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枇杷の花が散る
枇杷の花の花言葉がぴったりだったので。
ひゅっと、呼吸にすらならないような音が鳴る。
「え、は...何いって...?」
”マーダー”の言ったことが理解できなかった。いや、理解することを(スケルトンに臓器はないが、)脳が拒んだ。
「あー...お前さんら、一体全体誰なんだ?随分”オイラ”に似ているが...」
僕(キラー)ら五人が固まるのをよそに、”マーダー”は不思議そうに首を傾げる。
「もしかして、どこかで会ったことがあるのか?オイラのこと、そっちは知ってるみたいだし...」
最初に口を開いたのは、ボス...ナイトメアだった。
「お前、...覚えてないのか?」
ナイトメアの言葉に、相変わらず困ったような笑いを浮かべながら、”マーダー”は答える。
「覚えてる...?オイラとアンタ達は初対面じゃないのか?」
さも不思議そうに、”マーダー”__否、”サンズ”はそう答えた。
「というか、ここは何処だ?スノーフルじゃなさそうだし...」
色素の抜け落ちた眼光であたりを見渡しながら、”サンズ”は僕達に再度問い掛ける。
「教えてくれよ、アンタらは誰なのか、アンタらが知ってる”オイラ”は誰なのか」
何も知らない、いや、ほとんど”オリジナル”に近いコイツを見て、僕達は絶望するしかなかった。
「トりアえズ...マー...”サンズ”」
「なんだ?」
”マーダー”、と呼びそうになるエラー。言いかけたところで、”サンズ”と言い換えた。
「お前ハドこまデ覚えテルんダ?」
エラーの問い。そう、これが重要なのだ。もし本当に記憶を失っているのだとしたら、どこまで覚えているのか。どこまで知っているのか。これが分かるだけでも、この状況を打開する策がいくつか出るだろう。だが、そんなうっすい希望論など、いともたやすく打ち砕かれるものなのだ。
「覚えてるもなにも...オイラが”サンズ”で、スノーフルの木造の一軒家に住んでて、弟がいるってことくらいしか知らないぜ?」
”サンズ”の言葉に、彼を除く五人から、表情が消える。
「本当にか?本当に、何も覚えてないのか?」
信じたくないのか、ホラーが泣きそうな声で再び”サンズ”に問う。しかし、答えは変わらず。
「あーっと...頭蓋骨が欠けてるオイラ?覚えてるも何も、オイラの記憶にアンタらはないんだ」
「...リセットが起こったのかもしれないが」
”サンズ”の答えに、ホラーはひどく歪めた顔を手で覆った。その様子を見て、”サンズ”はぺたぺたとホラーに近付く。
「あー、泣くな泣くな...ほら、こわくない、こわくない」
背中をさすりながら、優しく告げられる声。その台詞は、僕とホラーも言ったことがあるもので。
「......っ、ぅ」
頭がどうにかなってしまいそうだった。案外、僕はコイツのことを気に入っていたのかもしれない。覚えていて貰えない、こんな感覚は、とうの昔に置いてきたはずなのに。
「すまんな、きっと、昔の”オイラ”と知り合いだったんだろ?」
「う、っ、ぁ...あぁっ...」
ホラーの咽び声と”サンズ”の優しい声が、しんと静まり返った部屋に響く。それが、嫌でしかたなかった。
僕達はこんなにも鮮明に覚えているのに、コイツは覚えていないんだ。あんなに、あんなに、一緒に過ごしたのに。なんて考えていても、この状況はどうにもならないんだろう。絶望すると同時にひどく冷静な頭が嫌になる。
「...っ、はぁ...とりあえず、ホラー。一旦泣き止め、話が進まん」
ナイトメアの言葉に、ホラーは袖口で乱暴に涙を拭った。
「うぅ...わかったボス...」
悲しそうに、そして困ったように笑ってそれを見つめる”サンズ”の顔が、嫌で仕方なかった。
「じゃあ、今更ですけど、自己紹介でもしましょうか」
状況を飲み込むことができたのか、やっとクロスが口を開いた。まぁ、こんな信じたくもないような現実、理解するのに時間がかかっても仕方がないだろう。
「そうだな...じゃあ、キラーからしろ」
なんで僕が、とナイトメアに言い返そうとするが、そんな元気もない。しぶしぶ(というよりは半ば諦めて)、僕は口を開く。
「僕はキラー、お前の大っ嫌いだった相手だよ」
「キラーか...大嫌いって、前のオイラはそんなにヒトを憎むようなヤツだったのか?」
それも、覚えてないのか。なんて当たり前のことを考えながら、僕はただただ押し黙る。僕が信じたアイツがもう居ないことが、どうしようもない絶望を引き起こす。
「じゃ、次ホラーね」
まだまだ話すことはあるんだ。テンポ良く行かなくてはと、ホラーにバトンを渡す。
