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第伍章
「なんの用っ?」
また説明しないといけないのか、面倒くさい。この時間さえ惜しく、一刻も早く戻らないとなのに、と咲夜は苛つきながら事情を話す。何回目かもわからない。
「…へぇ」
赤いメッシュを揺らし、庭渡久侘歌は頷く。それなら通してあげる、と言わんばかりに。
いつもなら試してやるところだが、今回の面子は強そうだ。時を止められるメイドに、剣術が優れる庭師に、天才と名高い薬師。この3人なら大丈夫だろう。
「わかった、通ってください。でも、なるべく早く、ですからね?」
「ふふ、ありがとう」
庭渡久侘歌に案内され、彼女らは新地獄へと向かった。
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新地獄は広い。広すぎて、迷ってしまう程だ。
「どこにいるのかしら…」
「こういうときは声量、よ。というわけで、貴方、試してみたら?」
「え、私ですか?えー…じゃあ…」
**「異変を起こした人ーーーーーっ!!」**
驚くほど馬鹿らしい導き方に、永琳は苦笑した。こんなので出てくる奴なんていないだろう___
すると急に視界が奪われた。
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「ああ、悪かったな。あいにく視界を《《吸収》》したもんでね」
視界がパッと開けた。明るい光が差し込み、目をまたつむりそうになる。だが、ここで怯んじゃ駄目、と永琳は弓矢をパッと手にした。ぴいんと糸をはらせ、シュッと彼女に向けて放つ。
「失礼」
彼女はかわしたが、微妙に髪にかすれた。先端が白い髪に当たったが、彼女はべつに気にしもしない。
「なんだ?猫騙しか?猫はいないだろう?」
煽るように言う。無敗の強欲同盟長と有名な彼女・饕餮尤魔は、にやりと口角をあげた。
「異変を起こしたのは私だよ、あんな大胆な手口はなかなか見ないので、興味が湧いたんだ。いや、欲がぞくぞくと身体の内からにじみ出てきた」
「そうですか」
妖夢は二本の刀を握った。汗がじんわりと出ている。少し低めの体温が人並みになっていた。
「欲を斬るには何年かかるか、教えてもらいませんでした。けれど、半人前なりに、半分でも斬ってみせます」
いつものほんわかした微笑みはなく、ただ真剣そのものだった。
「へぇ?まあ、その剣術も吸収してやるがな」
そう言って、また何時ものように剣術を吸収しようとしたときだった。
だが、異常だった。
普段どおりにやっても、吸収できないのだ。吸収する感じが、まるでしない。
「…ほら、吸収できないでしょう?私たちの能力は強いから、吸収されるとまずいと思ったの」
そう言って、永琳はまた薄っすらと笑いを浮かべる。
「覚神『神代の記憶』」
紅く光る大きな弾幕と、小さな弾幕だった。勿論、饕餮尤魔は軽々と避け、吸収する。が、避けるだけにおわり、吸収しようともダメージを食らう。
「乗らせていただきますわ。幻象『ルナクロック』」
一瞬時が止まり、その間に手際よく青と緑のナイフが並べられる。それらは襲う、襲う、饕餮尤魔を。
「じゃあ、天神剣『三魂七魄』」
カラフルな弾幕だった。
「クソッ…宿怨『ゴージライザー』!」
負け惜しみ、最後の一あがきとわかっていても、スペルカードを唱えた。それも虚しく、どんどん弾幕に押されていった。
「なんで私が負けるんだっ…!」
「ごめんなさい、私たち、本気で解決したかったの。貴方が出てきたから、てっきり…。貴方、咲夜のところの妹さんしか勝てないんでしょう?」
「私が元凶は、わかってないのかよ?」
「いいえ」
苛つきを見せつつ、饕餮尤魔はゆっくりと話す。
「じゃあなんで…」
「少し怖かったのよ。だから、開発した能力を一時的に抑える薬を、弓矢に塗ったの。だいぶ卑怯かもしれないけれど、これが私の能力だから」
「…妖夢とか咲夜らには、言ってあったのか?」
「いえ、言われていませんわ」
「そうよ。大体30分ぐらいしか強力すぎて効かないから、実質チームワークと一撃で仕留めなければだったのよ」
饕餮尤魔はパチパチと手を叩く。
「凄いな、薬師は。で、これは治るのか?」
「ええ、30分ほどで」
「そうか…再戦は?」
「ナシよ」
「3対1なのに?」
「ええ」
まあいい、と饕餮尤魔は言う。
「これで解決、ね」
「いや、解決はしていない。どうでもよくなっちまった。活躍と知恵を見てると、な」
「どういうことですか?」
約束を破ることだが、と前置きを置き、
「これは、あくまで私が実行役となった異変だ」
と言う。
「つまり、計画者がいるってことね?」
「そうさ」