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全てあなたの選択です。 No.2
『D棟で、“また”反乱だ。』
そう、廊下から扉越しに伝えてくる。
反乱、というのは囚人達が看守に暴力を与えた事を指す。
反乱が起きた場合、その場で死刑が命じられている。
また、命知らずが動いたのだ。
フィリップは静かに、ソイツの話を聞いた。
どうやら何人かの看守はすでに撃たれたそうだ。
せいぜい看守の拳銃を奪い取ったのだろう。
看守が少ないとなれば、警備が薄くなる。
脱獄も時期に試みるはず。
フィリップは本部に食堂の見張りを要請し、すぐにその場を後にした。
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D棟は、まさに監獄らしいといえる姿だった。
囚人達は興奮した様子で、ここから出せ、と何度も何度も言う。
目の前で看守が倒れているのに、呑気なものだな。
フィリップは亡き同僚のために拳銃を手に取り、息を吸った。
そして、拳銃はけたたましい大きな音を響かせた。
辺りは一瞬して沈黙を得る。
その銃声に、犠牲者はいない。ただの威嚇射撃だ。
フィリップは静かになった廊下を黙って歩き進める。
この先にいるそうだ。奥の方はまだざわついている。
“目的”は何人かの仲間を連れ、逃げる準備をしているようだった。
計6人、そのうちの2人はアンドロイドか。
“奴ら”はフィリップに気づき、すぐに1人の男を引っ張りだす。
最近、ここへ当てられた新人の看守だ。
彼は各棟の責任者ではないため、拳銃を持ち合わせていない。
きっと非力に見られたから、人質という扱いなのだろう。
『それ以上近づくな。近づいたらコイツを撃つ。』
“奴”はそう言って、看守の喉元に拳銃を当てつける。
拳銃があるかないか以前に、新人の看守は怯えて使えそうにもない。
フィリップは拳銃を構えたまま、動かなかった。
その距離からなら、確実に撃てる。
到底近い距離ではなかったが、フィリップの経験上であれば、外す事はそうそうないだろう。
『銃を下ろして、床に置け。』
看守を人質に取る“奴”は、緊迫しているものの冷静に指示を出す。
それでもフィリップは拳銃を構えたまま立つ。
“奴”もそれには焦るように威嚇射撃をして、さらに声を荒げる。
『銃を下ろせ!!!』
次第に、銃を構えたままのフィリップへ銃を向ける。
今度は威嚇射撃ではない。
確かにフィリップに銃を向けたまま、引き金を引く。
だが、フィリップは微かに首を傾け、弾はそのままフィリップの横を通り過ぎた。
その拍子に、フィリップも引き金を引き、“奴”の隣にいた女の囚人の頭を撃ち抜いた。
「まだ、続けますか?」
フィリップのその言葉に奴は頭に血が上ったように激上する。
獣のように言葉にならない叫びを上げながら、もう一度銃を構えた。
しかし、どれだけ引き金を引いても弾は出なかった。
弾切れだ。
廊下で倒れていた看守は合計8名。
弾の使い方が荒く、弾数は12、3発程消費しているとみただけだった。
賭けるなんて、フィリップらしくない。
『クソッッ!!!!クソッッッッッ!!!!!!こんなとこで俺はッ___』
“奴”は女と同様、頭を撃たれて倒れた。
“奴”が倒れると同様に、怯えた様子で見ていたアンドロイドもその場で崩れ落ちる。
持ち主が死ぬとアンドロイドの機能は強制的に停止するからだ。
“奴”のアンドロイドだったのだろう。
停止するのは持ち主の意志を、永遠に生き続ける事の出来るアンドロイドに継がせないため。
フィリップは一瞬、どこか人間らしい顔を見せた後、すぐに人質にされていた看守の元へと歩く。
この人質を撃っていれば良かったものを、何故フィリップに銃を向けたのか。
死んだ後を考えて、犠牲の多い方を選ぶべきではないのか。
理解し難い行為だ。
犯罪を犯した者に、正しい行動も糞もないだろうが。
残された仲間はフィリップが近づいてきた途端にビクリと体が跳ねた。
