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とある雪の日の話。
※恋愛の話はしてませんが、先代青赤のcp要素はほんの少しだけあります。あと見ようによっては青黄も。ご了承ください。
※そこそこ前から書き始めていたので、前回の熊手メイン回で明かされたことが反映されてなかったりします、
※捏造のオンパレード
二つの世界の、雪の日の話。
前半は陸王視点、後半は先代レオン視点。
『今日未明から断続的に雪が降り続いています。一時間に2.5㎝の積雪が今も続いていて、東京・〇〇区では15㎝の積雪が観測されています。南岸定期圧が本州の南岸を発達しながら通過している模様で______』
小型テレビが見えるようにと敢えて選んだテーブル席で、今日世間を騒がせているニュースを眺めながら陸王は手元のコーヒーに口をつける。
今日のテレビはどの局に切り替えても大して内容は変わらないだろう。
イレギュラーな天気とは反対に、竜儀が挽くコーヒーは今日も変わらず安定した美味しさだ。・・・そう思ったが、どうやら例外ではなかったようだ。
「・・・あれ、なんか今日は柑橘系じゃない?」
そう声を投げかけた先にいた竜儀は嬉しそうに頬を緩めた。
「気づいてくれたか、昨日禽次郎さんと買い出しにいったときに別のものを買ってみたんだ。たまには冒険してみてもいいかと思ってな」
へえ、と呟いた陸王はもうひとたび口に含む。
うん、たしかにいつもより後味の切れがいい。これもなかなかにいいな。
喫茶店らしい会話をした後、二人はまた別々の世界に戻る。ふとしたことで触れ合って、また離れて。それでも同じ空間に二人きりというのは、どこか特別な時間のようだった。毎日のようにみんなでドタバタしているが、こうやって朝から上質な時間を過ごすのも陸王にとっては大切だ。
いつもより静けさに磨きがかかっているのは、きっと降り積もった雪が世間の喧騒を包み込んでくれているからだろう。そうでなくてもここは人通りが少ないから、いつも静かなのだけれど。
「二人はもう起きてるの?」
「禽次郎さんはご学友と共に遊びに出かけてらっしゃる。ああ、あと遠野は__」
「さみぃ~・・・、まだ11月になったばっかじゃなかったのかよ」
噂をすればなんとやら。
ちょうど吠が階段を下りてくるところだった。体を縮こまらせた吠のテンションからして、きっと彼はまだ雪のことを知らないのだろう。
「おはよう吠くん、今日の天気は何か知ってるかい?」
そう言って片手をあげる陸王が履いているブーツを見ればだいたい予想がつきそうなものだが、無論寝起きの彼はそんなものには目を止めない。眉根を寄せたまま歩いてゆき、ウエスタンドアに手をかけて外を見やる。
「んなもん知らねえよ・・・・・・・あ・・・?」
外の景色を見た途端、思考がフリーズしたのか吠の動きが止まる。
数秒後、彼は勢いよく飛び出していった。表情は見えなかったが、きっと喜びで満ち溢れていただろう。勢いのまま、ウエスタンドアが大きく揺れていた。
たしか十数年前にも、これくらいの雪・・・いや、あの時はもっと積もっただろうか、大雪があったような覚えがある。吠はその時にはもう、この世界にはいなかったのかもしれない。
当時陸王は、年頃の少年と同じように目を輝かせていたことが記憶に残っている。至極面倒そうな玲を無理矢理雪遊びに連れ出したことも。
そんなことをぼんやりと考えていると、今度は角乃が両開きのドアをくぐった。
「・・・あんまりここあったかくないわね・・・」
開口一番そんな文句を言った彼女でさえも、どこか口元が緩んでいた。
そんな角乃を竜儀はちらりと見てから言う。
「まず入口がこの形状だからな、外気が入ってきて暖房が効かんのだ。まあ諦めろ。一河、いつものでいいか?」
「ええ、ブラックね」
「・・・先にミルクを入れておくぞ?」
「っちょっと!それは秘密にしてって!」
確認のために竜儀が聞くと、秘密をバラされたように角乃は分かりやすく慌てた。
実際秘密なのかもしれない。角乃は「ハイクラスな朝はブラックに限る」といつも言っているのに、ブラックが飲めない。だからこっそり竜儀にミルクを追加してもらっているのを、当人は隠したいらしいのだから。
「別にいいじゃないの、ミルク入りでも砂糖入りでも」
そう聞いてみると、どこか呆れ顔で返された。
「あのね百夜、人にもこだわりってものがあるの」
それができてないのだから、素直にミルクコーヒーを頼めばいいのに。
そう思ったけれど、口には出さないでおいた。まあ、角乃ちゃんらしいと言えばそうだからね。
角乃はカウンター席に座って、コーヒーを淹れる竜儀の手元を眺める。
「そういえばさっき、子犬みたいな顔した吠とすれ違ったわよ」
