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魔法適正テスト
「__ふあぁ〜…__おはよう|椿《ツバキ》…眠れた?」
ぐっすり眠ってお目々ぱっちりの|椿《つばき》はテキパキと朝の準備を済ませ、個室から共同スペースに出たところで丁度、向かい側の扉も開く。
「ばっちりですわ!寧ろベッドに倒れてから今までの記憶が一切ありませんの!」
「……快眠だったみたいなら何よりね…」
若干呆れを、そして色濃く眠気を含ませた声。
「…レティは眠れませんでしたの?」
「ちょっとね…うう、もう一回顔洗ってくるわ…」
洗面台にてちてちと歩いていくレティを見送り、|椿《つばき》は…そういえばこれからどうするんだっけと首を傾げた。
✶ ” ──────────────────────── ” ✶
「まさか食堂の存在すら知らなかったなんて思いもしなかったわよ…」
「ぐうの音も出ませんわ…」
外に出て、騒がしい廊下をくぐり抜けながらレティの案内で食堂へ向かう。
「いい?食堂は昨日配られたこの手帳で行くの。手帳には学園内で使える通貨が魔法でインプットされてて、それを消費してご飯を食べるわけね」
「その通貨はどうやって入手しますの?」
「授業に出たり、部活でもなんでもいいから好成績を出したり、とかね。まぁ普通に学校に行ってれば困ることはないわ。あと入学時に10000貰ってるから、朝食の心配はないわよ」
「通貨がなくなった場合は…?」
「共通通貨で支払い。要は自腹ね…っと、ついたわよ」
雑貨店に入っているスペース並、いや、そのスペースすらも凌駕するレベルのクソデカ食堂。
そして学生食堂とは思えない品揃え。
「…何処かにそういう類の店を構えたほうがいいのでは?」
「あたしもそう思う」
さて、適当に注文した日替わりモーニングのプレートを運ぶ。
レティはヨーグルトにサラダ、コーンフレークと少々少なめだ。
「あたし朝弱いのよね〜、あんまりたくさん食べるのはきつくて」
そんな話をしながら席を見つけて─見つけられなかったら立ち往生だった─座る。
「|頂きます《いただきます》」
「……あれ、それ日本語?」
「ああ、そうですわね。日本では食事をする前に、命をいただくことへの感謝、食材を育て、収穫し、加工し…|私《わたくし》が食べられるようにしてくださった方々への感謝を込めた号令のようなものですわ」
「へ〜、宗教的なのじゃないのね」
「そうですね、基本は何処へ行っても使われますので」
「ふーん、いいじゃない。もっかい言ってみて」
「|頂きます《いただきます》」
「Itada…ダメね、難しいわ」
「ふふ、まぁそういうものですわよ」
ささやかながら幸せに、食事の時間は過ぎていった。
✶ ” ──────────────────────── ” ✶
さて、今日の1-R授業スケジュールは三限目に【魔法適正テスト】がある。
どういう順番で処理しているのかは神のみぞ知るが…。
なにはともあれ、入学式で使ったあのクソデカ体育館。そこに1-Rは並ばされていた。
奥には仕切りがあり、順番が来たものから仕切りの中で適性テストを受ける。
どういうものなのかは、順番が来るまではわからないのだ。
「次、ツバキ・カデノコウジ」
「失礼いたしますわ」
名前を呼ばれ、仕切りの奥に。
「これからツバキ・カデノコウジ様の魔法適性テストを行います。教師から説明は受けましたか?」
「はい、ここに手を乗せればいいのですよね」
「そのとおりです。では、私が良いと言うまで乗せておいてください」
よくわからないが魔法文字らしきものが書かれた石板の上に手のひらを乗せる。
「…記録が取れました。本日の放課後7時までに寮、もしくは郵便受けに届けさせていただきますので、ご確認ください」
「ありがとうございました、失礼しますわ」
一礼し、教室へと向かった。
✶ ” ──────────────────────── ” ✶
「知ってるか?あの石板を割るぐらいの適正あったやつがいたらしいぜ」
「なんだそれ、こっわ…てかどうなってんだよそれ」
「なんか先輩曰くあの石板自体に色々と魔法がかかってて、その上から圧力かけるみたいにとんでもねぇ密度を持ったとんでもねぇ魔力量が伸し掛かったから受けきれずにぱっきり」
「うっわぁ…迷信すぎるだろ」
「ちなみに今年の一年」
「そいつが【厄災】止めにいけよ!!」
✶ ” ──────────────────────── ” ✶
無事一日目も終わり、寮で合流した2人は今日の感想を話しながらテストの結果を待っていた。
「【基礎魔法】の先生かなーり説明くどかったわよね」
「わかりますわ、今日だけで10回くらい『基礎を忘れるな』と言われた気が…」
「【基礎魔法】って初歩の初歩だから忘れがちかもしれないけどねぇ…13回はいいすぎよ」
「途中からカウントしてましたの!?」
「暇だったからね」
「それは理解できますの」
「|私《わたくし》、郵便受けを見てきますわね〜」と声をかけ、玄関からちらりと顔を出す。
すると隣の人とかち合う目線。
「…どうも」
「…ど、どうも…?」
お互いハテナを浮かべながら2通のテスト結果を取り出して、ぱたりと扉を閉めた。
「来てましたわよ〜!」
「あら、ありがと」
2人は封筒の封を解いて、中から書類を取り出す。
一枚目の書類で、テストの結果はS、A、B、C、Dの5段階で示されることを確認して、二枚目を開ける。
「あ…」
漏れ出た、一言。
「私Aだったわ…どうしたの?」
かさり、とその手から書類がこぼれ落ちる。
ウソをつかない。つけない書類に書かれていた言葉は、D。
適正なし。基礎魔法を扱えればいいレベル。
残酷にも疑えない真実が、そこで形作られていた。