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ウマ娘~オンリーワン~ 02R
02R「うちに入らないか」
「タッタッタッタッ―――」
私―――アルノオンリーワンはトレセン学園のグラウンドの芝1000mを全速力で走っていた。
他のみんなは私と同じく全速力だったり、最後方で足をためたりと、様々だった。
私は、前から三番手の位置にいた。
先頭は、茶髪のストレートヘアーの子―――グッドラックナイトさん。
二番手はクリスちゃんだ。
そして、私の後ろからもたくさんの足音が聞こえ、プレッシャーにもなった。
それに加え、私は、全速力なのもあってか、だんだん脚が遅くなっていくような感じがした。
すると、大分遠くだが、ゴールが見えてきた。
私は、残りの体力を一気に使う感じでラストスパートをかけようとした―――いや、残りと言うよりかは、全く疲れはないのだが、脚がこれ以上加速できない。
それどころか、どんどん遅くなっていく。
すると、先頭を走っていたグッドさんがさらに加速し、クリスちゃんも同じく加速して私を突き放した。
すると、後ろから目にも留まらぬ速さで誰かが駆け抜けていった。
黒髪をなびかせた―――アスターウールーさん。
そして、グッドさんに追い付き、先頭争いを繰り広げていた。
その間に、私は後ろからきた人達にどんどん抜かされていく。
悔しい―――
でも、脚が動かない………!!
そして、気がついたらゴール地点を過ぎていたようで、周りをみたらみんなその場に座り込んだり、腰をかがめたりして、ハァ、ハァと疲れている様子だった。
私は、疲れてその場に崩れるわけでもなく、ただ呆然と立ちすくんでいた。
疲れはない。でもそれが悔しかった。
自分は全力を出しきれなかったのだ―――
=====
瑞城先生「―――みなさん!お疲れさまでした!みなさんとてもいい走りでしたよ~♪それでは、結果着順を発表します。一着―――グッドラックナイト!タイム58秒00!」
すると、観客席からどよめきと歓喜の声が次々とした。
きっととても速いタイムだったのだろう。
瑞城「――続いて、二着・アスターウールー!タイム58秒01!三着・ユニバースライト、タイム58秒02!四着・アスカウイング、タイム58秒03!五着・ガーネットクイン、タイム58秒03!六着・クリスタルビリー、タイム58秒05!七着・マロンホワイト、タイム58秒06!八着・アルノオンリーワン、タイム59秒01!――――」
最下位――――
私は、絶望した。
私は、みんなよりも劣っていた。
しかし、もっと悲しいことはその後に起きた。
=====
「君、一着だったよね!それに、このタイムはすごいよ!うちのチームに来てくれないか!」
「いーや、こっちが先だ!ねぇ君、僕のチームに来なよ!僕のチームはすごいぞー!重賞ウマ娘がたくさんいるんだ!」
「ねぇ、そこのあなた!私のチームに入ってくれない?私のチームは小さいけど……きっとあなたはすごいウマ娘になると思うの!」
マロン「え~?マロンちゃんに~?とっても嬉しい♪」
みんなみんな、たくさんのトレーナーさんからスカウトを受けていた。しかし、私だけには来なかった。
=====
「今年の新入生は、人数も少ないし、取り合いですねー。」
「なー。あー、最下位あの子か~。でも確かに見てて脚も他のウマ娘より大分遅いし、ラストでの加速力も欠けてるしな~。」
「それに、ジンクスもありますしねー。ほら、『新入生同士の最初の模擬レースで最下位になったウマ娘は、誰もレースで大成したことがない』って!だからトレーナーはみんなそれを信じて誰もスカウトしに来ないし、スカウトしたとしてもそれは数合わせのためだったりとかして………」
「一定数揃えないとレース出れませんもんねー。しかも最下位になったウマ娘の半数は辛くなって途中で退学しちゃうって噂もありますし。」
「―――こらこら。タイチくんにユウくんも。あまり信用性のないことを話しちゃだめですよ。この世には、偶然だってあるのですから。」
「えーっ………確かにそうかもしれないですけど……じゃあ、あの子はどう思いますか?“マキさん”!」
「あの子……ああ、最下位の子ですか。あの子は、確かに走りは他のウマ娘よりは劣っている。でも、見てください。あの子。他のウマ娘はそのばに座りこんだりとみんな疲れている様子ですが、あの子だけは平然としている。走り方から見ても、手を抜いて走っている感じはしない―――」
「あっ、確かに。」
「へぇー、ほんとだ。」
「走りや加速力では、あの子は他のウマ娘より劣っているかもしれない。」
「でも、他のウマ娘より抜きん出ているものが、きっと何かある―――」
=====
時刻はお昼時。
この日は、午前中で解散となった。
結局、誰からもスカウトは来なかった。
どうして……?
