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他愛もない会話
翌日.鐘の音と共に起床し,ホールへ向かった.向かう途中,いろんな人とすれ違った.1号の京と,2号室佳澄.その他,悠楽は眠そうに大あくびをかましたし,カエラは髪がボサボサだった.
京「翔,だったよね?俺,真鍋京.よろしく!」
佳澄「私,藤原佳澄!翔って呼んでいい?」
悠楽「乃木悠楽!キラキラネームじゃろ?父さん昔ヤンキーで」
カエラ「朝早くない?あ,菊池カエラです」
こんなに人に囲まれたのはいじめっ子達以来だ.しかも,いい意味で.一人ひとりが自分を見てくれて,その上暴力も振ってこない.なんだか,心がはずんだ.
翔「東海寺翔...です.」
なんとも照れくさかった.低身長のため,みんなに覗かれながらする自己紹介は.
紫苑「あれ,翔くんが人気者だ」
声のほうを振り向くと,早朝とは思えないさらっさらな髪に爽やかな笑顔がついた紫苑がいた.佳澄は「キャッ」と声を上げ,顔を真っ赤にした.佳澄だけではなく,今部屋を出た由美や菜奈の女子たちが顔を赤らめたり,手で目を覆ったりと,まるでそこにアイドルでもいるかのような(いるんだけど)仕草をとった.
悠楽「紫苑だっけ?どうせならみんなで行こ!」
こうして俺達は京,悠楽,佳澄,カエラ,紫苑,由美,菜奈という大人数とホールへと向かった.
* * *
ホールに入るとすぐさま零を探した.
零は,昨晩何も起こらなかったように昨日と同じくパーカーをすっぽり被っている.ふと水希も見てみるが,こちら側もなんともない顔をしていた.
水希の隣に座るのはなんだか気まずいが,軽く手をふってみた.
翔「お,おはよ水希.昨日は,ありがとう」
...返事はない.もう一度声をかけるのは聞こえていたら迷惑なので,緊張で固まりつつも肘掛け椅子に座った.
* * *
今日は,いや,ここ1週間くらい,とくに目立ったことは何も起こらず,俺は初めて高校生らしい会話を交わした.ほぼ全員と友達になれて,好きなものとか,今流行ってるもの,恋バナ...と,他愛もない会話を俺は最高に楽しんだ.
悠楽「ねぇ,ぶっちゃけ誰がタイプよ」
これは,ここに来てから5日が過ぎようとしていた日の夜.消灯までの時間,女子たちは早く寝るからと去ってしまった後(寝ようとした水希と零は強制的に止められた),男子だけの秘密会議が開かれた.長テーブルではなく,真っ赤なカーペットにあぐらをかいたりして.
悠楽「じゃ,來太からね」
たまたま1番端に足を抱えて座っていた來太は,驚きで目を丸くする.
來太「は?俺から?」
「早く早く」と周りに急かされ,來太は耳を赤らめながらもぼそっと呟いた.その声はあまりにも小さすぎて全員が一斉に聞き返した.
光「え?なんて?」
來太「だから!菊池...」
悠楽「やっぱそうだよな~」
來太の声を聞き逃さまいと静まり返っていたホールが,悠楽の声と共にどっと騒がしくなった.次,次と回っていく.そのたびに一人,また一人とトマトのように赤くなっては顔をうずめた.
そして,回ってきた紫苑のターン.誰もが興味しんしんに目を輝かせながら紫苑を見つめている.
紫苑「うーん,秘密」
その一言で全員の目のハイライトが失われた.「なーんだ」「つまんねー」と次々に声を上げる.紫苑は爽やかな笑顔のまま.
紫苑「俺,ゲイだから」
衝撃発言の連発で俺らの頭は追いつかない.悠楽は空いた口が戻らなくなっている.零も水希も,一瞬ピクッと驚いたようだった.
京「紫苑イケメンだね~堂々と言えちゃうなんて」
紫苑「隠すこともないだろうし」
この中に紫苑の好きな人がいるということを考えただけでもなんだか恥ずかしくなって来ていた.
--- `消灯,消灯` ---
その鐘で俺らは解散した.
朝方,悲鳴が建物をゆらした