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第一話「神社の白銀」
霧が立ち込める早朝、千歳は祖母の遺品を抱えて山道を登っていた。リュックの中には、古びた御札と一通の手紙。祖母の筆跡でこう記されていた。
「この神社には、昔から狐が住んでいる。千歳、あんたが行くべき場所だよ。」
石段は苔むしていて、足元が滑りそうになる。鳥の声も聞こえず、ただ風が木々を揺らす音だけが耳に残る。登り切った先に、苔に覆われた鳥居が立っていた。注連縄は新しく、誰かが手入れしているようだった。
境内に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。冷たいのに、どこか柔らかい。社の前に立つと、鈴がひとりでに鳴った。千歳は驚いて後ずさる。だが、社の奥から白い影がゆっくりと現れた。
それは人の姿をしていた。白い着物に銀の髪。瞳は淡い琥珀色で、どこか遠くを見ているようだった。
「……来たか。」
声は低く、風に溶けるようだった。千歳は言葉を失い、ただその存在を見つめる。
「お前の祖母は、我が主だった。今度は、お前が契りを継ぐのか?」
狐――白澄は、そう言った。千歳は、祖母の手紙を握りしめた。
白澄は社の奥へと千歳を導く。灯籠に火が灯り、境内が淡く照らされる。
「この神社は、神と人の境界だ。契りを交わせば、お前はその狭間に立つことになる。」
千歳は迷いながらも、祖母の面影を思い出す。白澄の背に、ふと狐の尾が揺れた。
「……私は、知りたい。祖母が何を守っていたのか。」
その言葉に、白澄は微かに笑った。
「ならば、始めよう。狐火の契りを。」
その瞬間、灯籠の火が青白く燃え上がった。千歳の手に、狐の印が浮かび上がる。
契りが交わされた夜、千歳は社の縁側に座っていた。白澄は隣に立ち、静かに空を見上げている。
「人の時間は短い。だが、契りを交わせば、我らは共に歩める。」
千歳は頷いた。まだ何も分からない。だが、確かに何かが始まったのだ。
神の狐と人間の少女。運命の糸が、静かに結ばれた夜だった。
初小説 がんばります! \\\٩(๑`^´๑)۶////