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**ひとりきりで咲く花じゃない**
月曜の帰り道。
柚子月と蓮は、初めて並んで歩いた。
駅から続く紫陽花の坂道。昔、二人が雨の中で歩いた道。
「この道、まだ覚えてたんですね。」
「忘れませんよ。……私の、初恋ですから。」
蓮は少しだけ顔を赤くして笑った。
「この坂、紫陽花が咲くころだけ、綺麗になるんです。……でも、咲いてるあいだは、みんな“雨の日”なんですよね。」
「……それでも咲くんだね。」
「そう。……ひとりじゃ、咲けない花だから。」
柚子月はその言葉を聞いた瞬間、ふと涙がこぼれそうになった。
“ひとりじゃ、咲けない”。
あのとき、あの傘の下で見上げた花も、
今こうして隣にいる蓮も、ずっと心の中に咲いてた。