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91.…the HappyEnd?or…UnHappyEnd…?
う〜、と声をあげて目の前で転がる鬱陶しい大男を見なかったふりをしながら私は考え込む。
「…」
「悩むとき床転がる癖やめろ太宰」
「視界がすっごく五月蝿いです」
ずっと思っていたことを中也が口にしたからついでに付け加えておいた。
やっぱりそういう癖とかわかるのは長年の付き合いだからだろうか。私も知ってたけど。
ちなみに好きで知っているわけでは全くない。
「大体何がまだ心配なんだよ、そりゃシグマが目覚めない理由はわからねぇが…」
そう小さく汗を浮かべながらこぼした中也にも太宰さんは難しい顔をしたまま答えない。
珍しく額に皺なんて寄せて、おまけに口はむっとへの字に曲げられている。
「シグマ君が目覚めない理由は判ってる」
「は?」
あっけに取られたような中也の表情に思わず私もへ、と声を漏らした。
『情報負荷だ』
曰く、異能で膨大な記憶情報が流入した場合、情報整理のために脳が意識を落とすらしい。
敦くんもそれで暫く意識を失ったとのことだった。
向こうの状況はよくわからないけれども、安吾さんと連絡が取れていた時点では皆無事らしいし、その後このような状況になったということは大丈夫なのだろうと思う。
…何はともあれ、皆無事らしく安心した。
一人脳内で話している横でも、未だ転がっている太宰さんは何かを呟き続けていた。
「…となるとドストエフスキーは記憶を態と読ませた……?何故そんな事を__」
突然。
本当に突然だった。
彼が聡明そうなその瞳を見開いたのは。
--- 「自分の異能を偽装する為か?」 ---
それと同時に勢いよくガバッと起き上がる太宰さんの言葉に私もハッとした。
「…《共喰い》の最後で見せた異能はきっと偽装、ですね__予めナサニエル・ホーソーンの血液弾を仕込んでおいて、触れた兵士に血液を移して体内から破壊させた…」
「…そうだね、けれどあの時私達はあれでドストエフスキーの異能の発動条件が“触れる”ことかもしれないと警戒し、作戦を遠隔中心に立てた。ヘリを落とし、“触れず倒す”ことにしたのもその為だ」
「…なら、本当の発動条件は何だ?」
その時ふと脳裏に、あの恐ろしく迫り来るような笑みが浮かんだ。
パチンと弾けるような音が聞こえたように思った瞬間、私も太宰さんも同時に走り出していた。
「あ!オイ!どこ行きやがるポンツク!桜月まで」
「ドストエフスキーの死体を確認する!!」
今までにないくらいの気迫でそう叫びながらヘリの墜落した場所まで走る太宰さんは__そして今までにないくらい、冷や汗を浮かべていた。
「っはぁ、はぁっ」
炎上に加えて墜落の衝撃で周囲の瓦礫にも相まったそのボロボロのヘリの機体と、そしてその下のドストエフスキーの“ハズ”の死体。
太宰さんが呻き声を上げながら死体を引っ張り出しているのに対して、中也は何をしているのか理解できないといった様子で肘をついてそれを見守っていた。
「珍しいぜ、太宰が汗なんか流してやがる」
息を吐きながらなんとか引っ張り出したその死体。
「ほらな、矢っ張り死んでたろ」
「そうか?」
私が震える手でその肘から下がない死体をひっくり返すと、その顔も表情も、明るみに出た。
「__こいつは誰だ?」
全く見覚えのない、顔の半目に縫い目のような模様があるその人。
冷や汗をさっきにも増して浮かべている太宰さんに言葉を失っている中也。
そして私はそんな中也と同じように口をはくはくとしていた。
「私と脱獄勝負をした時、ドストエフスキーは必死だった_何故なら奴は私にも毒にも殺される訳にはいかなかったからだ」
なんとなくその答えはわかっていた。
「奴は___吸血種に殺される必要があった」
「は?」
太宰さんの言葉に素っ頓狂な声を上げる中也に構わず、彼は話を続けた。
「判ったぞ__奴の企みが全部」
『最悪だ』
