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#02
繋いだ手を引き、琥珀は走り出す。
「せやな、行こか」
二人の手は、春の優しい日差しの中で、しっかりと繋がれていた。
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少し息を切らしながら公園の小道を駆け抜けると、二人の目の前に大きな桜の木が現れる。満開の桜が、春の風に揺られて花びらを散らしていた。
「うわあ……すごい、簓」
琥珀が立ち止まり、思わず見上げる。
「せやろ?ここ、前々から琥珀に見せたかってん。ええ感じやろ?」
簓は琥珀の隣に並び、いたずらっぽく微笑む。
「うん、すごくきれい。空がピンク色みたいや……」
琥珀は夢見心地で、空を仰ぐ。
桜の花びらが、琥珀の頬にひらりと舞い降りる。簓はそれをそっと指でつまみ、琥珀の髪に飾ってやった。
「あはは、ほんま、絵になるわぁ。桜も琥珀も、どっちも負けへんくらい可愛ええな」
「ッ//もう!やめてや……」
琥珀は照れて俯き、口元を隠す。
「なんや、照れてる顔も可愛いな。な、琥珀。おいで」
簓は琥珀の手を引くと、桜の木の根元に敷かれたベンチに座るよう促した。
並んで腰を下ろし、しばらく二人で無言のまま桜を眺める。
「な、琥珀」
心地よい沈黙を破ったのは、簓の声だった。
「ん?」
琥珀は視線を簓に向ける。
「あのな、俺、琥珀と付き合い始めてから、ほんま毎日楽しいねん」
簓は少し照れくさそうに笑う。
「ふふ、私もだよ。簓と一緒にいると、毎日笑ってばっかりや」
「やろ?俺も、琥珀の笑ってる顔見るのが一番好きや見てるだけでなんかこう、胸ん中がぽかぽかするねん」
簓は琥珀の繋いだ手に、そっと自分の手を重ねた。
「なんか急にどうしたん?簓、真面目やん」
真面目な表情に、琥珀は少しだけ戸惑う。
「せやからな、言いたなってん。あんまりにも可愛くて、愛おしすぎて、どうにかなりそうやねん」
簓は琥珀の目をまっすぐ見つめる。
「簓……」
「俺、琥珀のこと、めっちゃ好きやで。ほんま、心臓が痛なるくらい」
真っ直ぐな言葉に、琥珀は胸が熱くなるのを感じた。顔が熱くなって、また赤くなるのが自分でもわかる。
「ば……か。うちも、好きやもん。簓のこと、大好きやもん」
俯いてそう呟くと、簓はくすぐったそうに笑い、琥珀の頭を優しく撫でた。
「せっかくやし、写真でも撮ろか」
スマホを取り出し、簓は琥珀に顔を寄せる。
「ちょ、近いっ!」
「ええやんか、恋人同士やねんから」
「むぅ……。もう、撮ろ!」
結局、琥珀のぷくっと膨れた頬の横で、簓が満面の笑みを浮かべた写真が残された。
「あはは、この琥珀の顔、おもろいなぁ!」
「もう!簓のせいやん!」
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二人で画面に映る写真を見ながら笑い合っていると、ベンチに座る琥珀の肩に、簓の頭がこてんと乗せられる。
「……簓?」
「……んー、なんか、眠くなってきたわ。琥珀の隣、あったかいし、ええ匂いするし……」
幸せそうに目を閉じた簓の寝顔に、琥珀は胸がきゅんと締め付けられる。
「もう……寝るん?」
「寝てへんて。ただ、このままおってほしいだけや」
少し甘えたような声に、琥珀は愛おしさを覚える。
「……うん、いいよ。ずっといるから」
琥珀はそっと、簓の頭に自分の頭をくっつけた。
「……琥珀、大好きや」
「うちも、簓、大好き……」
桜の花びらが、ひらひらと二人を祝福するように舞い落ちてくる。
二人の間に流れる穏やかな時間は、春の陽だまりのように温かかった。
終