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夕顔
「あっ」
声を漏らす。
6限目の終わりがけ、気づいた。ティッシュがない。ポケットから滑り落ちたのかな。
廊下をたどってみてもないから、やっぱり図書室なのかもしれない。重要度は低いけど、なんとなく罪悪感が蔓延っている。図書室にいくことにした。
1階の突き当りにある図書室に、帰り際行く。図書委員の彼女が、鍵をしめようとしていた。
「あ、待って!」
「え?」
慌てて走って、彼女の手を止める。
「ごめんなさい、ティッシュを落としちゃったのかもで…」
「そうなんだ。あ、これかも」
透明な袋の中の白いティッシュは、無記名でもわたしのものらしい。
「ありがとう。わたし、1年2組の阿部紫です」
「アベユカリ…わたしは1年1組の|藤原美千花《ふじわらみちか》」
フジワラミチカ。藤原…わかんないや。
そう思いながら、図書室をふと眺める。
「あっ、あの子」
指さす。美千花も振り向いた。
「あ、あのお団子」
急いでドアを開ける。楽しそうにページをめくる彼女から目を離さずに。
「あのお団子っ」
ちゃんと見えた。声をかける。
「す、すみませんっ」
「何ですか?」
ページに栞をはさみ、わたしの言葉に応じる。お団子は意外と小さく、目立たない。
「わたし、1年2組の阿部紫です。貴方の名前って何ですか?」
「わたし?|源優華《みなもとゆうか》。2年3組だけど…何?」
ぶっきらぼうではなく、ゆっくり諭すような言い方だった。
「その本って何ですか?」
「ああ、これ?」
古い本で、自分の家から持ってきた、と言い、優華は窓を見た。夕暮れ時になっている。
「わあ、もう帰らなくちゃ」
「あっ、待って」
待てという言葉には、応じなかった。そのまま姿をくらましていた。
「紫…あっ、違う、阿部さん」
「あ…まぁここではいいと思うけど。誰だったんだろうね」
小学生のときの名残で、苗字のところを名前で呼んでしまう。
オレンジ色の光。あれ、夕暮れが早い。でも、時計はちゃあんと夕暮れ時を指し示している。ゆっくりのんびりしすぎたのかもしれない。
「じゃあ、またね」
「うん」
そう言って、靴を履いた。
時間がバグってる