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悪役令嬢、婚約解消に同意する〜しかしなぜか婚約が解消されていません〜
むらさきざくら 様
長くてよければ、この物語の採用をお願いします。
「カーナ、お前との婚約を解消したい。」
あら?みんなの前で申さなくてもいいの?まあ私は別に構いませんけど。
「分かりました。」
ここは乙女ゲーム、光の子の祝福、の世界。
私がそのことに気付いたのは8歳のとき。突然、何のきっかけもなく思い出した。
そして気付いた。あぁ…私は悪役令嬢カーナに転生したんだって。
だけど、私は何もしなかった。
そう、よくある悪役令嬢に転生して、何もしなかったのに勝手に噂が広まって…というやつそのまんまだった。
そして、今、婚約破棄を言い渡せられた。
けれど…
おかしいな。悪役令嬢カーナはみんなの前で断罪されていた。だけど、今は違う。グレイ王子と二人きりだ。そんなところで婚約破棄したところで、何の意味もないのに。
ってそうじゃなくて、第一王子はヒロインであるアンナにメロメロなはずよね?なんで私と二人きりになろうとするのかな?危険だと思わないの?私はそのアンナに意地悪をしたとされている令嬢だよ?
訳が分からない。
「それで、その他には?」
「いや、何もない。」
??
おかしいよね??
私が断罪されないなんて、どうなっているの?
さらにわけの分からなさは加速するばかりであった。
そして、私は普通の日常に戻った。
・・
そう、普通の。
私が婚約破棄されたことも噂にさえなっていない。
相変わらず私に人は寄り付かないし、嫌われ者のまま。
そして、私が嫌がらせをしたという噂はまだひろがったままだ。
一体なぜ?
そして今までに増してわけの分からなさが加速した。
ヒロインであるアンナの攻略対象者は5人いた。小規模なゲームなのだ。
だけど、一人ひとりの難易度は高かった。
しかし、この世界でヒロイン、アンナは王太子グレイしか攻略していない。あれはゲームで、これが現実世界なのだし、そんなものかもしれない。だけどヒロインが一人だけに絞って攻略したのだ。もう少し王太子にも効いているのではないか?
それなのにアンナは婚約破棄を告げられたあの場所にいなかった。
「分からない…」
そう、グレイ王太子殿下のせいでいろいろ相違が起こっている。
私には関係が無いはずのところで。
そしてヒロインの預かり知れぬと思われるところで。
何がどうなっているのか?
それが全然わからない。
ーそしてさらに1年がたった
・ ・
私は今も普通の日常を送っていた。
そう、一人で過ごし、私の悪い噂は流れ、嫌われたまんま。
はやく断罪されて解放されたかった。
私が何も行動しなかったのには理由がある。
死にたかった。
私は前世で引きこもっていた。人間不信になっていた。
そして、この世界でも人間不信は続いた。
引きこもりたかった。
だけど、それは許されなかった。
恋愛とか今となってみればどうでもいい。
光の子の祝福、も、ただの遊びで始めたゲーム。
そして、一回クリアしたあと捨てたゲーム。
悪役令嬢なのは承知。
そしてよくある話の通りゲームには強制力がある。
だから、私が悪役令嬢という噂が広まった。
私がやっていなくてもそれは広まる。主にヒロインの手によって。
これがお約束の決まり事だと思ったし、実際そうだった。
けれど、はやく断罪されたかった。
こうなったら王太子殿下に直接言ってみよう。
そう思いたち、立ち上がる。
「グレイ王太子殿下はいらっしゃいますか?」
「いるが?何のようだ?」
「お話がありまして。少しお時間いただけないでしょうか?」
「分かっ…」
「やめて!」
「?」
唐突にアンナが声を上げた。というかアンナさん、今に一緒にいたのね。
邪魔してごめんなさいね。
けれど、こうやることでより王太子殿下に私の悪口が広まり、はやく断罪されるのかもしれない、と思うとこのままでいいのだと思う。
「しかし…彼女は一応私の婚約者だ。」
あらら?
貴方の手によってそれは解消されたのでは?
なぜ今もそうなっているのでしょうか?
