公開中
煙草と手と髪
焦げた紙の先から白煙がのぼり、反対の端を君が咥えてる。じゅうじゅうと煙草を吸ってる。
白いひめやかな指のさきがほんのりあかるくピンク色に染まって、夕日をやどしたように見える。蜂蜜をとじこめた色の目は白煙を追っていて、ふらふらと頼りなく上をめざす。
しらしらと細い髪が背中を包んで、ふっくらと緩く波打ってる。煙草がじゅうじゅうと音を立てて焦げていく。
冬の公園は遊具が冷えてる。
地面からにょっきり生えた滑り台の天辺で君はすらりと立ってる。赤いマフラーを巻いて、うすい細いコートを羽織って、かしりとしたシューズを履いて、とてもすこやかに見える。すこやか、健康、君は健康そのもの。
脂はたまに食べる程度、酒はたまに飲む程度、煙草だけはよく吸うというのだからじゅうぶん健康だと思われる。
君がいっしゅん煙草から口を離して、ふあと大量に息を吐いた。白いひそやかな粒子がきらきらと宇宙に融けて、白煙がいっしょに肺から吐き出された。
煙草、手、髪、順に目で追っていってそのひとつひとつに感嘆する。君はすばらしい、神様が愛してつくった人間だと思う。でも君は僕を見ない。
今は、それでいい。