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踊る少女とハイヒール
【やっぱり、馴染めないわ。】
今夜は王国の舞踏会。
会場の中は美人な女性ばかり。
その女性と恋に落ちて、一緒に踊ってるハンサムな男性もたくさん。
豪華なお城、華やかなドレス、すてきな音楽。
「憧れて来てみたものの、やっぱり馴染めないわ。」
私の名前はミア・ウィリアムズ。
貴族やお姫様に憧れるただの町娘。
今夜は庶民も参加できる舞踏会が開かれてるの。
せっかく張り切って綺麗なピンクのドレスを着て来たのに踊る相手がいないの。
踊る相手がいなかったら周りが踊っている中一人で外を眺めるだけの悲しいパーティー。
「はぁ。こんな思いするなら来なければよかった。」
(まぁ、そうよね。こんな醜い町娘なんか、誰も相手になんかしないわ。)
「もう帰りましょう。これ以上いたら虚しくてどうにかなっちゃいそう。」
(せっかくなら馬車で帰ってみたかったな…)
そんな願望も叶うはずなく、履き慣れないハイヒールで大きな階段を降りる。
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「大きな庭よね。お城でさえ大きいのに。」
と、独り言を呟きながら石畳の道を歩く。
「あら?」
庭の中心にある大きな噴水に、青いドレスを着た少女が腰掛けている。
その少女は、ぼーっとして、月を眺めていた。
通り過ぎようとも思ったけど、どうしても気になってしまってつい声をかけてしまった。
「あなた、どうしてこんなところで座ってるの?」
私の存在に気づいた少女は、こう答えた。
「舞踏会に憧れて来てみたけど、思ってたのと全然違ったの。全く楽しくないわ。」
その言葉を聞いて、思わず吹き出した。
「ちょっと、どうして笑うのよ。私は真面目に話しているのよ」
「うふふっ、ごめんなさい、わたしと全く同じことを思っていたから。」
「そうなの?まるで奇跡みたい。ここで巡り会えたことも、奇跡かもね。」
少女は可愛らしく笑った。
「隣に座っても良いかしら?」
「えぇ。」
「あなた、名前は?」
少女に尋ねた。
「私はソフィア。」
「私はミア。よろしくね。」
「わたし、両親が貴族なの。まあ、貴族の中でも地位は低い方だけど。」
ソフィアが切り出した。
「え!?じゃあソフィアはお姫様なの?あ、それとも、お嬢様?」
「そんなんじゃないわ。貴族なんて名前だけよ。」
ソフィアは呆れたような顔で言う。
「なんだか現実的ね。」
「あなたこそ。」
「ふふっ」
「「あっははははっ!!」」
ソフィアとは気が合うみたいで、涙が出るくらい笑った。
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「ねぇ、ソフィアは踊ったりしたいとか思わないの?」
私が話すと、
「思うけど、相手はいないわ。」
と返す。
「じゃあ、私と踊りましょうよ!」
「ミアと?私は良いけど…同性だし、そんなことしたら両親がカンカンね。」
「こっそり踊ればバレないわ。それに、素敵な夜に心が通じ合う人と踊るのが夢だったの。」
「…そうね。一日くらい、地位を捨てて自由になりたいわ。一緒に踊りましょう!」
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手と手を合わせ、肩に手を添え、腰に手を添えてもらう。
「よし、いくわよ。」
私が一歩踏み出す。
二人ともずっと一人で練習してきたせいか、初めて二人で踊っても転んだり、つまづくことはなかった。
「123、223…」
履き慣れないハイヒールが奏でるリズムが心地いい。
月夜の下、少し冷えた風に吹かれ優雅にターンをする。
「ねぇ、ソフィア。私、今すごく幸せよ。とっても楽しい!」
「私もよ、ミア。」
「ねぇ、私たち、友達にならない?」
ソフィアの言葉に、わたしはこう返す。
「え?何言ってるのよ」
ソフィアの顔が曇る。
「もう私たちは親友よ。これからも仲良しましょう!」
「ミア!」
ソフィアと思いっきりハグをして、クルクル回って、そのあと二人でひたすらに笑い合った。
こんなに仲良くなれる、運命の人がいるなんて。
【やっぱり、来てよかったわ!】