「おれか?あー、おれはホラー、お前とは...うん、割と仲良かったと思うぞ」
「そうなのか...じゃ、握手でもしようぜ」
”サンズ”から差し出されたのは、ミトンのされた左手。おずおずとホラーはそれを掴む。
「......ん?」
あの音は、使い古されたあのギャグは、ない。
「hehe...部屋にブーブークッションがなかったもんでな。ただの握手だが許してくれ、な?」
へらり、本当に”オリジナル”に近い笑みを浮かべながら、”サンズ”は言う。ホラーはひゅっと息をのんだ後、力無く笑い返した。
「じゃあ...俺がいきますね」
次はクロスらしい。少し遠慮気味に口を開いた。
「えと...俺はクロス。ロイヤルガードの隊員で...マー__”サンズ”さんの後輩です」
「オイラ...別にロイヤルガードに入っていた記憶ないぜ?」
そうだろうな。これは記憶喪失云々以前の話だ。クロスの言い方が悪い。クロスもそれに気付いたのか、慌てて訂正する。
「あ、ちがっ、俺の居た世界で俺はロイヤルガードだったってことで___えとっ、その...」
うまく言葉にならないのか、クロスは救いを求める目でナイトメアを見やる。
「あー...俺達は、全員居た世界が違うんだよ」
「...?、どういうことだ?」
ナイトメアは、溜息を一つ吐くと、ゆっくりと話し始めた。
「|オルタネートユニバース《AU》...原典となる世界から広がる多次元世界...所詮パラレルワールドだ」
「数多のパラレルワールドから、俺達はここに集まったんだよ」
本当にざっくりとした説明だが、流石は”サンズ”。ある程度理解できたらしく、一人でぶつぶつと何か呟いている。しばらくすると、納得したのか、顔をあげた。
「ま、なんとなーくわかったぜ、その...クロス?はこの世界で、オイラの後輩だったんだろ?」
「そうです!」
うまく伝わって嬉しいのだろう。クロスに、犬のように元気良く動く尻尾の幻覚が見える。やっぱり犬だな、なんて少しおかしく思いながら、僕は次の話を待つ。
「次ハオレか...オレハエラー。一応前ノお前とモ知り合イだ」
知り合いというか一緒にここで過ごしてただろ、というホラーのツッコミはさておき。残るはナイトメアか、と思いながら、僕は彼の方を見た。
「最後は俺だな」
ナイトメアが言葉を発する前に、”サンズ”が先に口をついた。
「えーと...そこのずいぶんとドロドロなオイラは...スケルトンなのか?タコじゃなくて?」
あ
「あ”???」
「ハハッ!タコダってヨ!」
「おま...命知らずな...」
「アハッ、やばぁ...ほんっと命知らずだね!?」
「ちょ、マーダー先輩!?」
ケラケラと笑うエラーと僕。”サンズ”の身の心配をするクロスとホラー。そして怒りによって触手をうごめかせる|ナイトメア《タコ》。どんよりとして、暗かった場の空気が一気に明るくなった。少し、息がしやすくなった気がする。
それはそれとして、この”サンズ”がナイトメアの手によってネガティブ漬けにされないことを祈るばかりだ。
「エラー...キラー...後で俺の部屋にこい」
ナイトメアの言葉に、僕とエラーの声が綺麗にハモる。
「なんで!?」
「ナんデだヨ!?」
「ははっ、お前さんら、ずいぶん面白いんだなぁ」
その様子を見て笑うマーダーの姿はもう”マーダー”とは呼べそうにないものだった。
「___俺はナイトメア。この組織...闇AUのボスだ」
「断じて、タコではない」
「あ、あぁそうか...すまんな」
『断じて』の部分を強調するナイトメアに気圧され、”サンズ”は引き気味に頷いた。
「とリあエズ...全員終ワったナ」
「他のことは後々話せばいいだろ、とにかく、今後について話すぞ」
ナイトメアの言葉に、僕達は頷く。”サンズ”も、聞きたいことが他にもたくさんあるだろう。
___マーダーの記憶が戻るよう、僕達はただただ行動するしかないのだ。
*To be continued...*
胃にくる...胃にくるよこんな話...
てか握手のネタ入れるの忘れた!!!!もーーやだーーー!!!!入れてきました!!!!!
さて...ずいぶんたくさん書いてしまった()
ホントはもう少し書くことがあったのですが...そろそろ終わりにしようと、一旦切りました。
次回は...何するんでしょうね()
あと、感想・誤字脱字報告等くださると嬉しいです!!!!
三話完結にならなかったらごめんなさい!!!ロズィちゃんは好きに使ってくれて構わないので、ろすらぶ二次(三次)創作、ファンアートなどくださると小躍りしながら見に行きます!
では次回!あいのいみを思い出せますように!