小動物のようにうずくまって小刻みに震える。
そんな囚人には目もくれず、フィリップの視線は看守に向く。
看守はすでに足を撃たれていたものの、無事のようだった。
「あなたはこの後すぐに怪我の手当てを受けてきて下さい。次第に十字部が来るでしょう。」
フィリップは持っていたハンカチーフを当ててから、やむを得ず自身のシャツの左袖を破り包帯代わりにする。
血はまだ止まった訳ではなかったが、無いよりはマシだと判断したのだろう。
肩を貸しながら看守が歩くのをサポートしてやるフィリップ。
残された仲間は顔を上げる。
自分は殺さないのか、そう聞こうとしたんだろう。
それは声になる事はなく、囚人の喉に弾が通り抜いた。
使い物にならない“ガラクタ”も音を立てて崩れる。
フィリップはそれをしっかりと目で確認してから、拳銃を手にしたままゆっくりと足を前へ動かす。
『こ、殺さなくても良かったのでは…?彼はもう…逃げる気は無かったようでしたよ…?』
先輩が相手でも、看守は自分の意見を言う。
良い人材だ。素直というものだろう。
フィリップは彼に目を合わせる事もなく、口を開いた。
「…命令でしたので。」
足を撃たれた看守を十字部に引き渡し、今回もまた反乱を抑える事が出来た。
フィリップは露わになった自分の腕を見て、どうしようかと少しだけ悩む。
看守の制服であるスーツを上から着ているものの、シャツが破れていては困る。
わざわざ看守用休憩室に戻り、着替えようか迷っているというところだろう。
その時、ふと目の前に人影が立つ。
「…どこにいたのですか?ここはあなたの担当でしょう。」
フィリップがそう言いながら顔を上げると、そこにはフィリップより25cmは高い男がいた。少なくとも、2mはある。
無造作なグレーの髪の上からウシャンカを被った長身の男はどこか面倒くさそうに頭を掻く。
「……ちょっと呼ばれてただけだ。」
切れ長でラベンダーの色をした男の目は、ぶっきらぼうに答えながら、極力フィリップを見ないようにしていた。
「本部にですか?」
「…………。」
フィリップの言葉に、沈黙を生む男。
互いに無表情を安定させていた。
ポーカーフェイスを顔に張り付かせ、両者共に折れやしない。
だが次第に、フィリップの口が開いた。
「…その方達は?」
フィリップの視線は男の足元に向く。
男の足元には、ゴロリと寝転んだ死体が複数あった。
フィリップが撃った者達ではないのは確かだ。
来た時にもこんなものは無かった。
「…お前が向こうに行ってる間に逃げようとしてた奴らだ。たまたま見つけたから殺した。」
男は気だるそうに灰色混じりのため息を吐く。
本当に面倒くさそうだ。
多分出来るだけ早く帰りたいのだろう。
「そうでしたか、ありがとうございます。本部にも、そう伝えておきますね。」
フィリップは抑揚のない淡々とした声を見せる。
男は先程よりも尚嫌そうに眉間にシワを寄せ、
「………いや、やめてくれ。これ以上仕事が増えるのは勘弁だ。」
と頭を振った。
「困ります。私が貢献したものでは無いのですから、報告させて下さい。」
「……ハァ…、命令だと言ったら?」
ふと、男はその言葉を出す。
フィリップの顔は変わらないままだったが、微かに指がピクリと反応した。
「命令とあらば、その命に従いますとも。」
彼が胸に手を当て、深々と頭を下げると男はどこか困ったように頭を掻く。
「…待て待て、お前が彼奴らに忠実なのは分かってるが、俺は本部の人間じゃない。知ってるだろ…?」
事実、一応男はフィリップとは多少立場は違うものの、本部程上の立場では無いのは確かだった。
それでもフィリップは意見を曲げずに口を開く。
「それでも貴方は私よりも先にここにいました。でしたら、私は貴方の命令に従う理由は大いにあります。」
フィリップは変わらず真面目に告げた。
本当に忠実すぎるのだ。しかも真面目なのだから一層どうしようもない。
救いようがない、哀れな人形と言えば聞こえが良い。
だがコレに関しては、一種の馬鹿だ。