「寂しいから行かないで。」
アンナは泣き落としにかかった。
「気持ちはありがとう。すぐに戻るから大人しく待っていて。」
「そんな…」
アンナは絶望の表情に変わった。
あぁ、この表情も悪くは無いわね。断罪されたときに仕返しをするのも…悪くは無いかもしれない。
そう思ったりもしたが、それだと生き延びてしまうためやっぱり仕返しはしないことにした。
「それで、何のようだ?」
「お聞きしたいことがありまして…わたくしは婚約解消されたのではないのですか?」
「いいや、してない。」
は?
「ですが、1年前のあのとき、婚約解消を持ちかけられて、わたくしは同意したはずですが…」
「そんなに簡単に王族が婚約解消できるわけがないだろう。しかもあとの人も決まらないうちに。」
「あとの人?アンナさんがなるのではないのですか?」
「あいつは平民だぞ?なれるわけがない。」
あらら?
アンナさんにメロメロなはずよね?そういう者は馬鹿だからそんなことを考える余裕が無いはずだけど…
「しかし光の子の祝福を頂いておりますよね?」
「それが?」
あら?
そういう法律はないの?
ゲームの中ではそういう特例があった気がするんだけど…
「いえ、勘違いでした。」
「ほかには何かあるのか?」
「あると言われればありますが…。では、あのとき婚約解消を持ちかけてきたのはなぜでしょうか?」
「それは…今は答えられない。」
おかしいな。もう少し明朗な答えが返ってくるかと…
「そうですか…それではもうひとつお聞きします。」
「何だ?」
「わたくしはアンナさんに嫌がらせをしているのですよ?なぜこのような場を作ってくださったのですか?」
「そりゃあ婚約者を無下に避けたとなっては王家の恥だ」
「それでは、なぜアンナさんとつるんでいるの?わたくしにとってはそちらのほうが恥に感じるのですが…」
「それは…それも…今は言えない。」
どうしたんだろう?行動が矛盾しているし、ゲームの中では王太子殿下はもっと敵意が剥き出しだった。
わけがわからない。
「ひとまず要件はこれだけです。お時間、ありがとうございました。あと、婚約解消に向けて、よければ積極的になってくださいね?」
「え?婚約解消を望んでいるのか?」
「その通りです。その前にそちらが望まれたことですが。」
「…。また今度。」
また?また会う予定があるの?
はやく離れたいのに。死にたいのに。どうして死なせてくれないんだろう?
まさか!
私がはやく死にたいと思っていることがバレた?
それだったら今のままのほうが罰ぬなるだろうと思って放って置かれてる?
そんなの絶対に嫌だ!
なんとか…何よかしないと。
だけど、何も行動したくない……
そして、さらに年月がたち、卒業パーティーがやってきた。
わたくしは婚約者として王太子殿下にエスコートされることになっている。
「今日はよろしく頼むよ。カーナ。」
「こちらこそよろしく頼みますわ。王太子殿下。ところで、なぜ今も婚約解消がなされていないのかしら?」
無視された。
けれど…なぜこんなに丁寧に扱われているのでしょう?ゲームでは…ってこの前にゲームは終わっていたから知らないか。
それでも、あのままゲームが進んでいたならグレイ王太子殿下はアンナさんをエスコートしていたはず。
なんだか奪ってしまったようで申し訳ないわね。
そして、式は順調に進んだ…
「グレイ!なんで!」
「説明しただろう?婚約者を無下には出来ない、と。」
「だから!今日から私を婚約者にしてくれるんじゃなかったの!?あんなに私をいじめてきたその女をなんで婚約者だからってエスコートするのよ!」
やっとやってきたみたい。
はやく断罪して欲しいな。
「そうだったな。だけど、それはまだだろう?まずはみんなの前で婚約破棄をして、そこから君を婚約者にするはずだったが?」
「グレイ王太子殿下、わたくしは婚約解消でも別に問題ありませんわ。」
「ほら、その女もそう言っているじゃない。」
「ですが、公爵家の令嬢をその女呼ばわりするとは…不敬ですわね。」
「え?」
「その通りだ。今日でお前との関係はなくしたいと思う」
まあ!それはわたくしに向けて言ったの!?
