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第捌話【城】
血の垂れる音がする。懐かしい血の匂い。私と同じ血の匂い。どこからかする。その近くで鉄の匂いがする。
「逃げられないよ。」
私は誰に言うでもなく、そう呟き、口角をあげた。
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もう随分走った。大勢の人の息づかいが聞こえる場所まで来て、ようやく都市に着いたと気づき、足を止めた。足の裏の皮膚はズタズタで血がこびり付いている。傷だらけの足の裏に少し吐き気をおぼえる。もう追われていない安心感と開放感に、今まで溜まり続けていた疲労が限界を超え、私はその場に倒れた。
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「………大丈夫?」
人の声に私は飛び起き、その人と距離を取る。
「誰!」
私はその人を注意深く観察する。巫女のような服装に先っぽだけ白い黒髪。ルビーのような赤い目は優しい眼差しで私を見ていた。困ったように眉を八の字にする少女。
「私は、サヤ・パンジー。貴方は?」
か細く柔らかいん怯えたような声に、私は警戒心を緩める。
「私は………マドナ・カレンデュラ。」
自分の名前を名乗るのはいつぶりだろうか?最後に名乗ったのは、あの金髪の男性にだろうか。実験の記憶が蘇り、頭痛に襲われる。
「もしかして、貴方もアマラン宗教の犠牲者?」
「あなら………え?なにそれ?」
私の返答に、サヤは信じられないといった表情で私を見る。
「え!?貴方、アマラン宗教を知らないの!?」
サヤの問いに私は頷く。
「もしかして、あの金髪の奴の………?」
「ノルエ様のことね。彼はアマラン宗教の教祖。永遠の命を追い求める、イカれた奴よ。私は奴の実験の《《失敗作》》。」
サヤは自分の髪を摘まむ。指先で擦ると、僅かに白くなった。きっと、染めているのだろう。
「貴方、どこに行くの?」
「知らない。逃げてきた。」
「なら、王都に向かいなさい。」
サヤの赤い目で見つめられ、私は無意識に頷いた。サヤの指差す方を見る。そこには立派な城がそびえ立っていた。私はサヤに向かって頭を下げると、城へ向かって駆け出した。そして、立ち止まった。城の横の搭をジッと見つめる。やはり、視線を感じる。私は搭にいるであろう誰かを睨むと、再び、城へ向かって走り出した。
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「彼女…………リュイナの一族ね。」
私は彼女を観察する。目があった。なるほど、これは"魔"を身に宿して死なないわけだ。
「ふふ………楽しみ。」
最後に笑うのは、誰だろうか。私はしゃがみ込み、壁を背にもたれかかった。