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風鈴町奇譚
遊民がいた。
故郷を飛び出し全国を遊び歩いていた。
ある日、和風な風鈴町という街に来た。
名産は風鈴、提灯の様にあちこち下がっている。
遊民はその町と、そこに住む1人の鈴師―この町での風鈴職人の呼び名―に惚れた。
遊民は一度この町に腰を降ろし、1年程住んだ。
そして鈴師の家を特定した。
一月後偶然を装い再会し、お付き合いからでもと告った。
鈴師の家に赤子がいたときは心臓が止まるかと思ったが、聞けば未亡人だという。
鈴師は告白に驚いたものの承諾した。
3年後、遊民は決意を決めた。
結婚を切り出そう。
この町に来て4年目。
遊民が同じ場所にこんなに留まり続けたのは初めてだった。
レストランの食後、プロポーズをしようとした。
と、赤子が泣き始めた。
周りの席の人も慌てて駆け付けてくれた。
遊民だけがその場から動けなかった。
その後気不味くなって婚約を切り出せなかった。
遊民は精神的に疲弊し二月程入院した。
退院後、直ぐに鈴師を訪れ元通りの仲になるよう努めた。
四ヶ月後、また遊民は心を決めた。
何があろうと婚約を切り出す。
そしてプロポーズの瞬間、また赤子が泣いたのだ。
さっきまで寝ていたのに。
前と同じだ。
遊民は絶望というより復讐心に燃えていた。
あの赤子さえいなければ今頃…
夜、遊民は鈴師の家に行った。
鍵のかかっていない扉を開け、寝ている赤子を拉致した。
家を出るとき軒の風鈴を鳴らしてしまった。
が、鈴師は起きなかった。
近くの川辺で赤子を見て思う。
俺は四年も鈴師を想っていたのに…!
四年?
そうだ。この赤子に会ったのも四年前、ということはこいつは四歳以上...
四歳っていうと自分で歩けるし言葉も喋れる…
こいつ、本当に人間か?
ふっと顔を上げると鈴師がいた。
子が人外なら親だって…
呟きながら歩いてくる。
「…子、降ろせ、降ろせ…」
声が聞こえた瞬間遊民は赤子を放り出し全速力で逃げた。
鈴師は遊民の侵入に気付いていた。
風鈴の音を聞き、確信した。
狸寝入りを続けた後、尾行した。
現行犯を抑える算段だ。
遊民は川辺に着くと震えだした。
気付かれたと思い、遊民の前に姿を現す。
その子は捨て子で、何年も私が育ててきた。
その子は人間じゃないかもしれない、でも、だからこそ…
私を苦しませないで。
その子から解放して。
震える声で、頼む。
その子、落とせ、殺せ