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【外伝】『冷たい路地裏、訪れる地獄』
⚠️R18(グロ・流血)注意⚠️
『〜三日月の瞳を持つ者達〜』本編登場キャラの過去編です!
静かな風が、一つ吹いた。
風は私の服を、髪を揺らし、肌を撫でて過ぎ去っていく。
ボロボロの白い服が雨の水を吸い、冷たく肌に張り付いていた。
寒さに凍え死にそうな中、私は虚な目で、近いうちに訪れるであろう死を、ただ待つのみだった。
辺りに大人は誰一人居らず、居たとしても誰も助けてくれない、助けを求める声すらだせやしない。
出るのは、ただ掠れ切った声だけ。
手足の感覚がなく、指一本動かせない。
服も顔も全身が泥に汚れ、見る者からすれば君が悪いだろう。
早く、ここから解放されたい。
誰も助けてくれぬのなら、静かにここで死にたい。
そう思っていた時、周囲に影ができた。
できたのではない。いつの間にいたのか、視線を上へと移すと、一人の男が立っていた。
その男はフードを深く被り、傘を差しており、その傘は私の体を覆えるくらい大きく感じられた。
警戒と恐怖に体を震わせ、その場から逃げようとするも体は動かない。
只々、その男を睨みつけることしか出来なかった。
「君、大丈夫かい?」
場違いな程に暖かく、透き通った様な柔らかな声。
いくら五感が機能を失おうとしている状態にある私でも、その声ははっきりと、鮮明に聞き取ることが出来た。
「だ、れ…だ…。」
何とか声を振り絞ってその男に問いかけた。
私のその掠れた声での問いに対し男はフッと笑った。
「誰…か。ただの旅人みたいなものだよ。」
「たび、びと…?」
当時の私にはまともな教育すら施されておらず、「旅人」という単語の意味すら理解することが出来なかった。
聞き慣れぬ単語に困惑する私に気付いたのか、男は「うーん」と顎に手を当てて深く考える。
「まぁ、後で説明するよ。それより、ボロボロじゃないか。」
男は自分が濡れることに躊躇わず、私の真上へと傘を掲げた。
ポツポツ、と雨が傘にぶつかり弾け、地面へと滴り落ちていく。
私には何故男が自分を気にかけているのか理解できなかった。
何せ、男とは今初めて出会ったばかりだ。顔も、名前も知らない筈。
その私の疑問が伝わったのか、男は再び笑みを浮かべた。
「何で救おうとするのか、と思っている感じだね。君は特別だからさ。」
男はそういうと、フードに手をかけ、そのまま後ろへと脱いだ。
フードの陰で見えなかった素顔が晒される。
その男は白銀の髪をしており、月光の光を受けて輝いていた。
反対に目は薄暗く、黒から灰色へとグラデーションの様に濁った瞳だった。
「あぁ、名乗ってなかったね。僕はロゼア。とある研究所で職員をしているんだ。」
ロゼアは微笑むと、私の方へと手を差し出した。
「一緒に来るかい?」
私は一瞬動揺した。
この男についていっていいのか。
何かされるのではないか。
だが、当時の私の残された選択肢は一つしかなかった。
何とか残る力を振り絞り、私はロゼアの手を取った。
ロゼアはそれをみて満足そうに微笑むと、勢いよく私の体を引き上げる。
「良い子だ。」
ロゼアの手から伝わる体温が、凍えていた体を優しく包み込む。
途端に疲労による睡魔が襲いかかる。
抵抗する間もなく、私はそのまま意識を手放して眠りについた。
---
どのくらい時間が経ったのだろうか。
目を覚ますとそこは、壁、床、天井全てが白に包まれた病室の様な場所だった。
体はとっくに温まり、手足の感覚を取り戻していた。
上体を起こし、辺りを見渡す。
見知らぬ場所に連れて来られた恐怖に、体を身震いさせる。
ふとカチャリ、と部屋のドアが開けられる音がする。
咄嗟に身構えたが、そこに立っていたのは見覚えのある顔だった。
「そんなに警戒しないでよ、ほら、ココア飲むかい?」
湯気の立つマグカップを片手に持ったロゼアが、飄々と笑って歩み寄ってくる。
私が先程まで眠っていたベットの横にあるパイプ椅子へと腰掛けると、その白いマグカップを差し出してきた。