思い浮かべて、少し笑ってしまう。たまにする幼い表情は、たしかに子犬そっくりだ。
「吠くんは雪を見るの初めてなんじゃない?そもそも東京だとあんまり降らないし」
「前にも一度大雪があったな。たしか15年前くらいだったか」
そう言ってから竜儀は角乃の前に黒いマグカップを置く。陸王の席からでも白い湯気が見えた。
「なつかしい!たしか緒乙と一緒に雪合戦したわ」
そう言った角乃はかつてを思い出しているようで、楽しそうだった。
今思うときっと、東京での大雪というものは交通機関を滞らせた、どちらかというと迷惑なものだったかもしれない。が、そうだとしても僕ら子供たちにとっては特別な日だったのだ。
あの日は東京中がどこか浮世離れしていた。
そんなことを思い出しながら僕、百夜陸王はコーヒーをすすったのだった。
『今日未明から断続的に雪が降り続いています。一時間に2.5㎝の積雪が今も続いていて、東京・〇〇区では15㎝の積雪が観測されています。南岸定期圧が本州の南岸を発達しながら通過している模様で______』
聞き取れる程度の音量で垂れ流されているニュースを一瞥してから、コーヒーをすする。
俺にとって朝食後のホットコーヒーはいつものルーティーンだった。
この騒々しい東京で落ち着いた一日を始めるのには大切なものである。
・・・まあ、今日はこの天気のお陰でいくらかはましな一日になるだろう。家の中にいてもどこか静かに感じるのは、きっと気のせいだ。
なぜなら、俺はもう耳が特別いいわけでもないのだから。
普段はこんな事など考えないのに__雪のせいだろうか__かつてのことが頭によぎる。俺があの力を持っていたのはもう十何年も前のことだ。
あの日も雪が降っていたな、と思いながら窓の景色を眺める。顔が歪められたのが、自分でも分かった。
あの日。俺が指輪を託したあいつがその後どうなったかを、全てが終わった後に知った。
夢の中でただ、時間が残り少ないからと一方的に事実を述べたテガソードとは、あの日以来話していない。
「なんでっ・・・なんであいつを助けなかったんだよ!!!テガソードッ!!」
そう叫んで見上げたテガソードの顔には、何も表情はなかった。
心底申し訳なさそうな声で謝る奴にどうしようもなく苛立ったことは鮮明に覚えている。
なんでだよ。謝るくらいならあいつを返してくれよ。なんであいつに無理させたんだよ。お前と違ってあいつは___
感傷的な気持ちになっているところで、携帯のアラームが鳴った。
我に返った俺はアラームを止めてから立ち上がる。
今日の俺はどうもおかしい。きっと雪のせいだろう。そんな言い訳にもなっていない言い訳を心の中でしながらマグカップを洗った。
コートを羽織って、外に出る。いまだに着ているパーカーのフードを襟に引っかけてから、もう年だしそろそろこのコーディネートも似合わないかと苦笑した。
アパートの階段を下りながら思う。
このアパートは、あいつと共に過ごした場所ではない。一度引っ越したからだ。理由は特にないはずだったが、今思うと俺はあいつとの記憶から逃げたかったのかもしれない。
全てを__文字通り世界を背負って、俺達の前から消えたあいつから。
逃げたかったのかもしれない。
家を出た時はそこまでではなかったが、どうやら雪が強くなってきたようだ。もう少し天気予報を見るべきだったかと少し後悔しながら、俺は行く当てもなく歩いていた。
今日は日曜日。長い連勤を経てようやくやってきた休みを、俺は散歩に費やすことにしていた。たまには知らない場所まで歩いてみるのもいいだろうと思ったのだが、天気のことも考慮した方が良かったかもしれない。
そんなことを思いながら歩いていた。
ふと道の先を見た瞬間。
世界の時が止まった感覚がした。
見覚えのない、雪に紛れてしまいそうな白いローブを羽織った姿。
だが、その後ろ姿も歩き方も、一度たりとも忘れたことのないそれだった。
「っ真白!!!」
全力で走る。ただ何も考えずに。周囲の人間が振り向くのを目の端で認識したが、そんなことどうだってよかった。
真白、こっちをみてくれ。
ふりむいてくれ。そうして俺に向かって、あの顔で笑いかけてくれ。
その一心で追いかけても、遠い先を歩く真白に中々追いつけない。そうやっている間に何回も曲がり角を曲がって、曲がって、曲がって。
体力が底を尽きてきた頃になんとかもう一つ角を曲がったところで、俺は茫然とした。
そこには俺しかいなかった。
思わず足の力が抜けて、その場に膝をついた。
雪の冷たさに足が包まれる。
当たり前だ。ここに真白がいるわけがない。だって真白は、15年前のあの日に時空の狭間に閉じ込められたのだから。
テガソードが許せなかった。あいつと一緒に世界を救ったくせに、あいつが閉じ込められたのを前に、何もしなかったテガソードが。