どうして私だけ………
そう思うと、次第に涙が溢れてきた。
人前では泣かないようにしようとさっきまでずっと我慢していた涙が、一気に溢れた。
溢れて溢れて止まらなかった。
幸い、周りに人もいなかったので、その場にうずくまり、たくさん泣いた。
きっとたくさん泣けば涙も止まるだろうと思ったからだ。
しかし、涙はなかなか止まってくれない。
すると―――――
「どうしたんだい?何かあったのか?お嬢ちゃん。」
いきなり、誰かに話しかけられた。
男の人の声だった。
私は、即座に涙を拭って、声のした方向へと顔を向けた。
その人は四、五十代の男の人で、頭には少々年季の入った帽子を被っていた。
顔は、どこか優しげで、だけど、わずかに厳格さや誠実さも感じられた。
私は、呼吸を整えて、口を開いた。
アルノ「レースで……レースで最下位になっちゃって……私だけスカウト来なくて…私って才能ないのかなって思っちゃって………きっと私は、才能あるって思い込んだだけだったんだ……きっと難しい入学試験に合格してすごいって言われたから調子乗ったりしちゃって……」
「そうか……見てたよ。君が走ってるところ。確かに、他のウマ娘たちはすごかった!一着の子なんか、このままメイクデビューに出走させても戦えるんじゃないかって思うくらいすごかった。でも、君も十分すごい。だって、タイムだけ見ても、君もメイクデビューで十分張り合えると思う。」
アルノ「………本当ですか?」
「ああ、もちろん!……そうだ、入るチームがないなら、うちのチームに入らないか?俺は大歓迎だし!」
アルノ「え………いいんですか?私なんかで……」
「もちろん!」
せっかくスカウトされたんだ。このチャンスは無駄にしたくない。
しかも、このトレーナーさんは、いい人だ。そんな確信が私の中であった。
アルノ「それじゃあ……よ、よろしくお願いします…!」
私は、立ち上がり、トレーナーさんに深くお辞儀をした。
「ああ!よろしく!そうだ、名前言い忘れたな。俺は|牧村《まきむら》ひろし。君は?」
アルノ「あっ、私は、アルノオンリーワンです。呼び方はアルノで良いです。」
牧村「分かった。よろしくな!アルノ。さあ、早速だが明日チーム室に来てくれ。えっと、場所はー……ちょっと待ってな。」
トレーナーさんは、服のポケットからメモ帳とペンをとりだし、何かを書いていた。
牧村「―――よし、できたっ!このメモを頼りに行けば分かるから。」
トレーナーさんに渡された手のひらサイズの四角い紙切れには、簡単な地図が書かれていた。
牧村「それじゃあ、また明日!あっ、時間は放課後なーっ!」
トレーナーさんは、私に手を振って駆け足で去っていった。
色々あったが、チームに入れてもらうことができた。
これからもっと頑張らないと。
私は、トレーナーさんにもらった地図を見つめながらそう思った。
〈翌日の放課後〉
アルノ「――――ここかなー。」
昨日トレーナーさんにもらった地図を片手に、手探り状態で私はチーム室を探していた。
そして、やっとそれらしき場所を見つけたのだ。
チーム室は、すこし小さめなプレハブ小屋だった。
入り口のドアを私は、恐る恐るノックする。
「コンコン」
すると、「はーい」という声とほぼ同時に、ドアが開く。
「ガチャ」
牧村「おう!よく来たな!ささ、入って入って。」
トレーナーさんに招かれるまま、私は中へと入った。
外の地面に対し、中の床は一段上に造られていた。
外見は小さいと感じたが、以外と中は広かった。
トレーナーさんに勧められ、私は応接間のような場所にあるソファーに座った。
結構柔らかく、沈み込む。
壁には至るところに賞状のようなものが飾られており、壁の隅にある大きなガラスのショーケースには、三段の棚にまたたくさんのトロフィーや盾が飾られていた。
そして、そのショーケースの棚の上には、たくさんの額縁に入れてある写真がたくさんある。
まじまじと見てみると、それはどれも集合写真のようだった。
年期が入ったものから新しそうな最近のものまでたくさん飾ってあった。
きっと歴代のチームの人たちで撮った集合写真とかなのだろう。
きっと凄く強いし、昔からあるようなチームなんだな、と私がまじまじと見ていると、トレーナーさんが、カップに入ったお茶を二人分出して来て、一つを私の方に差し出した。