私は恐る恐る手を伸ばし、そのマグカップを受け取った。
ココアの甘い香りが漂い、マグカップから伝わる熱が手を温めていく。
マグカップを傾け、一口ココアを啜る。
甘味が口の中いっぱいに広がり、温かいココアの熱が全身を駆け巡るかの様に感じられた。
「おい、しい…。」
どこで覚えたかも分からない言葉が、自然と出てくる。
私のその様子を見ていたロゼアは優しく微笑み、私の頭の上へと手を伸ばす。
怯えにビクッと、肩をはねさせるが、ロゼアは私の頭の上へと手を乗せると、優しく、そして温かみを持って撫でた。
「普通の人間ならとっくに死んでいたよ。でも、君には強い生命力があるらしいね。」
「そう、か…?」
「うん。君の目、三日月の形してる。瞳も黄金に輝いていて綺麗だよ。」
ロゼアがそう言って差し出した手鏡を受け取り、マグカップを彼へと渡す。
見てみると、ロゼアの言う通り、私の瞳…瞳孔は三日月の形をしており、目も黄金に光り輝いていた。
自分で自分の顔を見ることなど出来なかったので、まさか自分がこんな見た目をしているとは驚きだった。
「どう?綺麗だろう?」
「…?」
驚きはしたものの、綺麗かと言われればあまりそうは思わなかった。
首を傾げる私の様子が面白いのか、ロゼアは目を細めて笑った。
「いいね、その反応。面白いよ。」
ロゼアはそう言って椅子から立ち上がり、私の方へと背を向けてドアノブに手をかける。
立ち止まり、私の方へと振り返る。
「明日からは、"楽しいこと"が待ってるから、楽しみにしておいてね。」
そう笑って、彼はドアを閉めた。
パタン、とドアが閉められる音が響く。
彼が私から目を逸らして前を向く瞬間に一瞬だけ見えた歪んだ笑み。
何故か嫌な予感がして、思わず眉を顰めた。
だが、ずっと考えておいても時間の無駄のため、私は再び横たわり、布団を引き上げ自分の体の上へとかけると、目を閉じた。
---
翌朝、窓から暖かい太陽の光が差し込む。
重い瞼を開け、上体を起こす。
少し目がチカチカするが、数秒経てばすぐ元通りになった。
布団から抜け出してベットから降りると、布団を畳み、ドアへと近寄る。
鍵がかかってないのか、すぐドアは開いた。
ドアの前に置かれていたスリッパを履く。
キョロキョロと辺りを見渡し、一歩踏み出す。
ロゼアが言っていた"研究所"という所だろうか。
あの路地裏の泥や血生臭い空気とは違い、新鮮な空気が肺を満たす。
暫く研究所内を歩いていた時、ふと何かにぶつかった。
見上げると、白衣を着てメガネをかけた人物が振り返ってこちらを見下ろしていた。
「あぁ、こいつが"例のガキ"か。」
男は私の目の前へと屈み込むと、ずいっと顔を寄せてじっと見つめてきた。
「ふむ…。」
顎に手を当てて暫く考えていた様だったが、ふと目を逸らすと、再び立ち上がった。
そしてその男の背後には、白衣に身を包んだロゼアが佇んでいた。
「やぁ、調子はどうだい?」
白い手袋を嵌めた手をヒラヒラと振りながら、歩み寄ってくる。
緊張して静かに頷くと、ロゼアは「良かった」と言って笑った。
「俺はもう先に行っとくぞ。」
「あぁ、良いよ。」
ロゼアと男の会話を聞いていると、ふと背後に気配を感じた。
ハンカチで口と鼻を覆われる。
ピリッとした痛みが走るとともに、視界が白く霞んだ。
足に力が抜け、その場に崩れ落ちる。
理解する間も無く、そのまま意識を失った。
「ごめんねぇ、まぁ、残月に慈悲をかけるわけないけどさ。」
意識を失う直前聞こえたのは、ロゼアの嘲笑を含んだその冷酷な言葉と、歪んだ笑みを浮かべてこちらを見下ろすロゼアの姿だった。
---
「…!?あ、あぁぁ、っあ…!!」
目を覚ますと、そこは先程の病室とは打って変わって、薄暗く冷たい床と、錆びた鉄の匂い。
路地裏と同じ様な場所に、思わずトラウマを思い出し、頭痛がして頭を抱えた。
うずくまって苦しむ中、コツ、コツと誰かがこちらの方へと向かってくる足音がした。
「ふふ、惨めだねぇ。あの時と同じだ。」
聞き覚えのある声。
ロゼアだった。パチンとスイッチが入る様な音がすると共に、パッと蛍光灯の灯りがついた。
