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朱色の彼は嫉妬する 。
<あてんしょん>
・学パロ
・朱色組しか出てこない
・モブ女が登場します
「────ねぇ、いのこくん」
昼休みのことだった。
窓の外をぼんやりと眺めていた俺に、二人組の女子たちが俺のもとにやって来た。
「ん、何?」
たしか、隣のクラスの…と名前を思い出しながら、伸びた前髪のせいで不明瞭な視界に彼女の姿を映す。
俺に話しかけてきた少女の方はそわそわとした様子で、付き添いらしい少女はにやにやとしながら、そんな彼女の少し後ろに立っている。
「あの…いのこくんって、パランパくんとよく一緒にいるよね」
「え?まぁ、そうだけど…それが?」
突然の質問に首をかしげると、少女はその先の言葉に詰まった。もじもじとし出した彼女を、付き添いの少女がツンツンとつつく。それで何か覚悟が決まったのか、一度うつむいていた彼女はガバッと顔を上げた。
そして、目を少しうるませながら、
「…パランパくんって、好きな人いるのかな…?」
と、告げた。
「……えっ…?」
たしかに一瞬、俺の中で時が止まった。
ぐらりと、均衡感覚が崩れていく。
「その…私、パランパくんのことが…す、好きで…っ!!」
握られた少女の拳が小さく震えている。人間ってこんなに真っ赤になれるんだという場違いなことを思ってしまうくらい、彼女は顔を赤らめていた。
それと反比例するように、俺の顔は白くなっていく。
だって。
俺は、あいつのことが。
パランパのことが────。
「その…いつも一緒にいるし、いのこくんなら何か分かるかなって思って…」
俺の内心に気づくわけもなく、純粋な瞳で少女は言う。
直接心臓を掴まれたかのような感覚に、なんだか苦しくなる。
それでも平静を装い、俺は必死に言葉を紡いだ。顔を隠せるこの前髪が唯一の救いだった。
「…多分、いないんじゃない?」
「そっかぁ…ありがとう、いのこくん」
「ほら、やっぱ私の読み通りじゃん。パランパくんモテてそうだし、早く告っちゃえば?」
安堵したように笑う彼女の横で、付き添いの少女が口を出す。途端に、少女はあわあわとし始めた。どうやら表情豊かな子らしい。
「ま、まだ早いよ…!!」
「え~、でもあんたらイイ感じじゃん」
その言葉に、胸が締め付けられる。
……苦しい。
これ以上、聞きたくない。
そんな俺の気持ちに応えるかのように、救いの鐘が鳴った。授業開始5分前を知らせるチャイムだった。
少女二人はハッと顔を見合わせ、口々にお礼を言って去っていく。
そこでようやく、俺は自分が息を止めていたことに気が付いた。
ゆっくりと、肺に溜まった空気を吐き出す。
それでも、胸のつっかえは取れなかった。
▷▶▷
「…どしたん?今日は元気あらへんな」
放課後。
いつもの待ち合わせ場所である昇降口にやって来るなり、パランパはそう言った。毎日顔を合わせているから、パランパは俺のちょっとした変化にすぐ気付く。
(……今日だけは、気付かないでほしかったのに)
「…別に、なんでもあらへんよ」
「そんなことないやろ」
ぶっきらぼうに俺は答える。
そんな俺を、パランパは不審そうな目で見る。
「だってほら、今だって目合わせてくれへんやん」
そう言って、 パランパが俺の顔を覗き込もうとしてきた。ふいっ、と俺は思わずそっぽを向く。そんな俺の様子を見て、やっぱり何かあったやろとパランパがさらに詰め寄ってきた。さらさらとした髪から、スカした香りが漂ってくる。
……もういっそ、聞いてしまおうか。
元気のない俺への心配と、悩みを相談してくれないことに対する不満とを顔に滲ませたパランパを見ながら、俺はふと、そんなことを思った。
「……パランパってさ」
何気なく言おうと思った言葉は、情けないほどに震えていた。
それでも、俺はその先を続ける。
知りたくなかったけど、知りたかったから。
「────好きな人、いるの?」
一瞬、豆鉄砲をくらった鳩みたいな顔をして。
それから、パランパはキュッと口を結んだ。
そして。
「────おる」
どくり、と嫌な音を立てて心臓が跳ねる。
「……って言ったら、どうする?」
「っ、…え…?」
「……なぁに泣きそうな顔しとんの。お前は笑ってる方がお似合いやで」
そう言って、パランパはくしゃっと俺の頭を撫でた。
「…何かあったん?」
「……パランパには関係…」
「あるやろ」
若干強い口調で言葉を遮られる。
散々迷った後、俺は言葉を濁しながら、
「……パランパが好きって言ってる女がおったから、俺、邪魔なんじゃないかって心配になって…」
と、消え入りそうな声で言った。
俺もパランパのことが好き、とは伝えなかった。
いや……拒絶されるのが怖くて、言えなかった。
俺の言葉を聞いたパランパは少しの間目を丸くした後、大きくため息をついた。反射的に体が強ばる。
「あのなぁ…」
ようやくパランパは口を開いた。薄く開かれた瞳からは、思わず見惚れてしまいそうなほど綺麗な赤色が覗いている。
そしてパランパは、ずいっと掴んでいた俺の腕を引っ張った。
突然のことに反応が遅れ、俺とパランパの顔が至近距離まで近づく。
それから。
パランパは、優しい俺の前髪をかき分け。
────そっと、俺の額に口づけをした。
「……ぅぇ…っ……?!」
「ははっw 可愛い顔するなぁ、いのこ」
慌てて俺が距離をとれば、元凶はスカしながら笑う。普段動いているかもわからない心臓が、今は爆発してしまうんじゃないかと心配になるくらい激しく音を立てていた。
「な、なんで……」
「だって、いのこがわかってへんみたいやったから」
妖艶な笑みが、傀儡の口元に浮かぶ。
「────俺は、お前以外に興味あらへんって」
今度こそ、心臓が破裂してしまうかと思った。
耳まで真っ赤に染まり上がった俺を、パランパは愛おしそうに見つめている。
「っ…パランパのばか…」
「お前に言われたくないわ」
言葉とは裏腹に、パランパの声は柔らかかった。これ以上目を合わせていられなくなって、俺はパランパの硬い胸板に顔をうずめる。途端に、名前も分からない香水の香りがふわっと鼻腔をくすぐった。
「…帰りにどっか寄ろか?」
「……寄る」
くぐもった声で俺が答えると、パランパが満足そうに笑う気配を感じた。
▷▶▷
そして俺たちは、二人で昇降口を出た。
夕暮れの空がやけに綺麗だった。わざとなのか、パランパが俺の隣をぴったりとくっついて歩くせいで、感動する余裕は無かったけど。
「っ……」
肩がときどき俺の肩に触れる。
そのたびに、まだ胸の奥がくすぐったくなる。
俺はずっと、怖かった。
こいつの隣にいる資格なんてないんじゃないかって。
いつか誰かに奪われてしまうんじゃないかって。
でも。
「……なぁ、いのこ」
「ん?」
「明日も一緒に帰ろな」
なんでもないように笑うパランパを、俺は朱色の瞳で見つめる。
「────うん」
今度は、ちゃんと目を合わせて笑えた。
夕焼けに染まった帰り道。
繋がれた手のひらが、少しだけ熱かった。