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13.娘の脅し
ーコンコン
「娘か?」
「そうです。」
「入れと伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
娘がやってきた。十中八九あの法令のことだろう。どこまで理解しているのか、そして何故私のところまでやってきたのか。楽しみだ。
「執務中失礼します。」
「どうした?」
取り敢えず知らないフリをする。
「お父様に聞きたいことがあって来ました。」
ピクリ。やはりか…。
「なんだ?」
「今日、わたくしは大勢の人に話しかけられ、授業でもあてられ、目立たせられ、大変な迷惑を被ったのですが…お兄様達は何も変わっていませんでした。わたくしは、お父様が媚びを売る人と売らない人を見分けるために何かをしたのかと考えたのですが、違いそうです。お父様、一体何をしたのですか?そして、何故、わたくしだけなのでしょうか?お答えください。」
なるほど…媚びを売る人と売らない人を見分けるために…ねぇ。確かにいいかもしれないな。
「私は何もしていないぞ。なぜ、私がしたと考える?」
完全に嘘だ。
「では、質問を変えましょう。先に言っておきますと、このようなことをしそうなのはお父様だけなのですし、お兄様にもお父様が原因だと確認を取ってはいるのですが…お父様は何か知っていますよね?」
「さぁな。」
もう確認を取っているのか…恐ろしい娘だ。
「あくまで|嘯《うそぶ》くつもりですね?でしたら、わたくしと約束してください。今から十分間、嘘は言わない、と。その代わりわたくしも嘘は言いません。」
何も知らないなら約束できますよね?という目で私を見つめてきた。
なんというか…私は娘のこの目には弱いのだ。クランが私が約束する前提でこんな目をしているのだろうが…。娘の信頼に答えたくなってしまう。
「分かった。約束しよう。」
約束したところで、誤魔化すことは簡単にできる…私はそう思っていた。
「では、質問します。お父様は最後の金曜日から、本日にかけて、何かしましたか?」
できるだけ時間を稼ぐのだ。いくら兄に聞いていようがここで答えてはいけない。
「してない。」と答えようとしたが、口が開かなかった。
「さぁ」
「はい、か、いいえ、でお答えください。」
うぅ…信頼が…辛い。
「はい…」
「何をしましたか?誤魔化しても聞き出すだけです。話された方がいいと思いますよ?」
誤魔化しても聞き出す?どうやって?と思ったが、娘がこんなに自信満々なのだ。何か策があるに違いない
「法令を発布した。」
「それの内容は?」
「…。」
答えられるわけがないだろう!
「沈黙で答えないでください。そうですね…まあ後ろめたいことがまさかあるわけ無いでしょうし、30以内に答え始め、30秒以内で答えられますよね?」
「あぁ。」
やっぱり娘の信頼に…私は…弱い…。
「では、内容をお応えください。」
30秒、何も言わなければいいのだ。ところが、30秒立つ直前に勝手に口が動き出した。せめて、ゆっくり言おうとしたが…時間が来ているのか、早口になってしまった。
「…。公爵令嬢、クラン・ヒマリアの心を開いた者1人に、金貨100枚の報奨をやる。」
「なぜ、そのような法令を?あぁ…早く答えていただいて、時間が余りましたらわたくしもお父様のの質問に答えますわよ?」
なぬ!?そういやクランも嘘はつかないのだったな!これはチャンスだ!急いで答えよう。
「クランが学校に一人でいるから。公爵令嬢として心配になった。」
「なるほど…分かりました。心配してくれてありがとうございます。お父様が沈黙したせいで、もうあと3分くらいしか時間がありませんね。何か質問がありましたら、わたくしも嘘は言えませんし、答えますが?」
何を質問すべきだろう?焦って、逆に何も思いつかない。
「何故、私は今嘘をつけない?」
「それはですね、わたくしと『約束』したからですよ。」
約束したから、嘘をつけなくなった?約束とはそんなに強制力のあるものではなかったはずだ。どういうことだ?
頭の中でぐるぐる考えている間に時間が来てしまった。
「時間ですね。お答えいただき誠にありがとうございました。…お父様、迷惑ですのでそれはなくしていただけませんか?でないと…そうですね。お父様がわたくしに永遠に嘘を言わないことを『約束』してもらいましょうかね?」
それはやめてほしい!
「…分かった!廃止する!」
「そう、それは良かったです。お父様が、わたくしとの約束を破ろうとしたことがあるともわかったので、これからはお父様には注意するようにしておきますわ。」
そう言ってクランはにこりと微笑んだ。
あぁ…そういえばさっきの質問で嘘をつこうとしたことがバレたのか…
娘に脅され、娘の信頼も失った…。
というか…娘に脅された父親…。最低だな。
これからは娘の信頼を取り戻すためにより頑張らないといけないのか。
忙しいなぁ。
思わず現実逃避してしまったのも致し方ないと思う