私がいる場所は、誰のものか分からない血で汚れきった、牢屋の様な場所だった。
途端に吐き気が襲い、口元を思わず抑える。
「君は疑問に思わなかった?何故こんな都合よく救われたのか。いや、慈悲で救おうとは思わなかったけどね。」
ロゼアは私がいる牢屋の鉄格子の近くへと歩み寄ると、鉄格子の隙間から私を冷酷な視線で見つめてきた。
「良かったねぇ、君は、国の役に立てるんだよ。選ばれし者だよ。まぁ、その代わり、重い苦痛を味わうことになるけど。」
ロゼアがそう言うと同時に、機械音が響き渡る。
見渡せば、普通の壁だった筈の所からは銃口がこちらの方へと覗いていた。
鋭い悪寒が背筋を駆け巡る。
刹那、銃の発砲音が響いた。
私の右足が撃ち抜かれ、想像を絶する程の激痛が襲う。
「うああああぁ、、あ…!!!」
掠れて声が出ない。
右足からは大量の血がどくどくと流れ、一歩も動かせない。
うずくまり激痛に悶える私の姿を見て、心底愉快そうにロゼアは口角を上げて笑った。
「痛いかい?でもね、しょうがないことなんだよ。君のような三日月型の瞳を持つ子たちは政府の、世界の敵だから。」
ロゼアはしゃがんで、地面に這いつくばる私を見下ろす。
コツ、コツとまた新たに、別の者がこの地下に足を踏み入れる音がした。
「お前はそうやって痛め付けるのが好きだな、ロゼア」
先ほどのメガネをかけた男だった。
彼はロゼアの隣に立つと、こちらへと視線を向けた。
「あぁ、辰家くんじゃないか。」
ロゼアは辰家の方へと顔を向け、その名を呼ぶ。
「くん付けするな。お前より年上だ。」
「まぁまぁ、そう怒らないでよ」
眉を顰める辰家に対し、ロゼアはケラケラと笑う。
一方で私は激痛と出血に意識を手放しかけていた。
「で、こいつはどうするんだ?」
「どうするって、決まってるさ。」
「………なるほどな。」
辰家は一瞬間を開け、声のトーンを少し下げた。
その目は、どこか空虚な、あの時の私と同じような目をしていた。
私の、見間違いかもしれないが。
「まぁ、君にはこれからNo.4という分類番号で過ごしてもらうから。」
ロゼアは手を振り、一度言葉を切ると、再び口を開いた。
「君には`実験体`になってもらうよ。」
その言葉を最後に聞き、何度目かももう分からないが、私は意識を手放した。
---
何週間、何ヶ月、何年、経っただろうか。
あれから地獄のような日々が続くばかり。
あのまま路地裏で一人静かに死んでいく方がずっとマシだった。
やはり、あの時の不安は間違っていなかった。
全身は傷だらけでボロボロで、動く度に激痛が襲う。
牢屋の中に閉じ込められ、鎖で繋がれ、まるで囚人のような生活を送っていた。
いや、囚人よりも地獄のような生活だ。
かつては単色だった髪も、一部の色素が抜け白く染まっている。
「やっぱり、私が、いなければ…。」
自嘲気味に笑みを浮かべ、項垂れて一人呟く。
だが、長い間ここにいる中で、手に入れられたものもある。
三日月の瞳を持つ者には決まって特異能力「裂花」が存在すること。
そして、その覚醒時期には個人差があること。
ロゼア達の会話を聞いている中で手に入れた情報だ。
今自分が何歳か正確に知ることは出来ないが、恐らく14歳…くらいだろうか。
流石に餓死させるわけにはいかないのか、食事は定期的に運ばれる。
と言っても、豪華なものでもなく、パンと牛乳だけのシンプルなものだが。
「やだっ、やめて、やだっ、ああああぁぁあぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
遠くの実験室から、断末魔のような叫びが響き渡る。
私と同じように実験体にされた者達だ。
彼らとは最初、話せていた。
だが、日々の激痛を伴う実験により精神が壊れ、まともに会話することが出来ない。
私に出来るのは、ただ「いつかここから抜け出そう。」と声をかけることだけ。
何も出来ない自分に怒りと、そして悔しさを感じていた時、牢屋の鍵が開けられる音がした。
また、連れて行かれる。
だが、抵抗はしなかった。
抵抗しても無駄だと、わかっていたからだ。
牢屋全体に光が差し込む。
そこに経っていたのは、辰家だった。
