公開中
10話
城での生活にも少しずつ慣れてきた頃、朝の光が窓から差し込むと、二人はもう自然に私のそばにいた。
末日は小さな布切れを手に取り、机の上で手先を動かしている。加楓は床に座り、足元に広げた絵本を静かに眺めていた。
「……彩音さん、見て。こうすると模様が変わるんだよ。」末日が笑顔で差し出すその布には、微妙に色の違う糸で編まれた小さな模様があった。
私は微笑みながら覗き込む。「わぁ、本当に上手ね。すごいわ、末日。」
加楓も顔を上げて、「僕も見てよ!」と言わんばかりに絵本をこちらに差し出す。ページの中の色鮮やかな絵に、私は一緒になって目を細める。
「うん、素敵ね。二人とも、こんなに自由に楽しめるようになったんだね。」
二人は私の言葉に少し照れたように微笑む。その表情は、城での生活の中で初めて見せる自然な顔だった。
末日は私の膝に軽く頭をもたれかけ、加楓は足元で小さく体を丸める。
「ねぇ、彩音さん……一緒にやろうよ。」末日がにこにこして手を伸ばしてくる。
私はその手を取って、二人と一緒に布や絵本を囲む。
その時間は静かで、でも確かな温かさに満ちていた。
「もう、ここが家みたい……」加楓がぽつりと言った。その声は小さいけれど、確かに私の胸に響いた。
「そうね。ここは二人の居場所よ。」私は優しく微笑み返す。
窓の外では城下町の音が柔らかく届く。赤い提灯が揺れる音、通りすがる人々の笑い声、遠くで鳴く鳥の声。
その全てが、今この瞬間の穏やかさを強調しているようだった。
数日前にはまだ緊張していた二人が、今ではありのままの姿で笑い、甘え、遊んでいる。
私は静かにその光景を眺め、心の中で小さくつぶやいた。
(これが、本当の安心なんだな……)
二人の小さな手の温もり、柔らかな声、穏やかな笑顔。
城の一室に広がるその時間が、これからの毎日を少しずつ変えていくのだと、私は確信した。