そして、もう一つのカップを持ちながらトレーナーさんは、机を挟んで私の向かい側のソファーに座る。
牧村「今はみんなウォーミングアップ中なんだ。それまで、少し待っていてくれないか?」
アルノ「……はい。」
そう言いながら、私はカップに入ったお茶をすする。
アルノ「―――熱っ!!」
思ったよりも熱く、猫舌である私にはとても熱く感じた。
「おいおい、大丈夫か?」とトレーナーさんは心配し、その後の暫くの沈黙の間に、トレーナーさんは話を切り出す。
牧村「アルノはさ、レースで走ってどんなウマ娘になりたい?」
アルノ「そ、それは……ちょっと大まかなんですけど……|唯一無二《オンリーワン》のウマ娘になりたいです。過去にも未来にも、同じようなウマ娘が誰一人いない、そんな強くて飛び抜けているようなウマ娘になりたいです!……でも、もう無理かも、って思っちゃって……」
牧村「―――それ、とっても言い夢じゃないか!きっと君ならなれる!夢は言うだけタダなんだから、願い続けていればきっと叶うさ!」
アルノ「本当ですか?!」
牧村「ああ!あ、もうウォーミングアップ終わったかな。ちょっと待ってな。」
そういって、トレーナーさんはソファから立ち上がり、私が入った方―――とは逆の位置にある扉を開け、チームの人たちを呼びに行った。
多分、その扉からの方が、グラウンドに近いのだろう。
どんなウマ娘なんだろう……
すると、暫くしてトレーナーさんがチームのみんなを引き連れてやって来た。
牧村「お待たせ。さ、みんな整列!新しくうちに入った新入部員だ!アルノ、自己紹介。」
アルノ「ア、アルノオンリーワンです!よろしくお願いします……!」
牧村「さ、こっちも左から順に。」
「あたしは、マリーノンタビレです!よろしくお願いします!」
その人は体格がよく、口調もハキハキしていた。薄茶色の髪を後ろで縛っている。
「私は、ブリザードシーでーす♪よろしくお願いします♪」
白いくるくるしたボーイッシュな天然パーマの人だった。おっとりとした口調をしている。
「あたしは、ショートサマーって言います。よろしくー!」
その人はぱっつん前髪の黒髪をショートカットにした明るそうな人だった。
「私は、サンエレクトです。よろしくお願いします。」
小柄な茶髪をポニーテールで結んだ人だった。目はつり目で、気が強そうな感じがする。
牧村「俺のチームは、まあその……結構強いチームでトレセン学園の中では数あるチームの中でありがたいことに毎年“三位”だ。ここにいるマリーはGⅠ三勝。ブリザードやショートもGⅠは一勝ずつで重賞も何勝かしている。まあ、サンはまだ条件クラスだけど……」
サン「いずれ重賞は勝ちますんで!」
牧村「だからまあ、いずれ重賞やGⅠも勝つだろうな……」
私は、唾を飲んだ。こんなにも強いチームでやっていけるのか………
しかし、小さな期待もあった。やはり、このトレーナーさんなら、私の夢を叶えてくれるかもしれない、と。
その日から、私はトレーナーさんにたくさんのことを教わった。
速く走れるコツ、走るときのフォーム、脚質の具体的な走り方など。
やはり、習うより慣れろとはこのことで、授業で先生に教わった様々なことを、実際に走ってみると、瞬時に覚えられた。
そして、月日は経ち、私はチームの先輩たちと並んで走れるくらいにまで成長した。
=====
牧村「おーい、みんなーっ、アルノと一緒に走ってくれないかーっ!」
みんな「はーいっ!」
牧村「じゃあみんな準備はいいなー?」
みんな「はーい!」
牧村「それじゃあ、用意、スタート!」
私の物語は、まだまだ先だ。
これはちょっとした|序章《プロローグ》に過ぎない。
私の本当の物語は―――――
ここからはじまる――――
第一章『トレセン学園入学編』完
-To next 03R-
~キャラ紹介01~
アルノオンリーワン(Aruno Only One)
誕生日…4月19日
身長…154cm
体重…微増(食べ過ぎた)
スリーサイズ…B72W60H83
真面目で優等生気質のウマ娘。内気で人見知りな自分を変えたいと思い、トレセン学園に入学した。大食い。髪は二つ結び。(ツインテールではなく、おさげの位置)前髪の真ん中に流星。
一人称・私
毛色・栗毛
所属寮・美浦寮
イメージカラー・黄