私はその時、違和感を感じた。
今までの行動を見てきて、辰家は普段、ここの地下室に来ることは基本なかった。
「来い。」
彼の口から発せられたのは、短いその一言だけ。
彼はくるりと背を向け、踵を返していった。
私は困惑するまま、だが拒絶するわけにもいかない為、痛む体を引きずりながら、彼の後をついていく。
「何だ…?」
「俺もそろそろ我慢できねぇからな。」
彼はこちらを一瞥もせず、前を向いたままどこかへと歩いていく。
移動する中、彼以外の研究員に会うことはなかった。
不審に思いながらも、口に出す事は出来ない。
やがて暫く歩くと、見知らぬ場所に辿り着いた。
彼の執務室だろうか。様々な本が並べられ、デスクの上にはメモがまとめられている。
彼は椅子に座る事なく、一部の本棚へと手をかける。
ガコン、と音がして、本棚が静かに左右へ移動する。
私は目を見張って、息を呑んでそれを見ていた。
そこは、外の風が入り込む隠し通路のような場所だった。
外の風が入ってくると言うことは、外に繋がっているということだ。
希望と同時に、疑問も湧いた。
「なぜ…?」
「だからさっき言ったろ。俺も我慢できねぇって。」
辰家はこちらの方へと視線を向けると、隠し通路を顎で指す。
「早く行け。」
「は…!?何故…!」
「ったく、何度も同じ事言わせんなよ。」
私の様子を見て、呆れたように長いため息をついて頭を抱える。
「俺も、元々はお前と同じだ。今はもう奴らにこき使われてる奴隷だ。」
そう言って再び目を開けた彼の瞳には、私と同じ三日月型の瞳孔が浮かんでいた。
だが、輝きはなく、色褪せていた。
「貴方も…?」
「分かったろ。早く行け。逃げることだけ考えろ。」
彼はそう言うと、私の背中をトン、と押した。
私は困惑しながらも、彼の言う通りに、足を動かした。
痛みなど気にせず、前を向いて。
離れたところで途中後ろを振り向いた時、信じられない光景があった。
辰家の腹から、刃物が突き出ていた。
彼の白衣がみるみる赤く染まり、彼の口から血が吐き出される。
その後ろには、ロゼアが冷徹な目で辰家の腹をナイフで刺していた。
「やっぱり、こうすると思ったよ。」
ロゼアはそう言うと、辰家の腹からナイフを引き抜く。
鮮血が床を赤く染める。
「辰家ッ!!!!!!」
私は踵を返し、遠くに居る彼へと手を伸ばそうとする。
だが、辰家は口元に笑みを浮かべた。
「はっ、俺の、ことは気にすんな…この程度では、死なねぇよ…。」
彼は顔を上げると、私の方へと視線を向けた。
「早く、行け。」
私はその言葉を聞いてピタリと動きを止めて立ち止まる。
ロゼアと辰家の背後から、続々と警備員が現れた。
ここで戻ったら、私も、辰家も殺される。
辰家の思いが無駄になる。
私は唇を噛み締め、彼らへ背を向けて再び走る。
涙が溢れ、胸が引き裂かれそうになった。
パァン!と一度銃声が聞こえた。
それが何を意味するか、私にはすぐ分かった。
私は振り返らず、必死に、ただ逃げる事だけを考えて足を動かし続ける。
辰家が言ったように。
私は、泣きながら走り続けた。
---
「ロゼア1等研究員、どうしますか?」
一人の警備員が問いかける。
「いや、彼はそのまま逃しておこう。」
ロゼアはそう呟くと、床に倒れて死んでいる辰家へと視線を向ける。
しゃがみ込み、彼のかけていたメガネを拾った。
「君は優秀な人材だった…実に惜しいよ。でも、」
ロゼアは言葉を一度区切ると、辰家のメガネをかけて再び口を開く。
「君の事は、忘れないよ。このメガネがある限り。今までお疲れ様。」
冷酷な笑みを浮かべると、ロゼアはその場から立ち去った。
撃たれて命を落とした辰家の顔は、少しだけ、安心したように微かに笑みを浮かべていた。
「被験体No.4…いや、レフェール君。」
ロゼアはふと立ち止まり、研究所の窓から空に浮かぶ三日月を見上げた。
「いつか、また会おう。君はいずれ、もう一度捕まえる。その時まで。」
どうでしたでしょうか…!?
結構頑張ってみましたよ〜!
頼れるお兄さん枠、レフェールの過去編です!
良ければ感想、ファンレターお待ちしております!