「と、とにかく、っ直ぐに乱歩さんに報せないと__っ」
「あ!オイ説明を」
「奴の異能の発動条件は“触れる事“じゃない!」
「発動条件は」
「ドストエフスキーを」
--- 「殺す事だ」 ---
「は!?如何いう事だよ、判るように説明しろ!!」
「ドストエフスキーを殺したのは吸血種でしょ?っでも彼は自分の石で殺したんじゃない__彼はただの操り人形で」
「『その男』の指先だ___ヘリを操縦した吸血主自身は銃や刃物と同じ…道具にすぎない」
つまり、殺意を持ってドストエフスキーを殺したのは___っ
---
暁。
空港には俯いて立つ福沢と血に濡れて倒れる福地の姿があった。
そしてその傍には燁子。ブラムと文に雫とテニエルも。
「我が宿敵……」
表情の見えない福地の倒れた姿を見てブラムは静かに呟いた。
その瞬間、ブラムの体がぴくりと動き、固まった。
「む……?」
---
「死体が別人になった理由__奴が諾々と地球の裏側で投獄されていた理由__」
「導き出される可能性は一つだけ…?」
走る。
今はただ、伝えるために。
「ドストエフスキーの能力は___」
---
「そういう、事か」
「ブラちゃんどしたん?」
「我が姫」
突然、ドンとブラムに突き飛ばされ文は混乱した。
「え」
深く考える間もなく、険しいブラムの表情と共に逃げよという言葉のみが響いた。
「こいつ、真坂」
「本当、最悪だ」
目を見開くテニエルの目の前で吐き捨てるように雫は呟いた。
---
--- 「ドストエフスキーの能力は」 ---
--- 「『自分を殺した人間が次のドストエフスキーになる能力』だ__!」 ---
---
メリメリとブラムの髪や顔が剥がれ落ち、消え、そしてその下から現れた。
___邪悪なその表情。
___周囲のその視線。
--- 「おはようございます」 ---
フョードル・ドストエフスキーはただ粛々とそこに在った。
まるでその存在は悪しきものを一人一人と消してゆく断罪の天使のように。
聖十字剣を構え、一見すると穏やかそのものな全く読めないその瞳で。
茫然自失としていた周囲がハッと気づき、各々が武器を構える。
「おっと、」
それを素早い動きで躱して倒れたままの福地の首元に聖十字剣を突きつけた。
「動かないで下さい、彼を殺しますよ」
はっきりとは見えなかった福地の表情は、瞳は、輪郭を持って見上げる。
「構……うな____討て……!」
その言葉にも動けずにいる燁子や福沢らをみて、福地は尚も言葉を続けた。
「頼む……燁子君、君ならば……!」
ギリ、と歯を食いしばって燁子は動いた。
目にも止まらぬ速さ、で。
「動くのですか、では遠慮なく」
目を閉じたまま、さも楽しそうにドストエフスキーは福地の首の付け根に聖十字剣を突き立てた。
「そして」
くるりと左手で日本刀を構えた。
「駄目だ!!」
傷を押さえながら走ってくる名探偵の姿に福沢はハッとする。
「その剣だけは刺させるな!!」
必死な叫びも間に合わず、ニィと口の端を引いて笑ったドストエフスキーは勢いよく日本刀を_雨御前を福地に突き立てた。
その瞬間、空港内は猛烈な光に包まれた。
--- 「右手なる《聖十字剣ソルズレヴニ》」 ---
--- 「左手なる《神刀・雨御前》」 ---
--- 「二振りの神剣よ」 ---
--- 「ここに奇蹟を顕せ」 ---
今この場には、三つの「究極」が揃ってしまっている。
神が宿るとされている時空剣
異能と人体を融合させ操る聖十字剣
そして
『武器の性能を百倍にする』能力
それらが融合した時
何が起こるか
--- 『三極の特異点』 ---
閃光に目が眩む直前、テニエルが見たのは福沢が文を庇う姿と__雫が静かにパタリと倒れる姿だった。
わかる人にはわかる。
断罪の天使。
あの舞台の話を喩えに入れてみたくて使ってみました。
絶対あそこ伏線に回ってくるよね、異能者の話も入ってるし。
名探偵誕生大好き。
でもほんと入社試験前夜の話好き。
遅くなってほんとすみません。