな体の馬ですごく立派な馬。今日は横木レッスン。マルは鹿毛(茶色)の馬。スランの白毛と並ぶとすごく迫力がある。マルはこの乗馬クラブのベテランさんで、来年どこかの乗馬クラブに行くらしい。私はレッスンが終わるとマルを触りに行った。マルは体も大きく近くにいるだけですごい迫力がある。その後に、スランを見ると美しい顔に真っ白な体。マルとはまた違う迫力だった。
その日から360日後、とうとうマルがほかの乗馬クラブに行く日が来た。私は最後にマルにギュッと抱きついて、にんじんをあげた。マルのトラックが出発する。すごく可愛くて迫力のあるマル。私はそんなマルに出会えたことを嬉しく思った。私はその日、マルを乗せたトラックが山の向こうに見えなくなるまで手を振り続けた。
次の日、マルの部屋は空っぽになっていた。多分新しい馬が入るのだろう。マルの部屋は真ん中にあって、とても目立つところにあった。そこの部屋でマルは昨日まで光り輝いていた。今はマルがいなくなってどんよりとした空気に包まれている。だけど、次この部屋に馬が入ったらまた、賑やかな空気に包まれ人も馬も笑顔でいっぱいになると思う。そうなってくれたら、と私は思う。
その1週間後、ついにその時が来た。マルのいた所に新し馬が入っていた。名前はーまだ決まっていないようだ。その馬はホルシュタイナーという品種の馬で、マルと同じくらい大きい。私がその馬に触ろうとすると、その馬はそっと目を閉じて近づいてきた。私はびっくりしたけど、その日はずっとその馬に触っていた気がした。私はその子を触り終えるとスランのもとに向かった。いつもどうりスランは首を出してこっちを見てきた。私は思わず吹き出しそうになった。いつものことだけど、やっぱり可愛すぎる。
「よろしくね」
と言って、スランとの練習を始めた。
練習から帰るとマルの部屋の子が私が近づくと首を出してきた。私は自然に笑みがこぼれた。私はその子のことをよく知るために、名札を見た。するとさっきまで名前がなかったのに名前が決まっていた。―麻柊。いい名前だな、と思った。私が
「麻柊!」
と呼ぶと麻柊は近づいてきて頭をこすりつけた。スランみたいにすぐ人になれる馬なんだな、私はそう思って麻柊の部屋から離れようとした。私はハッと思い出した。この麻柊が乗馬クラブの馬なのか、自馬なのか。慌てて麻柊を紹介している紙を見る。私は―沈黙した。自馬か乗馬クラブの馬かが書かれているところは空白だった。
「―え?」
思わず声が出た。私は清宮先生のところへ急いだ。
「先生、麻柊はこのクラブの馬なんですか?」
先生は私が何を言っているのかがさっぱり分からないような顔をして、黙ったままだった。
「先生?」
先生は麻柊に麻柊という名前が付いたことを知らないのだろうか。すると
「鈴、麻柊って子このクラブにいたっけ。」
「え?」
私は逆に先生の言っていることが分からなかった。
次の日、麻柊の部屋は空っぽだった。あぁ、やっぱり。先生の言っていることが正しかったんだ。でもこの手で麻柊を触った感覚があった。確かに触った。なのに。私はただ不思議に思った。
「かわいい!」
その声に気が付いて驚いて振り向くとそこには菜々ちゃんと清宮先生、蒼馬君がいた。私に気づいた菜々ちゃんが
「鈴ちゃん来て!」
と言った。私は早歩きで菜々ちゃんのところに向かった。すると―。私は長い沈黙に落とされた。―そこには昨日見た麻柊の姿があった。
「―麻柊。」
気付けば口からボソッとそんな声が漏れていた。
「ましゅう?」
と菜々ちゃんが聞き返してきた。
「え」
思わず声が出た。体が反射的に名札に向く。―まだ名前が決まっていないようだ。
「あ…何でもないよ。」
ちょっと身を引き気味にしてぎこちなくそう言うと菜々ちゃんはちょっとおかしそうに笑った。「あ!この子の名前鈴ちゃんと菜々ちゃんと蒼馬君に決めてもらおうかな。」
と清宮先生が言い出したから
「え」
と声が漏れた。でも私はすぐさま
「はい!」
と答えた。理由はただ一つ。この子に麻柊と命名したい。どうしても。と、私の心が叫んでいる。私の妄想で麻柊が出てきた。だから―。
「じゃ、私も。」
続けて菜々ちゃんもそう言った。
「じゃ、僕も…」
蒼馬君も頷いてくれた。清宮先生は満面の笑みを浮かべている。清宮先生の笑顔を見ると私もつられて笑顔になてしまう。3人そろえて
「頑張ります!」
と言った。と言っても、蒼馬君とは初対面だ。うまくやっていけるのかな…まぁ、菜々ちゃんがいるから大丈夫でしょ。今日、レッスン後に名前を決める話し合いをする。私は第一候補に麻柊と言うつもりだ。麻柊になればいいな、と思いながら大好きなスランのもとへと向かった。スランの周りの厩舎にはモラネンシス、麻柊、ヴェロネーゼ、スワンがいる。1頭ずつ見ていくと全く違う顔つきで、見ていると面白い。その中でも、やっぱりスランが一番美しかった。角砂糖をあげて、スランの首に抱きついた。
「スラン!頑張ろ!」
私が元気よく言うとスランが頷くように首を振った。
永久にー。3を読んでいただき、ありがとうございます!これからも続きます!