忠実に生きる事のみを鍛えられた犬に変わりない。
これには流石に男も頭を抱えた。
「………もう良い。とにかく今はゆっくりしたい。」
「そうでしたか。では、失礼します。」
フィリップは丁寧に頭を下げ、男の横を通り過ぎる。
男も微かに息を吐くだけで何も言わない。
次第に男は、転がった死体を気にせず踏んづけながら、奥の方へと向かっていった。
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「だからってさ、俺の貴重な睡眠時間に呼ぶのは違くない?」
ヴェラはわざわざ仕事中の囚人達の前で皮肉そうに言った。
囚人達が黙々と草むしりをしているにも関わらず。
「あー…そりゃああれっすよ!看守さん以外頼れる人がいなかったんでしょ!」
次第に栗色の髪をしたたれ目の男のアンドロイド、リロルはだるそうにするヴェラを励ますように言った。
後に、リロルは隣にいた黒髪の男に向いて「ね!」と同意を求める。
その男は彼とは対照的なつり目であり、彼の持ち主でもある人間の男、マックは微笑みを返すだけで返事はしなかった。
多分どうでもいいと思ってるんだろう。
「ホントに俺らの使い方が荒いよ、本部は。」
ヴェラはため息を吐く。
囚人にそんな話をした所で、どうしようもないのに。
本部がどうとか、そういうのは彼らには関係ない。
今を生きるためには多分邪魔な人達、という認識程度なんだろう。
「てか喋ってないで仕事してね。」
ふと、自分から話しだしたのにも関わらず、ヴェラは彼に辛辣に返す。
それには流石に沈黙を貫く囚人一同。
反論をする者はいなかった。
それは命を捨てるような行動だから。
皆、いつ殺されるか分からない、そんな状態なのだ。
1つ言うとすれば、B棟の責任者はフィリップのため、ヴェラは拳銃を持っていない。
だが、フェイク用の拳銃は持っている。
弾も入っていない、形だけの拳銃。
囚人になれば、誰が本物の拳銃か分からなくなり混乱するそうだ。
それも面倒な事に、時々フェイクじゃない時もある。
何も信じれない状況に陥るのも仕方がない。
いや、そもそも彼らは看守を信じていない。
囚人から見た看守は“敵”であるから。
物語の勇者が魔王を倒そうとするように、誰もが自分を中心とした考えをする。
それが心理なのだ。
それで当たり前なのだ。
人は皆、平等に醜い生き物なのだから。
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時刻はもう、囚人達が昼食を終えている頃、フィリップはやっと本部から解放された。
何事もなかったように、澄ました顔をしながらB棟へと戻る。
途中、本部の職員達に挨拶をされ、軽く会釈を返した。
彼らも、フィリップより先に本部へと移された。
フィリップよりも後に、ここへ来たにも関わらず。
先日も、本部で良い結果を残したそうだ。
比べ、フィリップは、囚人とは言え今日も人を殺した。
慣れた日常になんの疑問も抱かずに。
もちろん、看守からすればソレは1つの実績だ。
本部から望まれている事であり、大切な事。
だからフィリップは小さく、息を吐いた。
この仕事に、意思なんて必要ないとでも言うように。
黙々と足を進めていると、次第にフィリップは看守用休憩室へと辿り着いた。
そこにはヴェラの姿はなかった。
多分今頃、ヴェラが代わりに見張りをしてくれているだろう。
袖の破れたシャツを替えて、またいつも通り身だしなみを整える。
それ以上の事は何もせず、すぐに拘置所へと向かった。
なんか微妙な切り方で申し訳ないけど、まぁ、いっか!!!!()
途中出てきた謎の高身長の男は、優しくて天才的で神絵師で最高のリア友が作ってくれました…!!!!
マジでありがとう。
2話連続で人殺してるけど、まぁそんな大した語彙力ねぇからグロくないね!!
てか小説にグロいも糞もあんのか…?()
明日ってか今日から3週間程は浮上しなくなるかと思います。
テスト入るんで。
あー…だるいだるい。テスト終わりカラオケ行こっかな…。