なんて喜ぶことは出来ない。
だって今の言葉は間違いなくアンナさんに言ったものだった。
「は?」
「ここ数年間、ずっとお前には苛ついてきた。平民のくせにそれをわきまえない数々の無礼。そして自分は何をやっても許されるという意識。最後に数々の虚言。だが、それも今日で終わりだ。アンナ、お前は2度と王宮に入ってはいけない。」
「どうして!?私は何も嘘をついていない!」
「嘘ばっかだろう?そこにいるカーナはお前に何もしていない。」
「証拠はあるの!?」
「お前の方こそ証拠はあるのか?」
「それは散々見せたじゃない!あの女の数々の悪行を!」
「その証拠は全部王宮に提出した。カーナは何も関わっていないという結果が帰ってきた。もう出ていけ」
なんということでしょう!
私は死ねないの?
「どうしてあんなことを?」
「そりゃあ苛ついていたからな。」
苛つく?王太子殿下にとってはあれは癒やしのはずだったのだけれど…
「それで、いつ気づいたのですか?」
「お前が婚約解消をすんなり受け取ったときからだ。そんなやつがわざわざいじめるわけがない。」
それはそうかも。
ってそれほとんどの間気付いていたってことじゃ!!
「迷惑ね。」
「そうか?それは済まなかった。」
そうしてパーティーは何事もなかったように終わった。
ざわめきはまだまだ残っていたけど。
王太子殿下は「名役者だ!」などと言われ、評判が上がったそう。
ー 死にたい。
その欲望は日を増すごとに強くなっていた。
あれから私は王宮で王太子殿下妃として過ごしている。
つまらないし、はやく死にたい。
ー いっそ、自殺でもしようかな?
そう思い、バルコニーに立ってみる。
ここから落ちたら死ねるのよね?飛び降りて…
バタンッ!
「カーナ!何をやっている!?」
「何をって…死のうとしているのですよ?見て分かりませんか?」
「分かる!だが死ぬな!」
「…何ででしょうか?わたくしがはやく死にたいと思っているのには王太子殿下もお気づきでは?」
「気付いているが…。あとグレイと呼べ!」
「分かりました、グレイ様。そして何でわたくしの邪魔をするのですか?」
「私は…結婚するならお前がいいと考えている。」
「それはそれは…光栄ですわ。」
「だから、死んでほしくないと思う。」
「そうですか。ですがお断りします。そもそもわたくしがあの噂を消さなかったのはあのままいけば死刑になるのではと考えたからです。それなのにそうじゃないことをされては…」
「許せ。」
「大体王太し…グレイ様はなぜわたくしがよろしいの?」
「カーナは…性格が綺麗だろ」
「そうかしら?今も落ちようとするかもしれませんわよ。」
「それにも何か理由があるのだろう。お願いだ。教えてくれ。」
私に事情がある前提…こんなに心配されるようになったなんておかしいわよね。
「そうですね…」
それでも身分的に今のはお願いと言われても命令同様だ。話すしかなかった。
「まあ端的に申しますと、人間不信になったのです。」
「分かった。では私は君には嘘をつかないと誓おう。」
「…。」
「どうだ。考えてくれないか。」
いえ…やはりおかしいわよね?やはり死にたいわ。私は権力に興味はないの。
「嫌よ。王太子妃なんて…多くの人と関わらなければならないじゃない。」
「だったら、まずは私が信用できると思ったものだけに会える人を制限しよう。」
「これってもしかして、わたくしが何を言っても反論されるのかしら?」
「そうだよ。君は私の相談にのって、子を作ってくれればいいのだ。」
「そうですね…でしたら子ができるまで死ぬのを待ちましょう。」
「本当か!?」
「それならばグレイ様はわたくしが子を産めば死ぬのを邪魔しないと約束してくださる?」
「…分かった。ただ、子供は男だ。そして、それまでに君の意見を変えてみせる。」
それから20年が経過した。
二人は今もまだ元気に生きている。
そして、民衆は…その二人のこの約束を知っていた。グレイ様が広めたのだ。そして、みんなが私に死なないで欲しいと言ってくれた。それが儀礼的なものであろうとも、少しは嬉しかった。
そして、より死ねなくなった。
子供は3人。
男児が一人と女児が2人だ。
ー いつ頃になったら民は私たちのことを忘れてくれるのかな?
そんなことを考えながら、カーナは今日も生きている。