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12.再び神子光臨
「はぁ。はぁ、ぜぇ、ぜぇ。……着いた!」
響が再び神子として崇められた村に着いたのは、夕方であった。優しい村長は、響に弁当を持たしてくれ、響としては感謝しかない。そして、今回は奪われるようなことはなかったし、魔物で出会うようなこともなかった。
どうやら響は運がいいようだ。それとも始めに魔物に会うことで、悪運は使い切ったのか。何はともあれ、響にとっては非常にいい展開が続いていた。
「みなさーん。」
「神子様!?」
「おーい、ヒビキ様がやってきたぞー!」
「何!?」
「本当だ!ヒビキ様だ。」
ドタドタドタドタ。
「ようこそ、ヒビキ様、して、本日は何の用で?」
「しばらく他の村を転々と移動することにしました。この村にもその途中としてやってきました。」
「そうですか、修行、というわけですね。」
「そうです。」
流石は響。時と場合をちゃんと考えている。いつの間にか、神子の態度で皆に接していた。
「あ、そう。今晩泊りたいんだが、お邪魔してもいいですか?」
「いいですとも!」
「あと、隣の村がどれくらい先にあるのかも知りたい。」
「分かりました、お教えしましょう。」
「馬も一頭欲しいのですが……」
「いいですとも。」
「何か仕事を手伝うから……え?いいのですか?」
「いいですとも、それよりもヒビキ様は本当にうちの村に泊っていただけるのですか?」
「もちろんですよ。」
響は、こんな簡単にうまくいくとは思っていなかった。たしかに、思いつきとしてこの村だったら簡単に馬をくれそうだな、とは思ったものの、やはり馬一頭はかなりの価値をここの昔を真似している集落では必要だから、心配になって、つい、仕事で代用しよう、というのが口をついてしまった。
だが、この村は響の予想を超え、当たり前のようにくれた。
「よーし、皆、ヒビキ様が乗るのにふさわしい馬を用意しろ!」
「「「「はい!」」」」
響、唖然。
そして、次の日の朝、一頭の馬が響の前に連れてこられた。
ちょこん、とその馬は立っている。
「どうですか?ヒビキ様。つい7日ほど前に生まれた、ヒビキ様が乗るのに一番適した馬ですよ。なんて言ったってこの馬の両親は二匹とも足が速い、さらにこの毛並みを見てください!素晴らしいでしょう!それに、この子は生まれたばかりだからまだ名前を付けていないんです!けがれてもいませんし、まさにヒビキ様が乗るのに適している!!この馬だったら、ヒビキ様も誰の手も借りずに乗ることができるでしょう??」
そうでしょ?そうでしょ?とばかりにその馬の子供を自慢してくる村長、そして周りでうんうん頷いている村人。そして、いまもちょこんと立っている馬。
(え?ちょっと待って、子供の馬?いずれ速くなるって?いや、私が速さを欲しいのは今なんだよ――!!しかも、馬の育て方なんて知っているわけないじゃん!さらにさらに、名前も付けてほしい?だと?いい加減にしろや!)
響の心の中はかなり荒れているもよう。だが、表面にはそれを全く出さない響。
「では、あなたにはカグラという私の名字をつけてあげましょう。」
その瞬間、村人がどよめいた。
「なんと……神子様の名字をいただけるなど……両親も鼻が高いでしょうなぁ。」
馬に、そんなことが分かるはずがない。
「なんと素晴らしき名前……俺もいただきたい……!」
これには少し響も引いた。
「ありがとうございました。大切に育てます、また、いつか連れてきますね。」
「ぜひ!」
「何から何までありがとうございました!」
そう言って村を出ていく響の手には、お弁当があった。
(……あ、隣の村の情報聞くの忘れてた……)