公開中
呪い屋 3
幸せそうな顔、楽しそうな声。舞台の上にいる私にはそれがよく見える。1年に一度のお祭りだからみんなはしゃいでいるんだ。
でも、それをみる私の心は誰よりも冷めていた。
誰が、誰が自分の彼氏..いや、元彼氏と親友が仲良くしているところを見ていて楽しいというんだ。
「|実亜《みあ》さん、舞台上でのその顔はだめですよ。」
すぐ横にいた踊り子、|彩《あや》が小声で囁いた。
「そうだね。ごめん。」
「気持ちはわかりますけど…」
私と元彼の|悠馬《ゆうま》と親友の、|姫奈《ひな》と|彩《あや》だけがこのことを知っている。|彩《あや》は私が振られた、私が|悠馬《ゆうま》の浮気を目撃したところに偶然に合わせたのだ。
「これ、あんたの好きそうな感じじゃん。」
「そうね。るか、さすが。わかってるわね。」
いつの間にか、祭ばやしも騒がしい声も聞こえなくなっていた。
「でも、“呪い屋”のキャッチコピーって憎い相手を殺せる、的な感じだったよね。」
「殺さなくても私の好きな展開になるのよ。」
長い長い金髪をツインテールにして、真っ黒なゴスロリを着た不思議な女の子と、紫がかった髪の毛を片側だけしばった中学生のような女子の二人組だった。
「こんにちは。“呪い屋”出張店です。」
「ただの旅行ついでは、出張店になるの?」
誰も動いていないのに、その子達は少しずつこちらに近づいてくる。
いや、私以外の誰も動いていないんだ。あの二人組がなにかやったのだろうか。
「あんたたち、何をやったの?」
そうすると、かしこまった様子でいった。
「ご挨拶が遅れました。“呪い屋”の店主、アリス・ロペスと申します。以後、お見知りおきを。」
「あっと、店の手伝いをしている|神崎るか《かんざきるか》と言います。」
「私の親友なの。」
そうすると、神崎るかと名乗った人物は心底嫌そうな顔をして
「違うんだけど‥」
といった。
「まあ、それはおいといて…」
アリスはひと呼吸おいてから
「殺したい人間がいるんでしょう?」
といった。
「何言ってるの?」
頭がおかしい子なのだろうか。
「ん?いや、殺したい人間がいるならお手伝いしようと思って。」
「そんなのいない‼」
いない?そんなわけ無い。死ぬほど恨んでるに決まってんじゃん‼
「すっごい言いにくいんですけど、さっきから鬼のような形相ですよ。」
るかが言う。
「お客様にそんなこと言っちゃだめだよ、るか。」
「初対面で殺したい相手がいるんでしょう、って聞くほうがやばいと思うけど。」
「私は仕事だもん。」
「私もバイトだよ。」
ついていけない…
「あ、お客様すみません。それで殺したいのは誰ですか?」
なんかもういいや。こんな子にこんなこと言ったって何も変わんないもん。
「元彼。浮気されて、その現場に偶然に居合わせちゃって、その相手が親友だったの。」
「はい、使いな。」
そういってるかが差し出してきたのは紺色のハンカチだった。
あぁ、泣いてたんだ私。悲しかったんだ。
「復讐、してやりませんか?あなたを裏切った奴らに。」
「できるの?」
「えぇ。」
その時のアリスの顔は悪魔のようだった。
「これは|薊の香水《あざみ 香水》。あざみって報復って言う花言葉を持っているの。」
「この香水、自分にかけて相手の近くへ行くと相手は狂っちゃうの。」
そんな馬鹿な話…
「信じてないでしょう。それなら初回価格で300円のところ200円にまけてあげる。報復、したくない?」
まあ、200円なら。
「買った。」
するとアリスは顔をほころばせて、
「お買い上げ、ありがとうございます。」
と言った。
いつの間にかあの二人は消えていて、私の手には紫色の香水がのっていた。
「|実亜《みあ》さん、どうしたんですか?」
「ん?なんでもないよ?」
「ならいいんですけど。」
しっかり者の|彩《あや》のことだ。きっと私があいつ等を殺そうとしていることに気がついてしまったら…
「絶対にバレないようにしないと。」
「なにか言いました?」
「早く行こ。お祭り、終わっちゃうよ。」
--- ---
しばらく|彩《あや》と屋台を見て回っていると|姫奈《ひな》と|悠馬《ゆうま》を見つけた。
「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくる。」
「あ、ふぁい。」
焼きとうもろこしを口いっぱいに頬張っている|彩《あや》にひと声かけてから席を立つ。
|薊の香水《あざみ こうすい》を自分にかけて二人のもとへ向かう。
「|姫奈《ひな》、|悠馬《ゆうま》。」
ちょうど人から見えない影にいてくれたからありがたい。
「あ、やっほー|実亜《みあ》。」
「お、ひさ。」
あぁ、マジかぁ。もういいや。
「…………」
すると、|姫奈《ひな》も|悠馬《ゆうま》も急に倒れてしまった。
「え、え、待って待って…」
理解が追いつかない。これは|薊の香水《あざみ こうすい》のおかげなの?
嬉しい、のかな?でも、怖い。恐怖しか感じられない。
「|彩《あや》!」
怖かった。助けてほしかった。
「|実亜《みあ》さん!何があったんですか?」
助けて。そう言おうと思った瞬間|彩《あや》が倒れた。
「あ、え、あ…」
そっか、私のせいだ。いまさっき同じ光景を見てきたじゃないか。|薊の香水《あざみ こうすい》のせいで私の近くに来た人は全員倒れるんだ。
じゃあ、もういっか。
大事なものは、|彩《あや》は壊れちゃった。だったら、全部ぜーんぶ壊れちゃえ。
その人の近くに行くだけで勝手に死んでくんだ。簡単でしょ。
「香水、全部かけたらもっと強い効果になるかな?」
頭から全部かける。
「あーあ、やっちゃったね。」
するとそばにるかがいた。
「それ、そんなに大量にかけたら他の人間殺す前に自分も死ぬよ?」
「明日には、ここの人間全員死んで立ち入り禁止になるわね。ここの空気だけで死に至る。」
そんな悪魔たちの声を聞きながら、私の意識は薄れていった
久しぶりだし、荒削り過ぎてやばいです。