あいつは、真白は___人間だ。神は人間を守るものじゃなかったのか。
真白はテガソードに殺されたようなものだ。
でも。
忘れるはずのない事実がもう一つ。
人間である真白に、一人で世界を背負わせた責任は俺にもある。
俺が殺したようなもの、でもあるんだ。
真白が俺の名前を呼ぶ声がする。
「大丈夫か!!」
朦朧とする意識の中で、ああ俺はまだ生きているんだなと思う。
だって真白が死ぬわけがないのだから。真白の声が聞こえているということは、まだ生に繋ぎ止められているということだ。
真白が駆け寄る足音が鮮明に聞こえる。それ以外は、先ほどの戦いが嘘だったかのように何も聞こえなかった。
「お前こそ・・・一回腹に入ってただろ?人の心配なんてしなくていい、」
俺がそういってどうにか顔をあげると、視界には本気で心配そうな顔をした真白がいた。
「なにいってんだ馬鹿、お前はすぐ自分のことを後回しにしすぎなんだよ」
あたりを見回すと、ほとんど空間は壊れていて現実世界に戻りつつあった。きっと親玉ではない厄災たちをほとんど倒したからだろう。厄災がつくったこの空間にもう奴らはいない。この先にある別の空間に、残りの奴らは逃げ込んだようだった。
「なあ、真白」
「・・・なんだよ?」
少し息を整えてから、言う。
「指輪、お前に渡すよ」
発した声が雪に吸い込まれる感覚がした。
真白が何か言う前に続ける。
「お前はあえて触れてないんだろうけど、もうお前以外で指輪を持ってるのは俺だけだよな。ここに俺達以外誰も来ていないのはそういうことだろ。
・・・そして、全ての指輪を集めたら願いが叶うだけじゃなく、実質最強にもなれる」
ようやく状況が呑み込めたようで、真白は目を見開く。
「指輪を、俺に譲るっていうのかよ!?」
「そうだ。そっちの方が指輪の所持数も多いし、それに・・・お前の方が強いだろ。」
それに、に続く言葉が口をついて出る前に変える。
それに、なにより大切で大好きなお前にならこの指輪を渡していい。そう思ったんだ。
・・・そんなこと言えるわけがない。
つくづく弱い自分に呆れるが、だからといってこの性格が改善できる気はしない。
「っでも・・・・・」
それでもなお迷う真白に俺は笑いかける。
言葉に出せない感情も乗せて。
「真白、お前はチャンピオンになるべきなんだ」
それを聞いた真白の動きが止まったような気がして、ふと心配になる。これでは伝えたかったことの欠片も伝わってないのではないだろうか。
そんなことを俺が心配していると、真白が顔をあげる。
真白の口が動く。
「 」
ああ。
____。
そんな、あの日のことを思い出していた。
熱が奪われつつある足は最早冷たさなど感じず、痺れるような感覚がする。
どれくらいここにいたのだろうか。
冷え切った体を温めるかのように、心臓が内側で暴れている。妙に大きく聞こえるのはきっと、他の音がしないからだ。
あの日から俺の人生は随分とゆっくりしたものになってしまった。まあそれなりに楽しいことはあったし、もちろんないがしろにしていい日々ではない。
でも。
やっぱり真白がいない人生を、「良い人生」と形容したくはなかった。
真白がいない世界が当たり前のように回って、時間が過ぎていくことを本当は直視したくなかった。それなのに、この天気のせいで。
あの日の事ばかり思い出す。
過去は過去だ。そう割り切ったつもりでこの15年を生きていて、今もこうやって雪の中から立ち上がって、見ないふりをする。さっきのことが何もなかったかのように。
だってそうしなければ、生きていくことはできないのだから。
歩き出す。
現実は何も変わっていない。ただ、ひたすらに雪が積もっているだけ。
少し歩くと、喫茶店らしきものが見えてきた。
なんとなく足を止める。
顔をあげて上を見ると、看板にそれの名前が記されている。
「喫茶 半世紀」。
意味もなくふと口元を綻ばせる。
何故だかひどく、温かく感じた。
今時珍しい形のドアからちらりと中を覗くと、ずいぶんと空いていそうだった。当たり前だ。こんな雪の中、わざわざ喫茶店に出かける物好きなどそうそういない。
ウエスタンドアを押しながら思う。
あの日、真白はどんな顔をしていたか。
あいつは笑っていた。でもそれは泣いているようにも見えたし、諦念が含まれていたようにも感じられるし、はたまたただ純粋に笑っていただけかもしれない。
流石にそんなことはないだろうとは思うが、確かめるすべはもうない。
ただ、笑顔だった。その事実だけが、俺に残されている。
だから俺の考え方次第なんだろう。
今、ふと思った。
この15年間で、初めてそう思えた。
史上最長の小説になりました。書き終わった衝動で投稿してます。
先代レオンはほんとに幸せになってくれ・・・・・・・・・・・・・。